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* 六 *
人が轢かれる所を見たのは初めてだ。今まで犬や猫が轢かれて死んでいるのを見たことはあっても、人間が、しかも目の前で轢かれるとは。
オレはこれからの用事も忘れて、ただそこで突っ立って様子を見ていた。
音に気付いて家の中から出てきた野次馬が警察かどこかに電話を掛けている。轢いた車から白い服装の女が出てきた。首から下げているのはヘッドホン。その色が派手な赤だったからこの距離からでもはっきりと確認できる。
轢かれた二つの塊にその女は早足で近付いく。二つの塊の片方は血塗れのぐちゃぐちゃでよく分からないが体格からして男。もう片方は真っ白なドレスを着た金髪の女性。何故かこの女性からは血が流れていない。それがとても幻想的だった。
ヘッドホンの女は金髪の女性のそばに寄ると首元に手を伸ばし、何かしたあとでさっと離れた。そこで轢いた車の運転手となにやら話をしている。
オレは面倒なことに巻き込まれるのは嫌だったので、素知らぬ振りをしてこの空間から離脱した。




