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ピンポン

 フジテレビ深夜アニメ枠ノイタミナで現在(2014年5月)放送中。


 原作はカルト的な人気を誇る松本大洋の1996~97年のマンガ。


 2002年に当時人気絶頂だった窪塚洋介主演で映画化されている。



 わたしは原作マンガは読んでませんが、映画化された際に情報として「カルト的人気」作品であるらしいというのは知っていました。

 映画をテレビ放送で見て、よく覚えてませんけれど面白かったように思います。が、すごくまともなスポーツ青春ストーリーで、これがどうして「カルト的人気」なのだろう?というのは分かりませんでした。


 今回のアニメを見て、原作マンガのカルト的人気がほぼ100パーセント、よく分かりました。


 絵を見てびっくり。すんげえなあー……と。


 これはほぼ原作マンガの絵をそのまんま、アニメーションにしているのかな?

 ものすごい描線にものすごい構図。

 カルトのカルトたるゆえんがそのまんま分かりました。


 スタッフを見て驚いたのが、アニメ制作がタツノコプロなんですね。タツノコプロと言うとわたしのような古い人間には「タイムボカン」や「ガッチャマン」のような劇画調のかっちりとした絵柄、作画のイメージがあって、ここまで極端にデフォルメされた崩れた作画は驚きでした。元々すごく高い作画レベルのプロダクションで、一時期低迷していたようですが、最近はこうして別のスタイルで復活して来たのでしょうか?


 原作の描画をそのまんまアニメーションにしてしまうという荒技をやっているのが、監督湯浅政明氏でしょうか。監督・シリーズ構成・脚本・絵コンテと、4役こなしてます。

 湯浅政明と言うとアニメファンに注目されるようになったのは「クレヨンしんちゃん」の作画によってでしょうか? たまに極端に斜めにデフォルメされた絵がありますよね? あれがそうなんじゃないかと思うんですが、今ネットで調べたら劇場版「ヘンダーランドの大冒険」のクライマックスのおっかけシーンが代表的仕事として挙げられていました。

 「クレヨンしんちゃん」なんて見てないよ、という方に、その魅力を伝えるもっと古~い代替例、その元祖とでも言うべきアニメーターを挙げますと、


 金田伊功(かねだよしのり)


 という、往年のアニメオタクで知らない人間はいないだろうという、いわばスターアニメーターがいらっしゃいました。

 ちょっと改まった言い方になっているのは、今調べてみたら、2009年に病気でお亡くなりになっていたんですね。57歳だったということで、惜しいですねえ。アニメの仕事は過酷で低賃金で、早死にする人が多いんですよねえ。

 キャラクターデザインや作画監督でもなく、アニメーターが作画で注目されてマニアの間でスターになるという例は、金田さんが最初じゃないでしょうか? 他にわたしの年代でスターアニメーターと言うと、「ルパン三世 カリオストロの城」のカーチェイスシーンを担当した友永和秀さんがそうですね。その次の世代で「ゴールドライタン」のなかむらたかしさん(タツノコプロ出身。「AKIRA」作画監督)、「エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督も最初に注目されたのは「風の谷のナウシカ」の巨神兵の作画だったんじゃないでしょうか? それ以降の方は知りませんが、金田さんや友永さんに憧れてアニメーターを志した若者は多かったんじゃないでしょうか?

 おっと、調子に乗って話が逸れてしまいましたが、金田伊功さんです。

 一番代表的な作画と言うと、「幻魔大戦」のラストバトル辺りでしょうか? 吹き上がるマグマが龍の形になって、その口からまた龍が飛び出して、という。この角川映画は原作・石森章太郎、監督・りんたろう、キャラクターデザイン・大友克洋、音楽・キース・エマーソンという超豪華スタッフによる豪華お子様ランチという趣でしたね。その中で金田伊功は「スペシャルアニメーション」と、一般アニメーターとは別枠でクレジットされています。

 そんなマニアな昔のアニメ映画なんて知らないよ、という方に、これなら絶対知っているだろうというのが、


「となりのトトロ」の「猫バスの疾走シーン」。


 見たことあるでしょう? あの風を巻き起こして飛び回る猫バスの動きもそうですが、電柱に登る時に電流がパリパリと走るでしょう? ああいう光り物の作画がまた得意な人で、「爆発の金田」「透過光の金田」なんて異名を誇っておりました。

 猫バスでは作画の特徴がはっきりとは分かりづらいと思うんですが、同じく宮崎駿作品の


「天空の城ラピュタ」の「カイトで竜の巣(積乱雲)に突っ込んでいくシーン」


 は、龍のような稲光が走ったりして特徴が分かりやすいと思います。あのシーンだけパズーの顔とかちょっと他と違っているでしょう? 癖が強すぎて、宮崎監督も上がって来た原画を見て「これどうしよう?」と悩んだんじゃないかと思います。

 デッサンが崩れるギリギリの極端なデフォルメと、「ジョジョ立ち」に通じる極端なポーズと、大胆すぎる構図、動きのデザイン、タイミングも独特で、「なんだこれは!」と岡本太郎ばりに爆発しまくってます。



 何の話をしてるんだ? 「ピンポン」じゃないのか?

 とお怒りの向きもございましょうが、「ピンポン」におけるアニメーションのカルトぶりについての説明です。

「でもマンガの絵をそのままアニメーションにしてるんだろう? だったら原作マンガがすごいってことだろう?」

 と、その通りなんでしょうけれど、だからと言ってそれを出来るアニメ監督、アニメーターでなければ不可能なわけで、

 ただ単に絵に動きをつけるだけじゃなく、動きそのものを自分の中で再現できていなければ、アニメーションには出来ないでしょう。

 アニメーションの絵というのは、特に日本のアニメの場合、一連の動きが均一に描かれているわけではないのです。あえて途中の動きを抜いて、または余計な物を入れて、一枚あたりの撮影コマ数を調節して、アクセントを付けることによって、日本のアニメ独特の生き生きとした、迫力ある動きというのが生まれるのです。


 最近のアニメの作画はすごくレベルが高く、デッサンも正確で、動きも繊細で、素晴らしいんですが、ちょっと寂しい気がするのはダイレクトにアニメーションそのものの面白さを感じることの出来る作品になかなか出会えないこと。

 特に最近は3Dデータでキャラクターまで全部コンピューターで作画しちゃったり、そこまで行かなくてもメカや背景は3Dで作って、そこに手描きのキャラクターを載せるといった作りがだんだん主流になって来て、日本の伝統芸と言ってもいい手描きアニメの面白さが希薄になってきつつあるように感じます。マンガも3Dの作画を導入している作品は増えて来てるんじゃないかという気がするんですが、どうなんでしょう?

 マンガにしてもアニメにしても作画レベルはすごく上がっていると思います。

 でも、マンガの表現にも共通すると思うんですが、アニメーションの根源的な面白さって、

「描いた絵が動く」

 という、実にシンプルな物なんじゃないかと思います。

 マニュアル的に技術レベルが高くなりすぎると、かえってそういうシンプルな面白さを出しづらくなっているのかも知れません。


 そこで「ピンポン」です。


 ここにはまさに、

「描いた線が動く」

 というアニメーションの原初的な面白さが爆発しまくってます!


 見たことの無い人、まずオープニングを見てびっくりしますよ。

 まさに描線です。

 コンピューターではあり得ない、描いた線が、描いた絵が、思いっきり生き生きと、動きまくって、動きがデッサンも何もかも、突き破っちゃってます。すんげえ変な顔。でもそれがハッとするほどかっこいいんですよ!



 以上、

「ピンポン」の作画面のカルト性を説明しましたが、

 それにしては、「カルト」と評するには、「ピンポン」の物語はあまりにもまともです。


 あ、今になって内容についてまったく説明してなかったことに気がついた。メジャーな作品だという思いと、アニメーションのインパクトですっかり失念していました。


「ピンポン」はタイトル通り、ピンポン(卓球)に打ち込む高校生たちの物語で、


 主人公=抜群のセンスを持っていて、子供の頃から地域の卓球少年たちのヒーローであった、ペコ。

 ほとんどペコと1セットみたいに扱われている幼なじみの、まったく笑わない、スマイル。でも実はペコ以上の才能を持っている。

 ペコ、スマイルと子供の頃から卓球道場でライバルで、やたら突っかかってくるつり目の、アクマ。

 卓球の国中国から、ナショナルチームから漏れて日本に卓球留学生としてやってきた、チャイナ。

 卓球王国海王学園高校の主将、絶対的王者、ドラゴン。


 彼ら高校生たちに、ペコたち卓球部の顧問の先生や、卓球道場のオババ、海王学園高校のコーチや理事長といった大人たちが登場人物。


 そして物語は、ものすごく真っ当な卓球青春ドラマ。

 卓球を通して、勝者と敗者、夢を掴む物と夢に破れた者、挫折と、そこからの復活といったドラマがすごくストレートに展開されます。


 全然カルトなんかじゃないよ。(カルトと言ってるのはわたしだけかも知れないけど)


「あしたのジョー」とか「エースをねらえ!」とか、ああした往年のスポーツ青春物と同列のまっすぐな物語です。


 でもね、今の時代、それがかえってカルトなのかも知れない。


 ペコ、スマイル、アクマ、チャイナ、ドラゴン、と、表面的にはキャラの立ちまくったメインの高校生たち。けれど物語が進んで彼らの内面が現れてくると、実はみんな、すごく普通の高校生の感性を持っているのが分かってくる。

 挫折して、落ち込んで、投げ出して、仲間に叱咤されて、思い出して、帰ってくる。

 強敵に勝つ為に特訓して強くなる。

 ヒーローマンガのお馴染みのパターンだけれど、彼らはすごくまともに汗を流して、トレーニングして、上級者からコーチを受けて、強くなる。

 その努力が、実感として信じられる。

 努力は着実にその者を強くする。

 けれどそれも、才能の前にはもろくも敗れ去る。

 破れた者の激情と涙も、信じられる。

「ピンポン」は一人のヒーローをかっこ良く描く物語ではない。

 勝者も敗者も、みんなの卓球に打ち込む青春を描く物語だ。

 すごくまともな、実はすごく普通の青春を、血と汗と涙の通った物語としてこれだけ熱く描いているから、(描写その物は絵柄も含めてすごくクール)

 やっぱりカルトなんじゃないかなあと思います。

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