【二十五章】大団円?
眩しさに目が覚める──というのは何度目だろう。
アイラの意識は柔らかに差し込む日差しによって浮上した。
そして意識が戻ると同時に身体がばらばらになりそうなほどの痛みに襲われた。
「ったーい!」
という声さえも痛みを増長させる原因となり、アイラは痛みから逃れようとして身悶えようとしたが、力を入れようとしただけでも痛い。
なんだこの痛み。
まるで一度、身体が粉々になって無理矢理再生させられたかのような痛み。
……粉々になった?
アイラはうっすらと思い出した。
ユリウスに殺すのを許せと言われたような……。
それをきっかけにして、アイラは思い出した。
時の狭間というところにいっていて、そこでアイラは両親に会った。
……会ったけれど。
ちょっと……どころかかなりいろんなところが規格外というか、外れすぎているというか。
無邪気、といえば聞こえはいい……かもしれないけれど、なんというか、それさえからも外れていて、知らない方が良かったと後悔する。次元が違いすぎて話にならない。
きっとあそこにずっとふたりでいたのだろう。そうして人間の身勝手なところばかり見ていて、タガが外れたというか、いさめる人がいなくて暴走してしまったのだろう。
……そう思いたかった。
そう思わないと、悲しい。
鈍痛が定期的に襲ってくる中、アイラは思い出した。
ユリウスの気配がないけれど、どうしたのだろうか。
この部屋はユリウスの部屋だけど、主がいるように見えない。
しかしアイラを救出するためにユリウスがアイラを殺したのだとしたら、今までのことを考えるとユリウスの存在は最初からなかったことになっている可能性が高い。
いくらアイラを助けるためといっても自分の存在がなくなってしまったら意味がないのではないだろうか。
……いや、それはなさそうだ。
ユリウスが存在しない世界になっていたら、この部屋もないはずだ。
アイラの記憶の中にあるユリウスの部屋と同じだし、記憶の中にあるユリウスの匂いが染み着いた布団にくるまれているから、ユリウスは生きている。
そう結論を出したところに扉が叩かれた。
「アイラ、入るぞ」
変わらないユリウスの声にアイラはなぜか泣きそうになった。
やはり生きていた──!
そのことにアイラは涙ぐみそうになったが、入ってきた人を見て固まった。
「あー、やっぱり起きてたか」
入ってきたのは茶色い髪の毛ではなくてアイラと同じ金色の髪のユリウス。
茶色の髪の時はあまり思わなかったけど、金色の髪だと派手な顔と相まってなんというか、軽い。
「身体、痛いよな?」
「ぅ……師匠? ──った」
「無理してしゃべるな。かなり力の加減を間違って、時の狭間とかいうところを粉々に砕いちゃって、こっぴどく怒られた」
「ぅー?」
「痛いよな? ちょっと待て」
ユリウスは手に何かを持っていて、それを近くの棚に置くと寝台の横に立った。
「よっと」
ユリウスはアイラを掛け布団ごと引き寄せて抱き上げると、寝台に腰掛けた。
アイラはユリウスの膝の上に抱かれている格好だ。
「喉、乾いてるだろう?」
言われてみればそうだったので小さくうなずくと先ほど棚に置いたなにかを手に取った。
「飲めるか?」
口元に持ってこられたそれからはほんのりと甘い匂いがした。口を付けてゆっくり飲むと、とろりとした甘い液体だった。
時間をかけてアイラはそれを飲み干した。
「さて。説明しても大丈夫か?」
アイラが小さくうなずいたのを確認したユリウスは、口を開いた。
「アイラはどこまで覚えている?」
「あ……の、金色の獣に飲み込まれたところまで、です」
「ふむ。であの後、アイラを取り戻すためにちょっとやんちゃした」
「やんちゃって……」
「力の加減を間違ったというのもあるけど、どうもあそこ、何度も秩序を壊していたからもろくなってたみたいなんだ」
「秩序を……?」
「そもそもあそこは選択されなかった未来が行き着く場所なんだ。故に時の狭間と言われていた」
「はい」
「でまあ、選択されなかった未来はあそこにたまり続けることになるわけだが、そうなるといつかは入りきれなくなって破裂するから、時の処理人と言われるあの金色の獣が食っていたわけだ」
「ひたすら食べるだけですか?」
「うん。食べて、消化されたらまた新たな未来のひとつの選択肢になって時の流れに乗っていく」
「そんな仕組みだったのですね」
「そう。綺麗に循環されていたんだ」
「でも……」
「時全般を見守っていた時の女神があの金の獣を見つけて……」
「恋をしたのでしょうか」
「まあ、人間基準だとそう表現していいのかもしれないな」
「時の女神の物語みたいですね」
「お互いが一目惚れしたと?」
「はい」
「……まあ、そうしておこう」
「違うのですか?」
「いやまあ、本人ではないから分からないけど、そんな甘いものだったのかねぇ?」
「…………」
「ああ、すまん。アイラの両親だもんな。愛がなかったら辛いよな」
「そういうわけではないですけど」
「まあ、そんなこんなで時の女神は自分の仕事を忘れ、金色の獣のそばにずっといたわけだ。そして時は少しずつ歪み……結果、俺がぶち壊して怒られた、と」
「怒られたってだれにですか?」
「お、鋭いな」
「だって師匠、時の女神に言われてもどこ吹く風だったではないですか」
「いやまあ、見た目がアイラとほぼ一緒だから怒られても……って、いだだだっ」
「どの口がそんなことをっ!」
「ん……。お、動けるようになってきたか?」
「え……あ、そうですね」
「いやまあ、時の女神は世間知らずだからアイラよりも簡単だったな」
「……そうですか」
「問題なのはぶち壊した後に出てきた『偉大なる母』でだな」
「……『偉大なる母』とはだれですか?」
「この世界の創造主その一?」
「その二やその三がいるのですか?」
「いるらしい。過去、現在、未来を司る三姉妹で、今回、話したのは未来の『偉大なる母』」
「想像以上の人が出てきましたね」
「まあ、それだけ今回のことは実は大事だったということだ」
「の割にはこぢんまりしている感じがします」
「それくらいでちょうどいいんだよ。世界を巻き込んでとかだといろいろと大変だ」
「そういうものですか?」
「そーいうものだ」
「それで、その方とはなにを話したのですか」
「いやまあ……こっちもなんというか、お粗末というかのんびりしてるというか、三姉妹がくだらないことで言い合いをしているほんのちょっと目を離した隙に起こった不始末だったと」
「ほ、ほんのちょっと、なのですか」
「あの人たちにしてみれば、何百年はほんのちょっとだろう」
「規模が違いますね」
「違いすぎて気が遠くなる」
「それでも」
「うん」
「時の女神とあの金色の獣にとってはとても長い時間だったということでしょうか」
「んー。見ている先の違いじゃないかな」
「……と申しますと?」
「三姉妹は全体を見ていたが、時の女神と金色の獣は俺たち人間のせせこましい細々したところを点で見ていた」
「不思議です」
「ああ、不思議だな。時の流れはだれにだって一緒なのに。ただ、その人の置かれた状況によって長く感じたり短く感じたりするだけだ」
「でも、人間とあの人たちでは持っている時の長さが違います」
「寿命ってヤツか」
「はい」
「まあ、違うな」
「……わたしはその、時の女神の娘ということは、人間ではないってことですよね」
「そうなるな」
「ということは、やっぱりユリウスと持っている時間の長さが違うのでしょうか」
「そうだな」
「……わたしはまた、ユリウスとの永遠の別れを体験しなければ──」
「あー、泣くなよ」
「だって」
「んー、そうやって泣かれると、困るな」
「ユリウスが死んだらまた、時を戻します」
「いやいや、ちょっと待て。私物化するな」
「ユリウスが死んだ時点で世界は終わりですから、元に戻します」
「……なんでおまえまで時の女神みたいなことを言ってるんだ」
「だって駄目です。ユリウスがいない世界なんて」
「なんだよそれ、俺は今、告白されてるのか?」
「……どうなのでしょうか」
「おい」
「分からないのですよ。わたしはユリウスのことが好きなのかどうか。でも、ユリウスがいない世界は辛かったから、もう嫌なのです」
「えーっと、まず、話を無理矢理元に戻すが」
「強引ですね」
「俺、アイラを救うために時の狭間をぶち壊して、時の女神と金色の獣、そして金色の獣の中にいたアイラに攻撃を加えて殺してしまったのだよ」
「わたしはともかくとして、時の女神と金色の獣はそんなに簡単に死ぬものなのですか」
「どうなんだろうな? まあ、攻撃したのは俺の力だけではなくて選択されなかった未来になったはずのあれらも合わせてだから、本来の俺の力以上だったってのも影響があるかもな」
「……なんだかずいぶんとでたらめというか、いい加減というか」
「まあ、『終わりよければすべてよし』なんだよ」
「どうにかなったからよかったですけど」
「それがなあ、まあ、実は問題がいくつかあるんだ」
「なにでしょうか」
「時の女神と金色の獣──時の処理人だな、を殺したせいで俺、呪いを受けてしまったんだよ」
「の……呪いっ?」
「そ。そのせいでこんな金髪になっちゃうし、死ななくなっちまうし」
「死なない……?」
「そうなんだよ。死なないというとちょっと違うんだけど、時を止められてしまったに近いのかな?」
「え……?」
「まあ、時を司る二人に刃向かったどころか殺しちゃったんだもんなあ。それでこれで済んだのだからかなりマシだと思うよ」
「それで……その。わたしが時を戻してもその呪いは」
「なかったことにはならないと『偉大なる母』に言われたよ」
「ということは、今は時が戻って……」
「王のところに行く前だ」
「行きますか?」
「行けるか?」
「ちょっと身体は痛みますけど、行って確かめたいです」
「ん、分かった」




