春の星座
場内は薄暗い。
足元のランプの光があたりをオレンジ色に仄かに照らしている。
西側後方のシートに腰を下ろす。
東は明けの方角だから夜空を満遍なく楽しめる。
開演まではあと10分。
隣に座る彼女はパンフレットを見ている。
暗がりで必死にパンフレットを見る彼女の目は好奇心に輝いている。
天球を模したスクリーンは近々ある天体ショウをアナウンスしている。
『直接見ると目を痛める可能性があります』
彼女はこちらを見て言った。
「日食、一緒に見ようね。次は2030年だって」
その時、一緒に観ることができるだろうか。18年後。
「寝坊するなよ」「そっちこそ」
彼女は柔らかく微笑んだ。
場内が暗転し足元のオレンジ色の明かりが消える。
彼女がゆっくりとシートを倒す。
暗闇に彼女の首筋がぼんやりと白く浮かぶ。
彼女がこちらを向く。
「ドキドキするね」
ゆるく弧を描く瞳とうっすら開く唇。キラキラと輝く。
「うん」と答え天球に目を向ける。
幾千の星が輝く。優しい男性の声で春の星座の解説が始まる。
牛飼い座のアークトゥルス。火球の赤。
乙女座のスピカ。真珠の白。
このふたつは夫婦星。遠く離れている彼らも数万年後にはとなりに並べるらしい。
彼女との二年もあっという間。隣にいることを愛しく思う。
願わくば彼女と共にありますように
夫婦星の輝きにそう思った。