捨てる神あれば拾って自分の物にする神
ぱちぱちっ とたき火から爆ぜる音が静かに響く。
今日一日の波乱万丈な出来事のせいで、疲労困憊なアキは、仰向けになってぐっすりとおやすみになっていた。
「む~ふんっ...らにすにゅー」
謎の寝言を唱えながら。
そんなアキの眠る、少し開けた場所から10mほど離れた場所で、枝を折るような「パキッ」という音がした。
「...ぅ? ことりちゃんおしっこー? いてらしゃーい。」
...あれ、でも鳥って夜行性のフクロウとかしか夜間動かないんじゃないっけ?
薄く目を開くと、安全帯の小物入れに入って、気持ちよさそうに眠る小鳥ちゃんが居た。
体の芯がひやりとする感覚と共に、目が急激に覚める。
自分でも小鳥ちゃんでもないのなら、第三者ということだ。
何!? 動物!? 人!!? な、なんだろ・・・
たぶんこっちから音したよね、という方向をじーっと見つめながら身構える。
すると、真正面から人影が踊り出てきた。
突如出現した人物は、両手で拳を握ってファイティングポーズをしたアキの口を左手ですばやく
塞ぎ、右手に持った長さ1m弱ほどの直剣をぴったりと首元に当てる。
そして火が小さくなっていた焚き火を左足で踏み消す。 あぁ・・・苦労して火起こししたのに。
あの苦労が解っていれば、次の日のために火種を温存すというのに! 松明でも作って持っていこうかと思ってたのになぁ...って、今はそんな事考えてる場合じゃない!
たき火を消されてショックだった隙に男がボソボソと囁く。
すると、全身から力が抜けていく。
男の手には魔法陣のような、複雑に線が入り組んだ図形が光り輝いていた。
な、何? これ魔法!? すげー! ・・・じゃない、このままじゃ殺られる!?
そもそも、なんで突然襲われてるんだ、俺!?
全身に力が入らなくなった俺は、仰向けにぽてっ と転がる。
だめだ、ぴくりとも動けない・・・ まるで自分が等身大のお人形にでもなったかのようだ。
これは間違いなく殺される展開だよね...?
俺また死ぬのか・・・今度は殺人事件の被害者か。 ...みじめなもんだぜ。
とか考えながら、抵抗する事を諦めていると、かわいい相棒が出てきた。
「ピ! ピピッピピピピ!!」
「-っ ・・・? -っ!!」
小鳥ちゃんが起きて俺の顔をつんつんしだしたので、出てきちゃ駄目!! と言うつもりが・・・
声すら発することが出来ない。 これはひどい・・・
「そいつはホウセントエルネシアだな?翼を狙って打ち落とした筈なのに、いくら探してもいないからよ。 可笑しいと思ったぜ。」
「俺の獲物を横取りにするとはいい度胸してんじゃねぇか? この小娘が。」
・・・こいつ聞き捨てならない事を言ったな。
打ち落とした、 だと?
鳥ってのは空を飛ぶから鳥なんだ。 この小さな翼にどれだけの意味があるのか、こいつは
想像もできないんだろうな。
この子にとっての翼は、生きていくためのすべてだ!人間にとってみれば手足だ。
手足を失ってどうやっててめぇは生きていくんだ? 一人で。
つまり自然に生きていた小鳥を殺したって事だ!
無抵抗な動物を殺すだなんて・・・許せない!!!
ふつふつと心の中で沸いてくる怒りを胸に、襲撃してきた男を見据える。
黒に近い茶髪に、顎鬚をたくわえた屈強そうな男だ。服装は黒っぽいローブのような物を
羽織っているようだ。
今俺は身動きどころか、声を出す事すら出来ない。このままでは襲撃者に殺されるだけだ。
俺はどうでもいいさ、既に一度死んでいるんだ。こんな死に損ないよか小鳥を助けたい・・・!
クソ! なんで動かないんだよ! 口も体も!....なんとかしなくちゃいけないのに!
「まぁいい。 ・・・こりゃまた随分と上玉だなぁ? こりゃ奴隷商にでも売れば相当儲かるな。いたぶるのもいいが、金にしたほうがうんとよさそうだぜ。」
嫌な視線を感じ、眉間に皺が寄る。 目や瞼は動かせるようなので、これが精一杯の抵抗だ。
ガンつけてもどこ吹く風といった様子で、男は小鳥を捕まえる。
「こいつも売れば5万リールブは下らないだろう。 しばらくは遊んで暮らせるぜ!!クッハッハッハッハ!!」
これからの豪華な生活でも想像してるのだろうか、実に楽しそうに大笑いする襲撃者。
クソが。なんとかしないと・・・・なんで俺はこんな無力なんだよ!
つい最近まで男で、それなりに鍛えていた体は...もう無い。今あるのは動かない華奢な女の体だ。
小さな小鳥一羽救うこともできないなんて、情けないにも程がある。
・・・・・お願いだ、誰か・・・・! 誰かこの子を助けてあげてくれ!!
俺はどうなってもいい。 死んだってかまわない! 小鳥を助けてくれ!!
ぎゅっと目をつぶって、 願ったところでどうしようもないことを願う。
もう、神頼みぐらいしか出来ないんだ。 俺には・・・・
『そのまっすぐな心、気に入ったわ。』
頭の中にダイレクトに声が響く。
声が鳴り止むと、俺の意識がぷっつりと途切れる。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「ぅー・・・やめちぇくれぇ~・・・」
俺はうなされていた。
何故か、スカートに胸元の開いた上着という女の子ルックスで、誰かに抱きしめられている夢を見ていた。
胸はもまれるわ、なんだか口にしたらいけないようなところまでいじくりまわされるわで、男としての尊厳をことごとく破壊される夢だった。
まさしく悪夢である。
「・・・ピ、ピ?」
耳元で優しく鳴く声が聞こえる。
小鳥ちゃん無事だったんだね・・・!
目に涙が溜まって来る。 なきそう。 超なきそう!!
「ふえーよかったぁー!!」
泣きながら小鳥ちゃんをほっぺですりするする。よかった・・・
なんかしらないけど俺も小鳥ちゃんも生きてる。本当によかった...。
一人と一羽で生還への感動に涙していると、背後から声が聞こえてくる。
「あら! 目が覚めたのね!!!」
.....タラリ、と汗が頬をつたう。
どこかで聞いたことがある声なんだけど、一体いつ聞いたんだっけ・・・?
...ハッ! 夢の中で、俺にお嫁にいけなくなる様な事してきた人の声だ!
って夢か...。ん?でもなんで夢で聞こえた声がここでも聞こえるんだろうか?
そーっと小鳥ちゃんから顔を離し、体を起こして反対側を見る。
そこには流れるような金髪を背中のほうまで流し、薄い上着にロングスカートを着用した美人なお姉さんがいた。
なんだ、この世界には美人しか居ないのだろうか。 ルィさんも結構美人だと思ったけど、こちらさんもなかなかに美人さんだ。
「ピ!ピ!」
小鳥ちゃんが鳴くので、頭なでなでしてあげようかなっと思って下を向くと・・・
夢で見たスカートと上着を着用していた。
ん? あれ? 確か俺は作業服を...てか、この服ってもしかして?...いや、あれは夢だ。悪夢だったんだ。実は作業服を着たままだけど、幻覚を見てるんだ、そう!きっと幻なんだ!
とか自己暗示をかけていると、お姉さんが語り始める。
「念話魔法が広域に流れていて、その発信源へ転移魔法を使って見れば...汚物が美少女に束縛呪文使って
いじめてる場面に出くわしたものだから、つい汚物を火達磨にしちゃったわ。」
・・・火達磨て、何このお姉さん危ない人?
汚物は消毒ダー!!とか言ってるモヒカンの人と同じ思想なんだろうか。
何はともあれ、俺の現在地はどうやらどこかの建物の中らしい。
寝ていたのはふかふかのベットの上で、あの男に襲われるまで寝ていた草の上とは雲泥の差だ。
つまり、このお姉さんに助けてもらったって事か...捨てる神あれば拾う神あり、とはまさにこのことだね!
「ピッピピ?」
唸りながら考えを纏めていると、小鳥ちゃんがこっちを覗いて来る。
小鳥ちゃんのほうも無事みたいだし、とりあえずお礼しないと・・・。
「あ、あのー...助けていただいたようで、本当にありがとうございます!もうダメだと思ってたので...。」
「あんな汚物に世界の宝とも言える女の子をキズモノにさせるなんて、神は許しても私が許さないから!絶対に許さないから!!!」
なんだか拳を握って力説してる・・・てか世界の宝って何?あ、小鳥ちゃんのことですね。確かに可愛いもんね~!女の子?きっとこの子メスなんだよ。そう言う事にしておこう。
「おまけにサイズが合ってない服を着てるし、何があったのか私には想像も出来ないほど、苦労したのね...可愛そうに...うっうっ...」
な、なんか泣き出しちゃったんですけど!? 俺なんか言った?!
あたふたしていると、突然お姉さんに抱きしめられた。
「もう大丈夫よ! 私が守ってあげちゃう! いや絶対に離さない!」
「え、い、いや・・・は、はい?」
「私のことはお姉ちゃんと呼んで? おねーたんでもいいわ?」
も、もしかしてこの人思想的に危ない人? 何故か身の危険を感じるんだけど...と言うかおねーたんって何?背筋がゾワッとしたんだけど....。
「あ、俺用事思い出したのでそろそろ失礼しま「女の子が俺とか言わないの!」す・・・う?」
「もー、折角かわいいんだから、言動は気をつけなくちゃだめよ?」
「い、いや・・・俺は男・・・」
「昨日ベットでしっかりと隅々まで確認してるわ。なんで男とか言うの?」
あれは夢じゃなかったのかああああああああ!?
もうお嫁にいけない。・・・うっ・・・ いやお婿? いやもうどっちでもいいよ・・・
もう悪夢として処理しよう。 心が傷つく前に!
「ピー・・・」
目をつぶって首をフリフリしている。
何この仕草...小鳥ちゃんに呆れられてる!?
「ほら、小鳥さんにも呆れられてるわよ?ちゃんと女の子らしくしなさい? あんなサイズの合ってないズボンなんて、今後はかせないわよ?」
もう誰か俺にこの状況を説明してくれ! わけわかんない!!
改稿12/4