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何度だって甦る~伝説のパラドックス~  作者: 倉永さな


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【十九章】反撃

 ゆるゆると時だけが流れていた。

 ふたりはいつものように適当に過ごしていた。

 そしてだらけきっていたところに王から招集がかかった。

 正直、めんどくさい。

 ユリウスとしては名前だけの宮廷魔術師を返上したい。これのせいでユリウスは定期的に王から呼ばれているのだ。

 この肩書きを得てからどれくらい経ったのか。

 ユリウスの身の上を聞いた王がお礼にとこの国での確固たる地位をとこの職を押しつけてきたのだ。

 おかげで暮らしやすくなった。

 ……なったのだが、それに縛られることが多くなった。

 それも分かっていたので受ける気はなかったのだが、王に脅されて仕方なく受けた。

 しかしその後、ユリウスが守るために受けた理由となった斡旋所は別の理由でなくなった。いや、なくなったというと間違いだろう。

 あろうことか、王がおもしろ半分で正式に認定したというのだ。

 いわく、身分の貴賤は問わず、実力にあった仕事を紹介するのは素晴らしく、感動したと。もっと広く知られるべきだというのだが。

 ずれているというか、世間知らずというか。

 無邪気に言われてしまえばユリウスには止めることもできないし、その資格もない。

 気になって斡旋所にこっそりと行ってみると、見知った顔は変わらずいたし、捕まえて話を聞くと悪くないということだったので、結果的には良かったと思うことにした。

 ので、職を返上しようとした途端にアイラの保護を言われるし、あの王はまったくもって食えない。あの王にすべて話してしまったのが失敗だったのかもしれない。


 そして、ユリウスはひとつの符号に気がついていた。

 アイラが死ぬのは、もしかしなくても王に呼ばれたときではないか、と。

 第二王子に殺された辺りでもしかしてと思っていたのだが、今回のことで確信した。


 王に呼ばれたのでいつも通りに馬車に乗った、まではよかったのだが、それほど進まない場所で止まった。

 どうしたといぶかしく思ってのぞき窓から覗くと、御者が逃げていくのが見えた。

 そしてそこからさらに見えたのは──第一王子のルーカスと護衛の人たち、だった。

 なんだこれと思っていたら馬車が揺れ、扉が壊れた。

 ユリウスはとっさに防御膜の魔術を展開したが、それよりも早い矢が腕をかすった。防御しながら治癒の魔術は使えることはできたが、防御力が下がる。

 向こうにはユリウスの見知った相手がいたのだ。ユリウスと互角と言われているマティアスだ。何度か練習試合をしたことがあるが、容赦なかった。いつも紙一重で勝つことはできていたが、実戦ではどうなるか分からない。しかもこちらにはアイラがいるのだ。防御を緩めた途端に一斉に攻撃をしてくるのが分かったのでそのまま保つ。


「厄介なのを連れてくんなよ」


 ユリウスの軽口にルーカスは楽しそうに笑った。


「アイラを渡せば攻撃はしない」


 ルーカスの後ろにいるマティアスがその言葉に首を振った。そんなところ、馬鹿正直に教えてくれなくてもいいのにと思ったが、黙っておいた。


「アイラ、俺を庇って死のうなんて考えるなよ」

「でも……!」

「死んでなかったこと・・・・・・にしようなんて安直なこと、考えるなよ?」

「でもっ! 師匠、血が」

「こんなのすぐに治る。かすり傷だ」


 とはいえ、痛みで少し集中力が途切れがちであったりする。

 早いところ打開策を考えなければと思うのだが、思いつかない。

 自分一人ならば容赦なくルーカスに向かって攻撃をするのだが、アイラがいるので失敗した場合の危険は計り知れない。


「王に呼ばれるとろくなことがないな」

「そんなことないですよと言いたいところですが、言われてみればその通りでしたので、同意します」

「アイラ、選択肢は二つだ」

「二つ……? わたしだけ生き延びろはなしですよ? 俺の分まで生きろも聞きません」

「あのな……どうしてそれを潰す」

「だ……って!」

「おいっ、こんな時に泣くな」

「ユリウスがいない世界は辛いから嫌なのです」

「それなら、あの馬鹿王子を殺して生き延びて追われる生活を送るか、嫌だけどアイラが死ぬしかないな」

「……えと。前者の場合、わたしも一緒に連れて行ってくれますか?」

「なんだ? こない気だったのか?」

「いえ。連れて行ってくれるのなら前者をとります」

「過激だな」

「わたしはユリウスさえいればいいですから」

「……複雑だな。喜んでいいのか、それ」

「いいと思います……たぶん」

「しっかし、相手が悪いんだよなあ。マティアスのヤツ、手加減しないだろうからな」

「お知り合いですか?」

「お知り合いもなにも、ヤツも宮廷魔術師なんだよ」

「そうなのですか」

「そうなのですよ」


 どうしたものかとユリウスが悩んでいると、ルーカスの後ろのマティアスが首の前で指を真横で引いた。


「あいつ……。死ね、なんて言ってきやがった」

「さすが師匠の知り合いです。過激ですね」

「感心するな」


 きっと一番楽なのはアイラに死んでもらうこと、なのだろう。そうすれば時が戻り、なにごともなかったことになる。

 しかし、今まではそうだったが今回もそうという保証はないのだ。

 アイラに会うまではユリウスは常に一人だった。だからアイラが死んで時が戻らなかったとしても、前に戻るだけ。

 であるのだが、アイラがいるのが当たり前になっているため、想像がつかない。それにアイラが死んでしまった場合、ユリウスは間違いなく後悔する。だからそんな危険な賭けは却下。


「ああ、そうだ。もう一つ、選択肢があった」

「それは?」

「……逃げる」

「え?」

「王がいるところまで逃げて、王に話せばどうにかなる」

「王がグルだった場合は?」

「ああ、その可能性は考えなかった。なるほど、それは考えなかったな」


 そうなのだ。

 王に呼ばれる度にアイラは死んだ。

 それの意味するところは、王が裏で操っている──とも読める。


「うー、どーしたものかなあ」


 下手に考える時間があると無駄にあがいてしまう。だからといって、素直にやられるのも癪だ。


「とりあえずだ、俺はかなり第一王子に恨みがあるので一発見舞ってやりたい」

「そうなのですか?」

「とはいえ、多勢に無勢、正直、勝てる自信がない」

「らしくなく気弱ですね」

「状況を正確に読めるのも強い証だ」

「そうですか」

「ということで、折衷案だ。俺はあの馬鹿王子に攻撃をするが、勝てる見込みはまったくない。ので、たぶん死ぬ」

「…………」

「痛い思いをさせるから、先に謝っておく。すまぬ」

「師匠……」

「後、戻れなくて死んだままになったらごめん」

「いえ、それが普通です」

「いや、何度も死ぬような目には普通は遭わないぞ」

「そうでしょうけど、仕方がないです」


 ユリウスは一撃でもルーカスに攻撃が当たればとは思ったが、隙が全くない。

 それに対してユリウスは防御し続けていて疲れてきていた。

 向こうの出方を待っていれば攻撃分の魔力も枯渇してしまいそうだ。そうなるまえに攻撃に出なければ、同じ死ぬでも後悔しそうだ。

 防御を緩めて一転して持てる魔力をすべて攻撃に変えようとしたそのとき。

 ユリウスはふと思いついた・・・・・


「なあ、アイラ」

「はい」

「死んだら時が戻るわけではなくて、気絶することで力が解放されて時が戻る──という可能性は?」

「え……? あ──」

「思い当たるのか?」

「思い当たるというか、それはありえるかも」

「試してみないか?」

「ぇ……。でも、どうすれば」

「んー。やっぱりこの肩口のよく分からない鎖のせいか?」


 言われるまですっかり忘れていたアイラははっと目を見開いた。


「俺が死んだとき、アイラのこれを解放したんだよな?」

「はい……」

「んー。俺の命と引き替えなのか、はたまた別の理由があるのか分からんが、ダメ元だな」


 ユリウスはアイラの肩口に触れながらルーカスをにらみながら口を開いた。


「できるかどうかはさておき、これを解放する。されたらすかさずアイラは時戻りの魔術を使え」

「でもっ」

「どうした?」

「この鎖がなくなったら確かにわたしは魔術が使えるようになりましたが、時を戻すことは」

「できなかった?」

「……はい」

「それなら、こうするか。まず、アイラの力を解放する。できたら俺はあの馬鹿王子に攻撃をかます。反撃されるだろうから防御するなり、跳ね返すなり、時を戻すなりしてくれ」

「なんですかその無茶ぶり」

「まあ、できなかったとしても、アイラ、後は任せた」

「……そうなったら考えたくもない悲惨な未来が待っていると思われますので必死にがんばります」

「是非ともそうしてくれ。では、防御魔術を解くぞ」

「……はい」


 マティアスはすぐにユリウスが防御魔術を解いたことに気がついたのだが、なにやら様子がおかしい。

 馬車の中なので遠めでよく分からないが、あいつらはなにをしているのだ?


「痛いと思うが、我慢しろ」

「ぁ……ンっ」

「くっ、こいつ、頑固だな。ちょいそのエロい声、我慢しろ」

「いえ、そうは言いましても」

「集中できない」

「……はい」


 アイラは口に手を当て、必死になって声が出ないようにしたのだが、それは思いっきりルーカスから見えていたようで、いきなり興奮し始めた。


「あいつら、なにをしているのだ! 人前で破廉恥な!」


 破廉恥はおまえの脳味噌だとユリウスは思いながら、アイラの力を封印していると思われる鎖を必死に引っ張っていたのだが、ふと、アイラの中に戻・・・したらどうなるのだろうかと思い立ち、引っ張っていた鎖をぐっとアイラの肩に押し込んでみた。

 するとそれは最初からそうであったかのように、アイラの中へ消えていった。


「え……?」


 驚いたのはアイラだ。

 ユリウスの手が肩に押しつけられたと思ったら、急に身体が熱くなってきたのだ。


「よく分からんが、これでよしってことにしよう。それでは。こんの馬鹿王子!」


 ユリウスはアイラを背後に庇うようにして馬車内で頭をぶつけないように気をつけながら立ち上がり、すべての魔力を込めて攻撃に転じた。

 これに素早く反応できたのはやはりマティアスだけだった。

 しかしマティアスが防御膜を張ったのはルーカスの後ろ。


「なんだマティアス……」


 思わずぽかんとしてしまったが、すぐに気がついた。


「くっそ! あいつ、馬鹿王子に反射かけてたのか!」

「ユリウス、わたしにつかまって!」

「えっ? 分かった」


 アイラの声にユリウスは振り返り、抱きついた。


「つかまってとは言ったけど、抱きつけって言ってない!」

「振り落とされないように。……てか、まずい。俺の攻撃が返ってくるぞ!」

「それは大丈夫。王子の後ろに魔術を移転させましたから」

「って、おい! なんだそれっ」

「いいから黙って! 舌かみますよ!」


 アイラは歯を食いしばるととんっと軽く馬車内の床を蹴った。

 そして次の瞬間。

 身体は妙な浮遊感に支配された。


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