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何度だって甦る~伝説のパラドックス~  作者: 倉永さな


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【二十四章】世界の終焉?

 少し離れた場所にユリウスがいた。しかし顔色は妙に悪く、苦しいのか肩で息をしているようだった。


「師匠?」

「あー、なんだここ? それにあんたはまつりの日に会った人」

「あら、気がついたの」

「残念ながら?」


 いつものような軽口なのにキレがない。


「たかが人間のくせによくここに来られたわね」

「おかげさまで」

「師匠、顔色が悪いですけど、大丈夫ですか」

「だいじょーぶではないけど、気合いでどうにか乗り切る」

「無理をしないでください……っ」

「アイラ? おいっ、泣くなって!」

「ユリウスが死んだら、わたし……」

「そこの性悪な人が簡単には死なせてくれなさそうだから大丈夫じゃないか?」

「あら、今すぐ死にたいの? 殺してあげましょうか? ……と言いたいところなんだけど、ここで死なれると困るの」

「──な?」


 ユリウスは立ち上がろうと片膝を立てたが思うように身体に力が入らなくてそのままの体勢で肩で息をした。

 なにかよく分からないが、とにかくこの空間は妙に消耗する。身体に力が入らないし、横になって眠りたくなる。

 その衝動と必死にあらがい、ユリウスはアイラと時の女神を見た。

 色と髪型が違うだけで、後はそっくりそのまま。

 ──ということは。


「……胸も残念仕様なのか」

「少女のような若々しい見た目って言えないのかしら」

「俺、別に幼女が好きなわけではないからそこはどうでもいいな。だからアイラの胸は俺が育てる!」

「あの……師匠?」

「……という冗談はさておき。さっきの話がすべて本当ならば、あんたたちは最低だな」

「最低ではないわ。私たちは私たちの理で決められた範囲内でやってることよ。あなたたち人間からしたら常識外れかもしれないけれど、私たちにすれば常識の範囲内よ」

「さっきから聞いていれば理から外れてないだとか、私たちの常識範囲内だとか言ってるが、いくら人間とあんたたちと常識の尺度が違ったとしても、アイラが何度も死ぬのはどちらに当てはめても常識的だとは思えないがそこはどうなんだ」

「死なないのだからいいのよ」

「……ひでぇな」


 死ななければ痛くてもなんでもいいなんて、そんなの間違っている。

 だけどそれはこの女性にいくら言っても伝わらないようだ。


「……アイラはおまえの実の娘なんだろう?」

「ええ、そうよ。私が産んだわ」

「狂ってないか? その変な金色の獣のために娘を何度も殺して生き返らせるなんて」

「だって仕方がないでしょう? こうしないと世界が滅びるの・・・・・・・

「見ていて辛くなかったのか! 実の娘だろうっ!」

「辛かったと言えばあなたは満足?」

「……娘より世界を取ったと」

「時の女神として正しい選択よね」

「……アイラが生まれる前はどうしていたんだ」

「この時の狭間に流れてくる必要なくなった未来を食べていたわ」

「それで充分じゃないか」

「でもそれっておかしいと思わない? 世界が要らないって言ったものを私たちが処理しないといけないなんて」

「それがおまえたちに与えられた理、なんだろう?」

「ふふ、あなた、話が早いわね。そうよ、それが私たちに与えられた理、よ」

「どうしてそれをしない?」

「しているじゃない。だけどね、ここにいればどれだけ人間が自分勝手か分かるわよ」

「知っている」

「それならば、私たちも理の範囲内で好き勝手したっていいじゃない」

「だからってアイラを犠牲にするのは間違っているだろう!」

「間違っていないわ。だってアイラは私たちの娘よ。私たちが理を守るために産まれてきたんですもの」

「違うだろう! アイラはおまえたちの勝手にされるために産まれてきたわけではない!」

「それなら、どうして産まれてきたの?」

「俺のためだ」

「……あらまあ、あなただって勝手じゃない。それはアイラのための言葉ではなく、あなたのためだわ」

「いいや、おまえたちとは違う。俺はアイラがほしいんだ。おまえたちはアイラの力が欲しいだけだろう」

「それはあなたも一緒でしょう?」

「違う。一緒にするな。アイラに力があってもなくても、俺はアイラが欲しいんだ!」

「これだから人間は……」

「ああ、俺はどう転んでも人間さまだからな。おまえたちが呆れた自分勝手な人間だからな!」


 開き直りにしか聞こえないユリウスの言葉にアイラは──同意していた。


「確かに師匠の自分勝手加減は群を抜いてますね。王まで丸め込んで好きにしていますし」

「……別に否定してほしいわけではないけど、追い打ちかよ」

「否定する材料はひとつもありません」

「うぉーい、アイラちゃーん」

「それでも、わたしは師匠に感謝してますよ?」

「ぅぉ?」

「わたしを引き取って育ててくれました。わたしを引き取った当時は一番遊びたい盛りだったでしょうに、ずっとわたしのそばにいてくれました」

「遊びたい盛り……俺は子どもか」

「いえ、師匠も年頃ですから、お目当ての男性と・・・いろいろと」

「男はどーでもいいって」

「なるほど、幼女が好みだからわたしを狙って……!」

「話が進まないからそれでいいってことにしておけ」

「納得いきませんが、そうしておきます」

「それで、時の女神さんよ」

「なぁに?」

「アイラは俺がもらう」

「それは無理よ」

「……なんだこの結婚の挨拶にきて親に『おまえにはやらん!』と言われてる感。この現象に名前を付けたい」

「なにを言ってるのか分からないけれど、アイラは私たちの娘だし、ほら」

「……え?」


 アイラの中に収まっていたはずの鎖が首元からずるりと出てきて、金色に輝いたかと思ったらそれは勢いよく伸びて金色の獣に繋がった。


「ぎゃあ!」


 鎖を強い力で引っ張られ、アイラの身体は宙に飛び、そのまま金の獣に飲み込まれた・・・・・


「アイラっ?」


 止めるまもなくあっという間の出来事にユリウスはなにが起こったのかすぐには分からなかった。


「もう、あなたったら。食べたいくらいアイラがかわいいとは言っていたけれど、本当に食べちゃうなんて」

「食べたっ?」

「ええ。ここでアイラの周りに事件を起こさせて時を戻して本来の時を食べるのがまだるっこしくなったから、アイラを食べて能力を取り込んで自分がやりたいようにやりたいんですって。やっぱりね、選択されなかった未来よりは一度、選択されたけれど必要なくなった未来の方が美味しいんですって」

「な……んだよ、それ」

「これでアイラはもう痛い目に遭わなくて済むわよ。よかったわね、本望でしょう?」

「アイラは」

「アイラは最初からいなかった・・・・・のよ。これから世界は元からアイラがいなかった世界になるからだれもアイラのことを覚えていないわ。そう、あなたさえも」

「そんなこと、させるかっ!」

「ふふっ、無理よ。あなたにはできないわ」

「できるできないじゃねーよ。アイラを取り返す!」

「それならば、やってごらんなさい」

「俺がアイラを取り戻せたら、アイラは俺のだからな」

「できるのならやってごらんなさい。そうなったらアイラはあなたのものよ」

「よっし、その言葉に偽りはないな?」

「ええ、もちろんよ」

「よっし!」


 時の女神から言質を取ったユリウスはにやりと笑った。


「それともうひとつ聞きたいことがある」

「なぁに? 答えられる質問と答えられない質問があるけど?」

「アイラの力のことだ」

「なにかしら」

「時を戻すことができるのはアイラの力・・・・・なんだよな?」

「ええ。私たちにはできないからこそ、アイラを作ったのよ」

「よっし、ありがとう」


 時の女神の答えにユリウスはさらに笑った。

 その笑みを見て、時の女神は気がついたようだ。


「やめなさい、あなた! ここを壊したら世界が──」

「うっさい、壊れた世界の味はどんなだろうなあ?」


 ユリウスの周りに金色に輝く光が集まり──それらがぶつかり合い。


「アイラ、おまえを殺すことを許せ!」

「やめなさい!」

「もうおせーよ。人間さまを怒らせるとどーなるのか身を持って知れ!」

「世界が──世界が終わる──!」

「おわらねーよ、アイラがいる限り」


 ユリウスはぶつかり合っている選ばれなかった未来たちを凝縮するとアイラを飲み込んだ金色に輝く獣に向かって投げつけた。


「苦情は後で死ぬほど聞くし、身体が痛くなくなるまでずっと抱きしめておいてやるから、我慢しろ!」


 

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