こんな夢を観た「もやし少年が様変わりする」

　町中で、中学の時の同級生とばったり会う。卒業以来だ。

　とはいえ、初めは誰だかわからなかった。

「よっ、久しぶり」先に声を掛けてきたのは同級生の方だった。

「はい？」ちょっとびっくりして、相手をじっと眺める。

「おれだよ、おれっ」彼は自分の顔をしきりに指さす。

　とっさに、今はやりの「オレオレ詐欺」かと警戒してしまう。

「あの、どなたでしたっけ？」わたしは用心深く尋ねる。

「なんだよ……本当にわからないのか」困ったような顔で肩をすくめる。そのしぐさを見て、あっと思い出した。クラスにいた、あのひょろっとした大人しい人物。体が弱くて、体育はいつも見学していたし、学校も休みがちだった。そいつはいつも、泣き笑いのような顔で肩をすくめるのが癖だった。

「なんだ、永沢君かっ。早く言いなよ！」

　ずっと会わなかったからといって、顔を忘れていたわけではない。当時とはすっかり様変わりしていたのである。

　かつての永沢君は、食事ももらっていないんじゃないかというくらい、ガリガリだった。日陰で育ったもやしそっくりなので、あだ名もそのまま「もやし」。

　それがどうだろう。今、わたしの目の前にいる彼は、筋骨隆々、身長も倍くらいある。

　ん？　待てよ。さっきまでわたしとあまり違わなかったはず。いつの間にそんなに伸びたんだ？

「どうした？　ああ、おれの背のことか」友人はわたしを見下ろしながら笑った。「おれ、ときどき成長期だからさ。急に背が伸びちゃうことがあるんだ。変だろ、笑っていいぜ」

「ふうん、そうだったんだ。てっきり、目の錯覚かと思っちゃった」

「うん、よく言われる」

　彼は今、道路公団で働いているという。トンネル工事を１人で任されているそうだ。

　わたしは驚いた。

「すごいな。大変なんだろうね、その仕事」

　すでに５メートルは超えているため、はるか頭上から声が降ってくる。

「いやあ、それほどじゃないさ。おれにはそれしか特技がないから」

　とんでもない。そんな必殺技なら、１つあれば十分すぎる。

　現場がすぐ近くだというので、一緒に行くことにした。

　大きな岩山で、貫通すれば日本一長いトンネルになるという。

　彼はバリバリッと上着を引きちぎった。そのたくましい筋肉だけで。自分の頭ほどもある力こぶがボコンと盛り上がる。まるで、超人ハルクだ。

「じゃあ掘るから、ちょっと離れててなっ」そう言うなり、粘土でもえぐるように、岩をざくざくと堀り始めた。

　あのもやしが、よくここまで育ったものだ。わたしは感心して、ただ見守るのだった。

「そのうち、ペンタゴンあたりからオファーが来るかもしれないね」わたしが言うと、つと手を止めて頭を掻いた。

「そうかなあ。悪くは……悪くもないな、それ……」

　トンネルは、あと１月ほどで貫通するそうだ。