フワフワな自分
読んで頂いて有難うございます。
気長に読んでいただけたら嬉しいです。
自分でも自分がフワフワしているのがわかる。
自分の中で1番のルールでもある『面倒くさいことは極力遠ざける』ができていないのもよくわかっている。
まず、第一に今回はたまたま仕事の都合上会ったけど、次はないこと。
それに、やや好みのタイプだとしてもハードルがかなり多いこと。
どう考えてもフワフワしていい条件はない。
「どうしたんですか?野田さんビールがよかったですか?」
「えっ!あっ違います。大丈夫です。焼酎で」
考えすぎて棚澤さんの飲んでいたビールを凝視していたのを、僕がビールを飲みたそうと思ったみたいだ。
「これ美味いですよ。魚の。」
「…本当だ。」
棚澤さんの笑顔につられて笑った。この人の笑顔はどストライクかも…
「なんかずっとメールしてたせいか初めて会った気がしないです。
俺なんて今朝、部屋入ってすぐ野田さんがわかりましたよ」
少し得意気に言って、パクパクと魚の揚げ出しを食べてる。
だから今朝、自己紹介をする前に僕の事…そっか、僕が棚澤さんってわかったのと一緒だ。
「僕も棚澤さんってすぐわかりましたよ」
「マジですか?!」
すごい嬉しそう…駄目だ、またフワフワ度が増した。
「ブレッド監督の前の前の映画って見ました」
「見ましたよ。棚澤さん見てないんですか?」
「仕事がちょうどその時詰まってて、しかもあんま向こうでもヒットしなかったせいか、こっちでの上映館数少なくなかったですか?で、見逃しちゃって」
「確かに少なかったかも。でもこの辺は都市開発とかで急にショッピングモールとか映画館が増えたおかげで、上映があったんですよ」
「そうなんだぁ…面白かったですか?」
「結構、僕的にはよかったですよ。音楽とかも良い感じだったし」
「じゃあDVDでたら見ようかな…デートとかで見に行ったんですか?」
「アハハ。違いますよ。ブレッド監督のとかデートに向かなくないですか?」
「そうなんですか。…ハハ、確かに向かないかも」
やっぱりこの人の笑顔はタイプかもしれない。
「野田さんが俺と趣味とか合うのがわかった時嬉しかったんですよ」
この人っていつもこんな柔らかく笑うのかな…彼女とか幸せだろうな。
「野田さん?」
「あっはい。僕も嬉しかったですよ。あんまり映画を監督で選ぶ人自体少ないですし」
「そうなんですよ。」
あんまこっちを見ないで欲しいんですけど…
「最初、野田さんと仕事の挨拶くらいのメールだけしてたじゃないですか。
そんで、突然仕事以外の事をメールに書いた時、かなり緊張したんですよ。
普通は書いちゃ駄目でしょ、とか…スルーされるかもとか」
「普通はそうですよね…でも、棚澤さんのメールってなんか優しい感じで好きでしたよ。
だからけっこう棚澤さんからのメールが楽しみだったりします。」
おいっ!!自分!!意味のわからない事を言ってますけど!!
フワフワしすぎだっつーの…
でも、棚澤さんも結構飲んでるし、つい変な事言ったけど大丈夫だとは思う。
「ありがとうございます。なんか普通に嬉しいです」
また、棚澤さんがニコっと笑った。
*
「いや~本当に美味かったです。あんなに美味くて、かなり食べたのに安いし」
「確かに。でも駅からけっこうあるんですよ。しかも道暗いし。そこが難点かな」
二人で色々話しすぎて遅くなってしまった。
夕飯だけのはずが、多分棚澤さんが家に着く頃は日付が変わってしまっている。
「いつもは彼女…とかと来るんですか」
「いえ、大体友達ですよ。たまに飯作るのが面倒な時は一人でも来ますけど」
「そうなんですか」
「今日はよかったです。」
棚澤さんが低くて柔らかい声で言った。少し酔いが回ってそうだ。
「そうですね。試作も規定値内だったし。納期も間に合うみたいですし」
「それもそうですけど・・・・・・
野田さんに会ったんで」
なんて言い返すのが正解なのかわからない…急で頭が上手く動かない
「・・・・・・・」
だまってしまった…
暗い夜道を男二人で歩きながら、目が合ったまま逸らせないとか変だろっ!!!!
って頭の中が総動員で自分に突っ込んでみる
棚澤さんはこっちを見たままだ…
「・・・・・・・」
無言とか駄目でしょ…。
「こっこの道は暗いんですけど、あっほらあの角を曲がったら大きな通りにでるんで」
とっとりあえず前を見て歩きましょう。前を…
「あっはい。」
なんかフワフワが収まらない…
とりあえず他愛のない話をずっと続けよう。駅まであと5分くらいだし。
駅の近くに来るとさっきの道とは全然違ってかなり賑やかだ。
暗いところから急に明かりが多い所に出て、目が少しチカチカする。
「今日は色々有難うございました。」
棚澤さんも明かりで少し酔いが醒めたのかさっきよりしっかりした口調だ。
僕と同じように目がチカチカするらしく、少し目を細めて眩しそうだ。
「いえ、こちらこそ。お疲れまでした。案外、遅くなっちゃいましたね。」
「そうですね。でも楽しかったです」
またあの柔らかい笑顔でそれじゃあと言って駅に入っていくのを見送った。
やっぱり棚澤さんの笑顔は好みだと思ってしまった。
*
“昨日はありがとうごさいました。
大木さんや他の方にもお礼を言って下さい。
無事に納入が済みました。
あの居酒屋、連れて行ってくれて有難うございました。
本当に楽しかったです。アリガトウ(*´ー`*)ゞ
帰りの電車の中でブレッド監督のDVD探しながら、笑顔になってしまいました
ヾ(*゜∀゜*)ノキャッキャッ♪
品質保証部
棚澤明倖“
昨日はフワフワしすぎてしまった。まだ、なんか気持ち的にそんな感じのままだけど。
また、いつも通りにメールのやり取りがあるだけだし
いつもは再作の試作品を本社の人が持ち込むことなんてまずないわけだから、もう棚澤さんに会うこともないだろうし。
プライベートの連絡先も知らないし、そもそも教えてないし
って、何をちょっと落ち込んでんだよっ自分!!!!
もう、なんだろこれ…とりあえず今日の分メールして帰ろう。
“お疲れ様です。
本日、測定品の結果を纏めましたので確認をお願い致します。
あのDVDならネットで見つけましたよ。
いつ発売だったかな。買おうかどうしようかまだ迷ってますけど
URL調べておきますね。
僕も昨日は楽しかったです。
遅くまで付き合ってもらってしまってすみませんでした。
品質検査部
野田有也“
コーヒー飲もうかな…。
ほんと…社内で恋愛対象とか考えたことないでしょ。自分。面倒なんだからさ。
そもそも進展しないから…
コーヒーを飲んで少し休憩を取って戻ると、まだ測定室には何人か残っていた。
帰るかな…。
「?」
メールがきてる。誰だろ。夕方やってた会議の議事録かな…
“お疲れ様です。
URLわかったら教えて下さい。アリガトウ!(●'w'●)ノ
これ俺の携帯の番号とアドレスです。
010-XXXX-XXXX
XXXXXXXXX@XXXXXXX
棚澤明倖“
!!!!!!!・・・・・・
棚澤さんのプライベートの連絡先を知ってしまった。
1日に一回だと思っていたのに、イレギュラーな棚澤さんからのメールにびっくりしてしまった。
コーヒー持ってなくてよかった。2日連続でこぼすとこだった…
ちょっと…棚澤さん…フワフワが治らなくなってきたんですけど…
次回は5日の火曜の10時頃に更新したいと思います。
宜しくお願いします。