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落下地点は違う世界。  作者: あせろら
1章:第二の人生
4/15

相棒と共に。

歩くこと30分。



現在俺の目の前には目算30mほどの岸壁。



そうだよ、最初に目が覚めた所からもバッチリ見えてたじゃん。

足場と呼べそうな物も無く、手負いの小鳥を抱えた状態で命綱無しのロッククライミングとは...。

いささか過酷すぎじゃありませんか?


・・・だが忘れちゃいけない。 俺は高所作業のプロだ!...まぁ電信柱や鉄塔専門だけどさ。


腰道具からマイナスドライバーを取出し、小鳥はハンドタオルを敷き詰めた小物入れへ入れる。

俺の安全帯には、柱上作業でちょっとした物を入れるための小物入れがついている。 

生き物を入れておく物じゃないので、快適ではないだろうが、少しの間ここで辛抱してもらおう。


壁を触ってみると、ざらざらとした感触だ。

手には砂の粒がついている。これってもしかして・・・。


腰からマイナスドライバーを引き抜き、壁に向かって打ち付ける。

ガツッ!と衝撃音が鳴ると、ドライバーを打ち込んだ周りの岩がパラパラと砕け、直径5cmほどの穴が開いた。


「おー、砂っ気が多い岩みたいだな...これならいけるか?」


片手でドライバーを使い岩を削り、足場を作る。そしてドライバーを口に咥えて1段上り、再びドライバーを手に取って足場を作る...この工程を繰り返して岸壁を登ってみるか。


10分ほどそれを繰り返すと、3mほどの高さまで上ることに成功...。


が・・・・しかし。


腕も足もぷるぷると震える。

かつて先輩方のシゴキによって鍛え上げられた握力と脚力は、この体には存在しないようだ。

そういえば力ステータスは1だっけ。(涙)


このまま無理をして上り続けたら、力尽きた手が岩から離れて、前世宜しく地面に墜落して、第二の死へまっさかさま! ...という最悪の展開になりかねない。


無理は禁物!という事で一回降りる事にする。降りるときは下の足場が見えないので、登る時よりも緊張するよ・・・。


ゆっくりと降りて、再び地面に足を付けると、疲れがどっと出た。

まだまだ先は長いってのに、こんなところでバテちゃだめなんだけどなぁ・・・


小物入れから小鳥を出し、草の上へ置く。

そしてぽてっ 草の上へ倒れる。


「はへぇ...この体であの仕事はもう出来ないな。間違いないよ。」

「ピィ...」


心配してくれているのか、草を掻き分けるようにしてよちよちと俺の顔へ寄ってくる小鳥...可愛いなぁ。


小鳥と戯れつつ、休憩をしながら考える。

俺の現在の装備は・・・普段の腰道具一式。

+、-ドライバ、ニッパー、ペンチ、7mスケール、ラチェットレンチ、電工ナイフ。


こいつらを上手いこと使って、あの岸壁をクリアするには・・・

うぅむ、思いつかない。


ま、こんな道具だけで壁をよじ登るのが間違ってるんだけどね?

だが、ここはぐるっと絶壁に囲まれた盆地。なんとかしてこいつを登りきらないと、どこにも行けないし何も始まらないのだ。


ここはひとつ、...気合だな!


「ふぅ、休憩終了!」

「ピピ?」

「なーに、60mの鉄塔に比べればラクなもんさ!がんばるよー!」

「ピー!」



再び小鳥を小物入れへと収めて、無理のないペースで登り始める。


5m地点からまた足場を作っては上り、を繰り返す。

上を見ちゃだめだ、手元だけを見るんだ。 登山と一緒! 地道にこつこつ登ればすぐに頂上に着く!

小鳥ちゃんがたまに「ピ!」と鳴いて励ましてくれている。鳥語はわからないけど、きっと応援してくれてるに違いないよね!


黙々とドライバーを片手に、俺と絶壁の戦いは始まった。




・・・・・・・・

・・・・

・・




何分上り続けたのかわからない。 

足も腕も情けないほどにぷるぷる震え、気を緩めれば力が抜けてしまいそうだった。

だが、日本男児の持つといわれるド根性で、自分の限界を超えて手足を動かし続けた...。


そして、ついに頂上へとたどり着いた!


壁から最後の力を振り絞って、平地へ這い上がる。


「うにょおおおおおおぉぉぉ!!」


変な声が出てしまったが、致し方ない。自分の奇声を気にかけるほどの体力はもう残っていない。

崖の上に生えている草をまとめて掴み、千切ってしまわないようにゆっくりと力をかけて這い上がる。

身体が平地に上がって、崖から数mほど進んで倒れこむ。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ はふー・・・ やってできない事は無いねぇ...ふへぇ。」

「ピー!ピー!」

小鳥ちゃんがいつの間にか道具袋から飛び出し、俺の顔に近づいて鳴いている。

まるで「おつかれさま!」と労ってくれているみたいで、頬が緩む...。今までの苦労が報われた気がするよ!


そのまま体感で30分ほど休憩した後、再び小鳥を手に持って歩き出す。

あの盆地の外は森林地帯になっていたようで、木々が生い茂る中を突っ切ることになった。

人間の手が全く入っていない森林のようで、地面は木の根っこがゴツゴツと飛び出していて、とても歩きづらい...。


1時間ほど歩きながら小鳥と戯れていると、何か物音が聞こえてくる。

さらさらと水が流れるような音。


・・・っ!川があるんだ!


そーいえば喉もからからなんだよな...あんな重労働をしたのだから当然かもしれないけどね。

木の根をかわしながら、急いで水の音がする方へ向かう。


数十秒後、目の前に幅3mほどの浅い川が現れた。

川底がきれいに透き通って見える、 清らかな流水。

俺はもう夢中になって川に顔を突っ込んだ。


ただの水がこんなにウマいとは...コンビニで売ってるペットボトルの水が、遠く霞むほどにこの水はウマい!

口に含むとほのかに甘味を感じ、身体が喜んでいるような錯覚さえ感じる。


手で水をすくい、小鳥にもおすそわけ。

嘴でちょんっちょんっ と水を飲む姿も可愛らしい...。やっぱ小動物って見てるだけで心が和む!


一人と一匹が給水を済ませると、いつのまにか空はオレンジ色に染まりだしていた。

水もあることだし、今日はここで野宿でもするかな...ここからどれぐらい歩けば、人の営みを感じられる場所に着くのか検討も着かないし、今日はロッククライミングもどきで体力を相当使ってしまったからね。


そうすると、何か食べ物がほしいところだけど...。


...ん?


川を見ると30cmほどはあるお魚が沢山泳いでいる。川魚っておいしいんだよな...じゅるり。


そういえばこっちに来てからなんにも食べてないんだった。

以前の俺なら、朝食の跡に夕食まで食べなかったら、今の比じゃない位ハラペコになってたんだけど...なかなかエコな身体なんだね。


近くに落ちていた割と真っ直ぐな枝を片手に、腰から電工ナイフを抜き取る。

枝の節を取って、先端を尖らせれば即席の銛が出来上がる。それを一旦置いて、ズボンを脱ぐ。

現状、着るものはこの作業服しか無いからな...汚さないようにしないと。


ボクサータイプのパンツ一丁になったわけだけど、以前とは違って妙にスカスカなのは気にしない。

これから生きて行く上で、そんな事気にして居られないからな...。


おっと、いけないいけない。マイナス思考になるのはお腹が減ってるからだな!

気持ちをリセットして、即席の銛を手に取り川へ行く。

音を立てて魚に逃げられないように、ゆっくりと川へ入り、一匹の魚に狙いを付ける。

そして、魚がこちらへ気づく前に思いっきり銛を突き込む!

魚へ吸い込まれるように、銛が飛んでいく。

銛は魚の横っ腹に見事命中し、魚が暴れている。


「よっしゃ!晩飯ゲット!!銛を突くのは10年ぶりぐらいだけど、案外うまくいくもんだな!」


俺の実家は青森県の某田舎で、その地域の小学校は全校生徒10人しか居ない。

今時の東京っ子みたいにゲームやらパソコンで遊ぶという習慣が無かった為、俺らの遊び場所は決まって森の中だった。休みの日にキャンプと称して仲間達と川魚を銛で乱獲した事もあった。

今回はきっと、その時の経験が生きたんだな。昔の悪友に感謝だな!


川の岸で俺の事を見守っていた小鳥ちゃんに、戦利品を見せる。

「ほら、今日の晩御飯は魚だよー!」

「ピッピッ!」

魚を見て、小さな足でぴょんぴょん跳ねている小鳥ちゃん。こんなに小さいのに、すっごく賢い子だなぁ。

こっちの世界では、これが当たり前なんだろうか?まぁ可愛いは正義だから気にしないでおこう。


「さて・・・そんじゃあ野宿の準備でもしよっか!」

「ピ!」


ズボンと靴を履き直し、周りから枯れ枝と乾いた落ち葉と少し太めの枝を拾ってくる。

小学校の頃に摩擦熱を利用した火起こしをやった記憶を呼び覚まし、準備を進める。

まずは太い枝へ電工ナイフを当て、ラチェットで叩いて割る。

割って平らになった所へ、落ち葉を砕いて作った粉を少し盛り上げる。

そして、そこへ先ほど使った銛を少し短くして当てる。これを回転させて摩擦熱を起こし、この落ち葉パウダーに引火させるといった魂胆だ。


さぁ準備は整った...あとは根性! 

今日最後の根性を使って、枝を高速回転させる。

作業用の皮手袋も小物入れへ入れておいて正解だった。こんなの素手でやったら、手の平がズタズタになるに違いない。


肩で息をつきながらも、10分ほどひたすらクルクルと枝を回し続ける。

すると、うっすらと煙が立ち始める。

「もっちょい!!」

落ち葉の粉末を追加して、一層力を込める。

すると、チリチリと小さな火種が燃え始めた!

これ幸いと、燃えやすいように小さくちぎった落ち葉を順番に足していくと、順調に火は大きくなっていった。...そして枝も投入すると、火が少しずつ大きくなり、安定しだした。

起こし始めて1時間弱。体中汗だくになったが、なんとか火を起こす事に成功した。


後は先ほど捕ってきた魚を枝に刺して加熱。やっと晩御飯が見えてきた!

片側だけが焦げないように、たまに向きを変えつつ焼く。

そして数十分後、お待ちかねのディナータイムが始まった。


「いただきまーす!」

「ピ!」


まず少しだけ身をほぐして手に持ち、息を吹きかけて冷ましてから、小鳥ちゃんへあげる。

嘴で器用に食べる様子はほんとかわいいな・・・ ちゃんと食べて傷を治すんだぞ。 


「さて、こっちもいただくか!」

はむっ と頬張ると、想像していた以上に美味しい。

塩味が欲しくなるかなーっとか考えていたが、この油の乗った魚のうまみ・・・たまらないな!

自分で食べる合間にも小鳥ちゃんへおすそわけ。 過酷な1日の終わりを告げるゆったりとした時間は、あっという間に間に過ぎていった・・・。



・・・・・・

・・・

・・



夕食後の満腹感から、たき火を見ながらうとうとしている。

小鳥ちゃんは腰から外した安全帯の小物入れで眠っている。寝ている小動物ほどかわゆい物は居ないね。


こうやって落ち着いてから今日の出来事を考えると、なんとも不思議な事ばっかりだ。


死んだと思ったら生きてたり。

なんでか大自然の中に居たり。

もう名前は忘れちゃったけど、なんちゃら連合に参加して戦争しろっとか言われたり。

女になってたり。

無能だから捨てられたり。

小鳥が胸におっこちてきたり。

断崖絶壁を登ってみたり。

川で魚を突いて、それを焼いて食べたり。


うむ、奇想天外すぎる。


でも悪いもんでも無いなー。 空気はウマいし、小鳥はかわいいし、魚もウマいし。

この先にもしかしたら人間の集落とかあるかもだし、そこまで行けばアルバイトみたいに、何かしら仕事もあるかもしれないし。


今日はこのへんで寝るとしようかな・・・余計なこと考えても仕方ないからね。


「はぁ、眠い...。おやすみ・・・」

誰も返事をしてくれないのは判っているが、なんとなく就寝の挨拶をするアキだった。




・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・




夜もとっぷりと更けた森の中。

たき火の隣で15、6そこそこの女の子が無防備におなかを出して眠っているのを、木陰から覗く影があった。





さて、ここでようやく1日終了です。


改稿12/4


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