波乱の世界
時計が無いので、正確に今何時かはわからない。
でも、お日様の光が部屋に差し込んでくる角度から言って、おそらく午後3時といったところかな。
お昼ごはんを食べ終わった後の食休みということで、リビングにあるテーブルに伸びてうとうとしている。
ナリアさんは本を借りてくるから、と言ってどこかに行ってしまったし。
つまり何が言いたいかと言うと・・・
・・・
そう、暇なのです!
電信柱から落っこちて、こっちの世界で生まれ変わって・・・
生まれ変わったら突然捨てられて、小鳥ちゃんと出会い、おっさんに襲われて、助けられて拾われて・・・
そしてまた、小さな別れ。
たった2日しかこっちの世界に来てから経って居ないのに、随分と長く感じてしまう。
それだけ濃い日々を過ごしたせいか、この暇な時間がすごく新鮮に感じてしまう。
元の世界での生活は、仕事にほとんど左右される人生だったから、自分の事なんてほとんど
考えなかったせいだろう。
こんなに1日が濃いと思ったことは無いと思う。
疲れたって実感が無くても、心も体も疲れているんだ・・・ この暖かいお部屋でのんびりと過ごしても、きっと誰も悪く言わないにちがいない。
そう、このちょっと大きめなテーブルに上半身を任せて、お昼寝をしたっていいんだ。
あー、お腹いっぱいだなぁ...
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「ただいまー! アキちゃん帰ったわよ・・・・あら? 待ちくたびれて寝ちゃったみたいね。」
ナリアは寝室からブランケットを持ってきて、よだれを垂らして眠るアキへ静かに掛ける。
「疲れてたのかな・・・見たこともない服装で、何に使うかわからない道具を持ってた所を見ると、召喚された冒険者なんでしょうけど...あんまりいい思いはしなかったんでしょうね。」
眠るアキに気を使って、静かに語りかける。
「この世界は今、混沌とした争いへと突き進んでいる・・・でも、この子は巻き込ませないわ。起きたらこの世界について説明してあげなくっちゃね。あの召喚担当官の事だし、適当に仕事したのね。その代わりに私が教えてあげないと...。」
・・・
「でも、一人で寝てたら風邪ひいちゃうわよね?」
・・・・・・
・・・・
・・
・
「うにー・・・・ぅ?」
窓からオレンジ色の夕日が差し込んでいた。
ということは、どうやら2,3時間ほど寝ちゃったみたいだ。
両手を上にあげて伸びつつ、ふわふわと欠伸をする。
お昼寝効果か、頭が大分すっきりしたみたいだ。
窓から夕日でも眺めようかなーっと思って立ち上がろうとすると、足が床につかない。
そんでもってお腹に手がまわされている。
現状確認すると、どうやら俺はナリアさんの太ももの上に座っているみたいだ。
・・・・あれ、確か俺イスに座って寝てたよね?
イスに座っていた時は普通に靴が床についていたのに、今は15cmぐらい浮いている。
これはどーすればいんだろうか・・・後ろを振り向くと、ナリアさんも寝ているようだった。
もう夕方だし、起こしたほうがいいよね? てか起こさないと動けないし。
「あのー、ナリアさん? おきてくれませんかー?」
「・・・・ん、起きたの?アキちゃん。」
「はい。ところでなんでお・・・・私はナリアさんの上にすわってるんでしょうか。」
俺って言いかけた時の顔の恐ろしさと来たら...いや、見なかった事にしよう。
「一人で寝てたら風邪ひいちゃうじゃない? だから温めてあげてただけよ?今の時期はまだ暖かいけど、これから寒くなってくるから気を付けるのよ?」
...むぅ、やっぱりいい人なのか? ナリアさんの事はやっぱりわからない。
「それに合法的にだっこしながら寝れ・・・さて!晩御飯の準備に入る前に、ちょっとだけお勉強しましょうか!」
やっぱり危ない人だ、もう間違いない!!
なんとか降りようと、足をばたばたさせるが一向に降りれない。
「こら、あんまり暴れるとこうよ?」
「ひゃぅ!?」
だからもう胸はやめて~!!
片手で的確に先端を狙ってくる。 一気に抵抗する気力を奪われた。
ぴたっ と抵抗を辞めると再び俺のお腹に両手が回る。
「そうそう、素直な子が一番かわいいのよ? ふふっ」
やばい、このままじゃいけない気がする!
なんとか打開策を考えておかないと。いいようにオモチャにされかねない・・・・。
「さて、アキちゃんって次元を超えて来訪する冒険者よね?見たことのない服に、よくわからない道具を持ってたから、多分そうなのかなっと思ったんだけど」
「んー、多分そうだと思います。 なんかルィって女の人に最初に会って、そんな事いわれました。でも無能だからって捨てられちゃいましたけどね・・・・」
「む・・・無能!? こんなに可愛いのに!?」
驚愕しながらほっぺすりすりしないでくださいおねがいします・・・
「そんな事があったのね・・・じゃあ、この世界の現状とか詳しくは聞いてないでしょ?そう思って色々と本を借りてきたから、一緒に勉強しましょ?」
「これから何をするにしても、まず知っておかないとなんにも始められないから、ね?」
そ、そう言われればそうだなぁ・・・・基礎知識ゼロだもんな俺。生きていくためにこれから
何をするとか考えなくっちゃいけないよね。
「ぜ、ぜひ教えてください。 お願いします。」
「そう来なくっちゃ!」
ナリアさんが左手を前に突き出した途端、魔法陣が出現する。
魔方陣が消えた後、その場所の空間をナイフで切り込みを入れたかのように、裂け目が生じる。
そして、その裂け目からぼとぼとぼとっ!と音を上げて本が机に落下してきた。
「わぁ・・・魔法で本作っちゃったんですか?」
「これは空間維持魔法。小さな亜空間を作って、その中に物を仕舞う事ができるのよ。今のアキちゃんなら、手提げカバンぐらいの大きさなら、亜空間を作れると思うわよ?こんな感じで自由に物を出し入れできるから便利だし!」
先ほどの本をまた裂け目が飲み込んだり、吐き出したりしている。これが魔法・・・・
おぉぉ・・・魔法が使えるんだ俺も! なんかわくわくしてきた!
目をキラキラさせてナリアさんを見つめていると、頭をなでなでされる。
「魔法は私が教えてあげる! これでもオレアノラ宮廷魔術師だから!」
きゅうていまじゅつし・・・? なにそれ?
頭の上に?マークを3つぐらい浮かべていると、ナリアさんが教えてくれた。
「宮廷魔術師って言うのはね、ここオレアノラ王国の中でトップクラスの魔術師を集めた組織の一員の事よ。私もその端くれだから、魔法を教えるんなら私以上に適任は居ないわよっ!」
ウィンクして見せるナリアさん。 この人って実はすごい人だったんだ・・・てっきりただの変態さんだと・・・・おっと。
一瞬ナリアさんの目が凍ったけど、すぐに戻ったから問題ない。きっと。
「で、まだ言ってなかったけど、ここはオレアノラ王国の城下町、レノラよ。アキちゃんが居た場所からは・・・馬で二日ほどかしら?この国で一番栄えている街だから、後で案内してあげるね!」
「へぇー...でも馬で二日かかる距離をどーやって助けに来てくれたんですか?」
「そこは転移魔法でちょちょっとね。 念話が飛んできたから座標ははっきりとしていたし、宮廷魔術師をなめちゃいけないわよ?」
再びウィンク。
やっぱりすごい人だったのか・・・すごい変態さんってだけではないんだね!
再びナリアさんの視線が冷たくなる。そして口で言えないところに手が伸びてきた。
「ちょ、ひゃ、ひぅ!?」
「何か今失礼な事考えなかった? お姉ちゃんに言ってごらんなさい?アキちゃん?」
表情は笑ってるのに目がこわい!ひぃ!?
というか、なんかピリッと電気が走るような感覚が走ってそれどころじゃない!
「も、も、やめ...ひっ!?」
「うふふ。 女の子の弱いところは同じ女だからわかるのよー? ほらほらっ!」
「ひぃぃぃ!!!」
・・・・・・・・
10分ほど責められ続けてくたくたになった。 もう失礼なことは考えないことにする。
死んじゃう。あんなの頻繁にされたらしんじゃう!
頭を切り替えて勉強モードにしよう。 そうしよう。
いらない事を考えているとまた飛んでくる。 何がって?・・・聞かないでください。
「さて、今このオレアノラが参加しているヴァレム連合と、エニグラのクィリム連合が戦争しそうだって事はおっけーね?」
「そのへんはルィさんにも聞いています。」
その話を聞いた後にステータスを見て、速攻ポイっと捨てられちゃったんだよねぇー。
「で、その戦争の前に・・・オレアノラと隣国ルィーダ帝国で戦争が起きそうになってるのは知ってる?」
「? それは初耳です。 というか隣国だったらおんなじ連合に参加してるんじゃないんですか?」
「いい質問ね。 ルィーダ帝国では現帝王が温和な人で、連合の活動を積極的に行う賢王だったわ。でも...その帝王が暗殺されてしまったそうなの。」
・・・暗殺!?
物騒な世の中だなぁ・・・俺がそんなのに狙われたら3秒と持たないで死んじゃいそうだ。
まぁ狙われる事なんてそうそうないかもだけど。
「その暗殺首謀者は、宰相のマルダって人らしくてね。 今はその宰相を支持する人間が帝国を支配しているの。その宰相の狙いはここ、隣国オレアノラ王国ってわけ。」
「なんでこっちを狙ってくるんですかね? クィリム連合の国を狙うならわかるんですけど。」
曲りなりにも、同じ同盟国家...つまり味方を攻撃して何になるんだろう?
これだけ大変な事になってるなら、内輪揉めをしている場合じゃないと思うんだけどな...?
「このオレアノラには鉱物資源が豊富にあるの。 ヴァレム連合に流通している武器や防具の実質7割が、このオレアノラ製って言われるほどにね。」
「・・・あー、なんとなーくわかった気がする。 つまり、この鉱物資源を手土産にクィリム連合に寝返ろうとでも考えたんじゃないんですか?」
「そう!さすがアキちゃんね! 隣国との小競り合いは連合が作られる前にはよくあった事だけど、今回はただの戦争じゃないの。」
「ヴァレム連合は貴重な鉱物資源提供国を失うわけにはいかない。クィリム連合ではその逆。敵の貴重な資源を奪うことで速攻国取りにかかりたい。」
なんか、典型的な自己中政治家の話だな...典型的すぎて誰でも判る構図だ。
典型的なだけに、厄介なんだろうけどね。
「つまり、隣国のおバカさんのせいで戦争が急速化してしまったの。」
「こんな事していれば、そのうち世界は滅びてしまうわ。なんにもわかっちゃいない...。そんなおバカが国々のトップに座り続けている現状じゃ、どうしようもないわ。」
「そんな事言っちゃって大丈夫なんですか?それなりに偉い人なんじゃないの?ナリアさんも。」
宮廷魔術師って、その名の通り王様お抱えの機関なんじゃないだろうか?
ということは、ナリアさんにも相応の地位があるんじゃないのかな。
「そうね。それなりに地位はあるけど、国の政治に参加できるわけでもないから...。それに今は世界よりも大切にしたい物が見つかっちゃったから!」
後ろからまたぎゅぅぅっと抱きしめられる。
「うきゅ...く、くるしーです、ギブギブ!」
本気で内臓が飛び出すかと思ったよ・・・。
「で、ここからが本題。アキちゃんは戦争に参加したい?したくない?」
「したくないです。」
即答だ。 誰が戦争を好き好んでしたいもんか。
争いごとは人一倍嫌いなのだ、俺は。
「んじゃ、ふらっと旅にでも出てみましょうか? アキちゃんに知識を蓄えてもらう名目で!」
「・・・え?」
この人宮廷魔術師とか言ってなかった?
この状況で旅とかして大丈夫なんだろうか?....それ以前に、何故このタイミングで旅に出るんだろ?
「大丈夫!足はつかないように国外に出るからっ」
三度目のウィンク。
「は、はぁ・・・・」
「ま、まだ明日明後日に戦争が勃発するワケじゃないから。この国は近いうちに倒れる事になるわ。...だからその前に、安全な場所を転々としている方がいいと思うのよ。いい場所を見つけたら、そこで腰を据えるのも悪くないしね!」
なるほど...色々と考えてるんだなぁ。
俺も戦争に巻き込まれるのはまっぴらだし、旅をするのもいいかもしれない。
「わかりました、ナリアさんにお任せします。」
旅か...面白そうだからいいかな?
こうして俺の、今後の大まかな予定は決められたのだった。
「そういえばあの本は使わないんですか?」
「別にいいんじゃない? 一気に詰め込んでもアキちゃん覚えられないでしょ?だから今日はここまで!」
「そ、そんなもんでいいんですか・・・」
「そんな事よりー・・・二人っきりで旅行~♪」
「だ、だから揉んじゃだめぇ!!!」
改稿12/4