夢と現実
疲れれた....。
朝一番に会社へ行き、先輩を拾って工事現場へと向かう。
手早く作業を終了すると、すぐに会社へ戻って、来週から始まる長期工事の段取りをする。
この長期工事の準備がすっごく面倒くさい。下請けの業者を手配したり、工事に入る施設へのアポイントや、会社内で工事に関する会議。
どんな仕事でも、始まりがすっごく大変なのは共通だろう。だが俺の場合は、それ以外にも面倒な事が大量にある。
まず後輩が失敗した事のフォロー。こればっかりは仕方ないので、俺も率先してフォローしてやる。
誰だって新入りの時は失敗するんだ。それをフォローするのが年長者の定めだからね。
そして、先輩方のご機嫌取り....。これは正直ダルいだけだ。この先輩ども、自分が新入り時代にどんだけ虐められたんだ?って思うほどに後輩を虐める。それはもうパワハラと言っても過言ではないほどに。
そんな理不尽から後輩を守るのも俺の役目....。入社4年目という微妙な立場の上、俺の同期はみんな辞めてしまったからな....俺しか居ないんだ。
そうして、夜の10時過ぎに今日は仕事が終わった。長い一日でもこれだけ密度があると、あっという間に過ぎ去ったかのような錯覚に陥る。
6畳一間の、ちょっと手狭なアパートへ帰宅すると、真っ先にパソコンの電源を入れる。
パソコンが起動している最中に手早く着替えを済ませ、座椅子に座る。
・・・昨日、「5toGAME」というオンラインゲーム情報サイトのメールマガジンで、最近オープンサービスを開始したばかりのMMORPG『レジスタンススター』が紹介されていた。
この仕事地獄の中で、何か手軽に出来る娯楽がほしいと思い、学生時代にハマっていたオンラインゲームでもまた始めようかな?と思って、様々なゲームや娯楽情報を紹介してくれるメルマガを購読したんだ。
オープンしてから数年が経過したオンラインゲームは、既に古参プレイヤーの巣窟となっている場合が多い。
俺みたいにちょっとだけ遊びたい、なんて人は【地雷】と言われ、役に立たないプレイヤーとしてパーティーなどに参加させてもらえない場合がとても多いんだ。
そんなゲームを遊ぶ場合は、トッププレイヤーの迷惑にならないように、既に攻略されつくした場所を攻略するか、生産職をするという事になる場合が殆んどだ。折角少ない時間を使ってまでプレイするのに、ゲームの中でまで脇役人生...というのはゴメンだ。
だが、最近始まったばかりのゲームならばどうだ?
みんながまだ始めたばかりのゲーム...つまり、古参なんか存在しない。
という事は、まだ低Lvなキャラクターでプレイしても一緒に遊べるプレイヤーが沢山居るという事にだ!
そんな理由で新しく始まるゲームを探していた俺の目に飛び込んできたのが、この『レジスタンススター』だった。
仕事ばかりの毎日の中で、ちょっとした楽しみが出来るというのはとてもドキドキする。
昨日のうちに、ゲーム本体を公式ホームページからダウンロードし、インストールしてあるので、後はゲームを始めるだけだ。
昨日はキャラクターを作るだけで時間がなくなってしまったんだよな。
せっかく自由にキャラを作れるんだし、とことんやるぜ!・・・とか言って凝りまくったのは、何を隠そうこのオレだ。
でも昨日作った力作で、今日からプレイできると思うと...感慨深い物がある。
起動が終わったパソコンで、早速ゲームクライアントを立ち上げる。
味気ないローディングバーが出現し、現在の起動進行度合いを表している。
ちょっとばかり古いパソコンなので、ロードする速度は芳しくないが、数十秒ほどでバーが満タンになる。
すると、先ほどの殺風景な画面が暗転し、一つ一つの星が輝く流星群が描写される。
そして、その流星の一つとなったような視点で画面が流れ、一つの惑星へとたどり着く。
その惑星の表面には、「-welcome to the resistant star!!-」と文字が流れていった。
最近の3D技術は凄いものだ。こんな臨場感溢れる映像をゲームで実現してしまうんだから。
俺が子供の頃は、ドット絵がTV画面を駆け巡る2Dゲームが主流だった....あれから十数年でここまで進化
してしまうんだから、技術ってのは素晴らしい。
しみじみと時代の移り変わりを感じている内に画面が流れ、キャラクター選択画面へと移った。
宇宙船の発着場のような、あたり一面にメカが散りばめられた空間の中に、その子は居た。
昨日5時間もかけて生み出した、このゲームの世界で一人だけのキャラクター。
屈強な男戦士もいいけど、癒しを求めてゲームをするんだから、目の保養になる可愛い子にしたんだ。
このゲームの初期装備である、簡素なローブを見に纏ったキャラクターがこちらを見つめてくる。
これから始まるチュートリアルを行うと、主に使う武器と職業を選択出来るようになっているため、まだ手ぶらの状態だ。
さぁ、始めるかな!そう思いながらマウスを握ると、ついさっきゲームクライアントを起動した時に触った時と違う感触が伝わってくる。
どう違うかと言うと、さっき触ったときは手にすっぽりと収まるほどの大きさだったのに、今は手で覆い隠せないほど大きいように感じる。
はて?と思って手元を見ると、見慣れた自分の手とは違い、きめ細かな白い肌の小さめな手がそこにあった。
「....え?」
何気なく、左手にある窓を見ると、そこに写りこんでいたのは、見慣れた冴えない男の顔では無く、
黒髪の美少女の困惑した表情だった。
「.....え、あ、うん?」
これはどう言う事なんだ?もしかしてあの窓に液晶パネルでもはまっているのか?
窓を確かめようと立ち上がると、パソコンの画面が目に入る。
そこには、窓に移った美少女とそっくりなキャラクターがこちらを見つめたまま立っていた。
…冷静になって考えてみれば、手が俺の物と違うじゃないか。ということは...
恐る恐る下を見ると、そこには見慣れない膨らみがあった。
「なっ!?」
ビクッと身体が硬直する。その拍子に、顔の横から黒い髪の毛が流れてくる。
「なんなんだよ一体!?」
『・・・きて、起きて!』
叫び声をあげると、不意にどこからか声が聞こえてくる。
そこで視界が暗転した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「ぅー・・・う、ん?」
「やっと起きたわね!アキちゃん!」
「ふぇ?」
目の前にナリアさんの顔があった。
「すぐにここを出るわよ!隣国が攻め入ってきたわ!」
「・・・はい?」
部屋の中が薄らと明るくなっている。
おそらく早朝なんだろうか?窓を眺めてみると、外から赤い光が差し込んでくる。
その光はゆらゆらと動き、まるで炎のような....。
「って、ナリアさん!火事だよ!消防車よばなきゃああ!」
「しょうぼうしゃ?よくわからないけど、そんな物呼んでる暇はないのよ!さぁ、こっちにきて!」
「ぁ、ここ異世界だっけ・・・消防車なんて居るわけないか。」
「早く!」
「あ、はいぃ!?」
どうも寝ぼけているせいか、すぐに行動を起こせない。
俺がもたもたしているのに痺れを切らしたのか、ナリアさんが突然俺を抱えあげる。
「行くわよ!『イメージポータル』!」
「は、はひぃ!?」
ナリアさんが魔法を発動させると、視界がぐにゃりと曲がっていく。
まるでナリアさんと俺を中心にして、世界が裂けていっているようだ。
酷い乗り物酔いのような感覚が脳を駆け巡ると、その裂け目に飲み込まれてしまった。
「あわわわわ!?」
「大丈夫よ、これは転移魔法。前にアキちゃんを助けに行ったときに使った物と一緒だから!」
ナリアさんが一人で使っているのを傍から見たことはあったけれど、当事者になってみるとこんな凄まじい魔法だったなんて・・・
視界が安定しだすと、廻りに木々が出現し、足元はふかふかの枯葉が敷き詰められた森林に俺達は居た。
「・・・ここはレノラから少し離れた場所にある森よ。街の状態を確認しておきたいから、高飛びするのはちょっとまってね?」
「・・・あぃ、わかりました・・・。」
まだ目が回っているので、真っ直ぐに歩くだけでも苦労しそうだ。
そんな状態でナリアさんに抱っこされたまま森林を進むと、木々の間から赤い何かが見えてくる。
木々の間を抜けると、目の前には真っ赤に燃え盛る街があった。
窓から差し込む光で朝と勘違いしたけど、それは街が燃える炎の光だったんだ。
暗い夜空を赤い絵の具で塗りつぶしたかのような光景に、思わず息を呑む。
城下町レノラを外から見たことは無かったけど、こんな形で見ることになるとは思わなかった。
街の外周では沢山の人が戦っているようで、5kmほども離れているのにその戦いが見える。
「ナリアさん、あそこで人が戦ってるよ!?街の人はどうなったの!?」
「・・・あれはオレアノラ国軍とルィーダ帝国軍ね。多分住民は自分の判断で逃げてるとは思うけど・・・」
「これが戦争・・・こんなのが、これからこの世界で起きて行くの・・・?」
「そうね....これから沢山の戦争が起きるかもしれない。戦争は何も生み出さないのに...残されるのは憎しみと悲しみだけ。だから戦争になる前に私たちは逃げるのよ。」
ナリアさんが言っていることは最もだと思う。俺なんかがあそこに飛び込んでも、誰かを助けるなんて事は出来ないだろうし、あっという間に死んでしまうだろう。
でも、なんだか...ここで逃げてもいいんだろうか?そう思ってしまう。
悶々と考えつつ、戦っている人を見ようと、昨日教わったばかりの魔法『カルム』を唱える。
ゴマ粒ほどにしか見えなかった人が、鮮明に視界に写る。
だが、その光景を見た瞬間、身体が凍り付いてしまった。
. . .. . .
子供を抱えた母親のような人が、今まさに切り殺される瞬間だった。
「っ!?」
顔の前に展開する魔法で作られた窓越しに、遠く離れた光景が目の当たりになった。
次の瞬間、惨殺される光景が目に飛び込んで来るかに思われたその時。
ルィーダ帝国の兵士と思われる男が、全身から血を噴出して倒れた。
「え?」
子供を抱えた母親の前に、どこかで見たことのある青年の姿があった。
青年は振り返り、女性に手を差し伸べていた。
「フロルさん!」
つい先日、空から降ってきたあの人だった。
「ナリアさん、あそこで子供を抱えた女の人を助けてる人、この間話したでしょ?私を助けてくれた人なんだ!」
「え?....アキちゃん、彼の名前ってもしかして・・・フロルとか言わなかった?」
「うん、そうだよ!」
「…じゃあやっぱり、あのフロルさんね。」
「?」
あのフロルさんって何の事だろう?
・・・って、こんな事してる場合じゃない!
「ナリアさん、私達も助けにいこうよ!」
「...あそこは危険よ?もしかしたら死んでしまうかもしれないのよ?私がついてる限りアキちゃんを死なせは絶対にしないけど...。」
「あんな惨状を目の当たりにして、何もしないで逃げるほど冷徹じゃないよ!!」
とは言ったものの、本当は怖い。
学生時代から喧嘩さえしたことが無い俺が、あんな暴力の嵐に飛び込んで無事に済むとは思えない。
でも、そんな事言ってる場合じゃないんだ!
「・・・わかったわ。でも、その代わり!これから教える魔法を常に展開するのよ?」
「わかった。言われたとおりにする!」
ナリアさんも判ってくれたみたいだ。そもそも、ナリアさんは冷徹な人ではないんだ。俺が足手まといになるから、俺を逃がそうとしてくれたから....逃げようって言ってたんだと思う。
旅に出るって提案も、右も左も判らない俺が戦争に巻き込まれるのを可哀相だと思ったからだろう。
なんだかんだ言っても、こんな身元不詳の俺に優しくしてくれる人だから、襲われている人々を見捨てるなんて事はしないと思うんだ。
なんせ、この人は優れた魔法使いなんだ。この街に住む人すべてを助ける事は出来ないかもしれない。でも一人でも多く助けられるかもしれない!
「じゃあ、スペルを教えるわね。私の後に詠唱してね?」
「わかりました!」
・・・・・・・
「博愛の精霊よ、全ての害より我らを守れ。『ガードサンクチュアリ』」
魔法を発動したナリアさんの身体を、金色に輝く薄い膜が包み込む。
「これは中級防御魔法よ。火の粉や流れ矢なんかも防げるから、この魔法は維持し続けるのよ!後、魔力を込めればある程度硬度を上げることが出来るから、危ないと感じたらすぐに魔力を込めるのよ?」
魔力を込めるというのは、昨日ナリアさんに魔法を教えてもらっていた時に、ついでに教えてもらった事だ。
魔法を発動する時点で必要な魔力は、発動した時点で勝手に持っていかれる。だがその状態では決められた力しか魔法は発揮できない。
たとえば「ライトボール」を発動した時は、一つだけだと薄明るい程度の輝きしか持って居ないが、発動した光の玉に自分が持っている魔力、つまりMPを多く与えると、ある程度明るさが上がるのだ。
魔力さえ込めれば無限に効果が上がるというものではなく、一定のラインで限界があるらしいが、同じ魔法を重ねて発動するよりも消費が少ない場合が多いので、魔力を込めるのは必須技術とも言える。
どうやるかというと、全身に流れている魔力の流れをイメージして、流したい対象を定めて送り込むという物だ。
教えてもらったばっかりの時にはサッパリわからなかったけれど、全身を流れると言えば・・・血か?
と思い、頭の中で血管を自分の身体の外に伸ばすようなイメージを持って、そこに力を込めるとライトボールの明るさが増したのだ。
あれを今度は「ガードサンクチュアリ」でやるって事か....出来るかな。
いや、「出来るかな」じゃないんだ。ここは一発で成功してみせる!
「博愛の精霊よ、全ての害より我らを守れ。『ガードサンクチュアリ』!」
魔法が発動して、俺の身体を薄い膜が包み込む。
試しに、魔力を少しずつ込めてみると、膜が放つ光が増していく。
よし、準備完了だ!
「ガードサンクチュアリは中級魔法だけど、重い攻撃を食らうと激しく魔力を消費してしまうから、気をつけるのよ!」
「わかりました!」
目指すはフロルさんが居る場所。カルムで見た感じだと、町の人々を守りながら少しずつ敵兵を無力化しているみたいだ。
昨日見たときも、すさまじい速さで動いて、まるで消えたように見えたもんなぁ・・・・。
何故かわからないけど、彼が居ればなんとかなるような気がしてくる。
「ナリアさん、フロルさんが居るところに飛んで!」
「言われなくても、まかせなさい!『イメージポータル』!」
燃え盛る城下町へ俺とナリアさんは戻っていった。
年末は忙しいですねぇ~。
お正月にまとめて投下できるようにがんばります。




