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PSYCHO-PASS(批判的感想)

(※クレームを付ける内容になりますので、ファンの方には面白くありません。読まないように)


 2012年10月。

 第1話を見て、そのあまりの暴力描写のひどさに拒否反応を起こし、2話以降は見なかった。

 その後、どうもすごく評判がいいらしいなと、見なかったことをちょっと後悔。

 2014年7月。

 「新編集版」を今度は見てみる。やっぱり暴力描写は鳥肌もので嫌悪を感じたけれど、全11話(途中第4話は放送中止)見終わり、正直言って、すごく面白かった。


 けれどやっぱり……


 と、ひどく引っかかりを感じている。



 第4話が放送中止(第5話を繰り上げ放送)になった理由は、女子高校生が起こした殺人事件だろう。明確にそうとはアナウンスしていないようだけれど。

 わたしはこれを当然の処置だと思うけれど、不満とする意見もあるようです。


 この事件を受けて、9月1日「ビートたけしのTVタックル」が


「ロリコン&暴力 アニメに規制は必要か?」


 というテーマを取り上げ、番組及びネット上で色々激しい意見が交わされた模様。


 わたしは2012年の段階で既に、

「ちょっと最近のアニメは暴力描写がひどすぎないか?」

 と思っていたので、規制賛成派です。


 「PSYCHO-PASS」と同じ深夜アニメ「ノイタミナ」枠の「ギルティクラウン」の第1話もひどかった。(同じくアニメ制作はプロダクションI.Gですね)

 なんなんだこれは?と思った。まともじゃない、と。


 「鋼の錬金術師」も最初の方で幼い女の子が犠牲になる残酷なエピソードがあった。このエピソードは最後まで重い十字架として背負い続けたので立派だったと思うけれど、それでも、他に描き様があったのではないか?と思います。


 その他にもありますが、角が立ちそうなのでやめておきます。


 こうしてアニメーションで過剰と思われる暴力・残虐描写がされるようになったのは……

 最初は「AKIRA」になるでしょうか? 細かく見ていけばいろいろ異論はあるでしょうけれど、広く大きな影響力を持つという点で。

 「AKIRA」のリアリティーは圧倒的だった。その前に大友克洋氏は「童夢」を描いていて、この超能力バトルの描写も圧巻だった。現在のスーパー肉弾バトルの描写はみんなこのパクリだと言ってもいいくらい。「ドラゴンボール」もこの作品のフォロワーだと見てもいいでしょう。

 「童夢」「AKIRA」は子どもっぽいSFマンガをストーリー面でも描写面でも圧倒的なイマジネーションと構築力、描写技術でリアルに描いたところがエポックメイキングで、リアリティーこそが魅力だった。

 「ドラゴンボール」やその後のバトルマンガは、大友氏が開発した表現スタイルを、美味しい所取りをして、再びマンガにして、すごく分かりやすい形で魅力を爆発させた。

 「ドラゴンボール」も暴力性が問題にされたことがあったと思うけれど、まあかわいいものだった。


 再びマンガに変換された荒唐無稽なマンガ的暴力を、また、生々しい暴力に引き戻したのが、「エヴァンゲリオン」だったんじゃないか?と思います。

 この「エヴァンゲリオン」の生の暴力性が、今日問題にされるマンガ・アニメに置ける暴力・残虐描写につながっていると考えます。


 この流れで、同じ暴力を描きながら、

 マンガっぽい「ドラゴンボール」は良くて、

 リアルな「エヴァンゲリオン」は駄目なのか?

 となります。

 わたしはどちらにも問題があると思います。

 単純に言ってしまえば、

 「ドラゴンボール」は子どもを乱暴にして、

 「エヴァンゲリオン」は中学生、高校生を凶暴にする。

 同じく、

 「AKIRA」は高校生・大学生をテロリストにするのかもしれない。


 ここまで言ってしまうと、馬鹿じゃないか?と思われるだろうし、それぞれの作品のファンからは、

「部分的な描写だけ取り上げて、作品全体を見ずに、くだらない揚げ足取りをしているだけだろう」

 と反発されるだろう。



「PSYCHO-PASS」に戻ろう。



 2度目のトライで最後まで見て、正直なところすごく面白かったんだけれど、

 最初はこの作品をどういう見方をしたらいいのだろう?と戸惑いが強かったです。

 とにかく最初からひどい暴力が描かれて、ショック状態に陥ってしまった。

 これはSFなのか? アクションなのか? ホラーなのか? なんなんだ? どういう目で見ればいいんだ? と。

 そんなジャンル分けなんて無意味だから、作品そのものを見ろ、と言われるだろうが、わたしはまずこの暴力にやられてしまって、この暴力を作品的にどう捉えたらいいのか分からなかったのだ。

 この暴力は、相手を一方的に蹂躙する犯罪で、バトルとか言った心が高揚するような類の物では全然ないのだ。

 制作者がどういうつもりでこんな物を見せているのか? わたしはそれが理解できないでいったんは完全拒否してしまった。


 過激な暴力描写はこの後もいくつか出てくる。

 精神異常者は「psychopath」と書く。

 「PSYCHO-PASS」は全ての人間の精神状態をスキャンし、それによって管理された社会を描く近未来SFストーリー。

 「サイコパス」の意味が違うけれど、精神異常の方の「サイコ」の意味もタイトルには含まれているだろう。

 精神が数値化されて管理された社会で犯罪を犯すのは「サイコ」の人間だけ。

 だから描かれる犯罪は狂気じみたものばかりになる。

 非常によく出来た、上手い作品だと思う。

 過激な暴力描写も毎回登場するわけではなく、ここ、という、実に効果的なタイミングを準備して描かれる。

 そのタイミングが実に上手すぎて、わたしには作り手の「面白くする計算」が感じられて、どうも素直に受け取れない。

 作品全体を通して、すっかりシステムに頼り切り、自分で考えることを放棄してしまった社会のいびつさ、あやふやさが描かれる。

 そして後半のクライマックス前、決定的にショッキングな殺人事件が描かれる。

 この殺人事件は、そのまま、携帯のカメラに撮影され、ネットに動画がアップされ、ニコニコ動画にコメントがワーッと流れる。(←劇中の描写)

 作中、作者は意図的に残虐な殺人事件の様子を、そのまま生で、繰り返し、見せつける。

 まさに狂った社会だ。

 作品のテーマを実によく表している。

 ………が、

 しかし、だ…………

 残虐描写はエスカレートしていき、とてもここでは具体的には書けない。

 ここまで見せる必要があるのか?と思う。18禁のホラー映画でもこれはアウトだ。

 たちの悪いのが、これがホラーではないことだ。

 「PSYCHO-PASS」は分類すればやはりSFになるだろう。残虐描写もSFのストーリーを語る上で、必要なこと、として挿入されている。描写自体、現実の事件をモデルにしているのだろうと思われる物もある。

 ストーリー上、テーマ的に、必要であるのは分かる。

 ではあるけれど、と、どうしても思ってしまう。


 これは現実のドキュメンタリーではない。

 しょせんアニメであり、マンガなのだ。


 上記の殺人動画がニコニコ動画で流れるシーン、

 図らずもテロリストが人質を殺害する様子をわざわざ動画サイトに投稿するのを先取りしている。

 しかし作中で、ストーリー的には撮影して動画を流すのはたまたま行き会わせた一般の通行人なのだけれど、視聴者の感覚的には、それをやっているのは作者たちであるようにわたしには感じられた。

「ひどい……」

 と作中のキャラクターに言わせておきながら、それを実際に描いているのは制作者じゃないか?

 それを思いっきりリアルに描いて、なんの表現的なぼかしも入れないで生で見せつける、

 とてもまともな感覚の人間のやることではないとわたしは思う。


 けっきょくのところ、それが面白いからやっているのだ。

 ショッキングな描写が受けるから、やっているのだ。


 そう言われたなら多分作者は、

「そうだよ」

 と平然と答えるように、わたしには思える。

(それとも「おまえは何も分かってない!」と怒り狂われるだろうか?)




 過激な描写とは何か?


 DVを受けている女性がいるとする。

 ひどい暴力を受けて、当然反発するだろう。

 でもDVを受けながら、その相手と別れない女性も多いだろう。

 わたしは全然専門家なんかじゃないから適当な想像かもしれないけれど、

 激しいショックを受けると、人はその感覚を処理できず、感覚や思考に空白が生じる。

 その隙に、

「俺がなんでおまえにこんなことをするか分かるか? それは、俺がおまえを愛しているからだ!」

 と、強い調子で言われたとする。むちゃくちゃな論理だが、

 激しいショックを受けると、人はまずそれからの防御を考え、肉体ばかりでなく、精神も壊れるのを防ごうとする。そこでショックを処理する過程で、それをどう考えるのが自分が傷つかずに済むか考える。ショックから回復していない状態で「愛してるからだ」と肯定的な思考を刷り込まれると、それをすんなり受け入れてしまうのではないか? 激しいショックそのものを、自分にも都合のいいように自己変換してしまうのではないか?

 「エヴァンゲリオン」の過激な暴力・残虐描写にはそういう効果があるのではないかとわたしは思っている。

 いったん激しく拒否反応を持つけれど、理屈をこねられると、素直に受け入れやすいのではないか?と。


 人間というのは常に新しい刺激、より強い刺激を求める生き物だと思う。

 つまり、同じ類の刺激を何度も受けていると、それに鈍感になり、何も感じなくなってしまう。

 だから激しい描写はよりいっそう激しくなっていく。そうでなければ視聴者は慣れてしまって面白がってくれないからだ。

 それを繰り返していれば視聴者も制作者もどんどん鈍感になっていき、描写はどんどん過激になっていく。

 「PSYCHO-PASS」のクライマックスや「ギルティクラウン」の第1話など、わたしから見れば完全に制作者の感覚は麻痺している。あれを見た他の視聴者はどうなのだろう?



 マンガ・アニメに置ける描写の規制の是非を論ずる時、その根拠として挙げられるのが

「犯罪を助長している」

 もしくは

「犯罪の抑止になっている」

 という評価だろう。

 実際のところは分からない。数字だけ見ると「抑止になっている」となっているようだけれど(つまり犯罪件数は減っている)

 本当にそうだろうか?

 これはわたしの印象でしかないけれど、犯罪はより悪賢く、陰湿化しているように感じる。

 犯人側が、ばれなければいい、犯罪にならなければいい、と、被害者に対して悪質に立ち振る舞い、自分は安全な立場を確保する、ということが行われているような気がする。

 そういうことはニュースなどから垣間見える犯罪の様子からそう感じるのだけれど、

 悪賢い犯罪は犯罪として表に出ていないケースが多いのではないかと危惧する。

 女性の弱みに付け込む性犯罪などがそうだろうし、

 学校でのイジメもそうだろうし、

 会社でのパワハラ、契約社員イジメなどもそうだろう。

 これらは犯罪として表の数字には出てこないだろうけれど、どうだろう? 自分自身の肌感覚として、そうした準犯罪が増えて、しかも悪質化している、とは感じないだろうか?

 もちろんそれを全部マンガ・アニメのせいにするのは暴論だし、わたしもそれは間違っていると思う。表現の自由擁護派はそれこそ「そういう事を抑制する効果がある」と作品のテーマ性などを強調するかもしれない。

 けれどわたしはやはり、特に若者が読む、見る、マンガ・アニメの過剰さが、社会全体の精神形成に大きく影響していると思う。

 つまり、感覚が鈍くなっているのだ。

 それがマンガ・アニメのせいばかりでないのは分かっている。それを指摘しだすとまた膨大な文章を書かなくてはならなくなるので今はしない。

 むしろマンガ・アニメの過激な描写は、社会の空気感を敏感に捉えたものとも思える。



 では、制作者やファンたちに訊きたいのだけれど、


 あなた方は社会を、どうしたいと思っているのですか?



 マンガやアニメなんてしょせんくだらない娯楽で、社会がどうのという面倒なこと、考えたくもないという人が大半だろう、

 犯罪を助長していると主張する意見には「そんなのは一部の人間だけだ」と不愉快に反論するだろう、

 けれど、元々犯罪というのは一部の犯罪的な人間が起こす物で、けれどその一部の人間が、被害者や社会に多大な害を与える。問題なのは、社会がそれをどう捉え、どう対処するか、であり、

 マンガ・アニメという娯楽がどういう立場を取るかだ。

 犯罪が起これば、そこには必ず被害者がいる。殺人事件なら遺族が生まれる。

 被害者や遺族が、自分たちが多大な苦痛と悲しみを与えられた事柄が、娯楽として楽しまれているという事に、またどれだけの苦痛と、社会からの疎外感を味わわなければならないだろう?

 表現の犯罪との関わりを問う時、そうした視点も加える必要があるのではないだろうか?

 これはフィクションなんだから実際の事件とは関係ない、と切り離すのは、同じ社会に暮らす一員としてあまりに心ない態度ではないだろうか?


 他人の痛みに対する同情心。


 それが今の社会には著しく乏しくなってしまったように感じる。

 想像力の欠如と鈍感さ。

 それを社会に蔓延させている責任は、全てではないけれど、マンガ・アニメにも大いにあると思う。


 逆に言えば、意識すれば、マンガ・アニメは社会に対し、特に若者に対し、大いにポジティブな影響を与えられるのではないか?

 それは作者だけに求めるのは難しい。何故なら、作者は広く一般に受ける、面白い物を作っていかなければならないからだ。

 ファンの意識的なサポートが、絶対に必要なのだ。


 責任論ばかりでなく、自分たちはどうしたいのか?ということを、

 もっとポジティブに考えていってくれたら、と願います。

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