ロスト・チルドレン
5月5日はこどもの日。ということで、昨日は何か子供向けの映画(アニメ以外の)でいいのがないかと探したんですが…………「ジュマンジ」が面白かったなあと思うんですが、手元に無く、うろ覚え過ぎてちょっと書けないなあと。他にこれと言って見当たらず…………真逆の物を見つけてしまいました。
ロスト・チルドレン
1995年フランス映画。
ジャン=ピエール・ジュネ監督・脚本 マルク・キャロ脚本・美術監督?
「デリカテッセン」「エイリアン4」「アメリ」のコンビです。
ロン・パールマン主演。
この映画はばんばんネタバレで書いちゃっても構わないかなあ?
読みたくない人は読まないでくださいということで。
分類すればダークファンタジーになるかと思うんですが、エルフとかが出てくる世界じゃなく、子供向けの童話でもなく、完全に大人のおとぎ話です。
特に残酷なシーンがあるわけじゃないので、子供は見ちゃ駄目!って物でもないんですが、トラウマになるので見ない方がいいかと。
舞台はちょっと昔(それとも未来?)の港町。レンガで出来た、メルヘンのような町だけれど、薄汚れて、退廃的な空気が漂っている。
映画はクリスマスの夜、幼い子供の夢から始まる。
ベッドで寝ていると、暖炉からサンタクロースが現れる。目を輝かせる子供。ところが暖炉からはまた1人、また1人と、同じサンタクロースが現れて、子供部屋は満杯になってしまう。画面は歪み、子供は怖がって泣き叫ぶ。
・・ひどいね。本気で子供泣かせてるよ。さすがフランス映画、容赦ないです。
この映画を一言で言うと、
「悪夢」
です。
と言っても抽象的なアート作品ではなくて、悪夢的な物語です。
これ、具体的に説明しないと分からないし、説明してもよく分からないんじゃないかと思うんですが。
設定的なところから説明しちゃいますと。
ある一人の天才科学者がいました。
彼は自分の家族を作ろうと、まず最初に絶世の美女を作りました。ところが一つ失敗だったのは、彼女は小人の美女だったのです。
次に彼は子供たち=自分の6人のクローンを作りました。ところがまた一つ失敗だったのは、彼らは眠り病に侵されていて、すぐに眠ってしまうのです。
次に科学者は自分の兄弟である天才を作り出し、今度こそ成功かと思われましたが、超天才の彼は夢を見ることが出来ず、異常な早さで年を取り、あっという間に老人になってしまいました。
科学者は自分を保存するため自分の脳のクローンも作って水槽に入れて生かしましたが、脳はひどい偏頭痛に悩まされました。
そして科学者は、いつの間にかいなくなってしまいました。(こうして科学者によって作られた我々だけがこの海上の研究施設に取り残されているのです)
と、水槽の中の脳が語っています。
小人の美女と、6人のクローンと、老人。
老人がグループのボスになって、老化を防ぐ為、夢を見ようと、
港町から幼い子供をさらって来て、彼らと機械で脳波をつないで眠ることによって自分も夢を見ようとするのだが、老人の脳とつながってしまった子供たちの夢は悪夢(前述の冒頭シーン)になってしまい、老人も「あーーっ」と悲鳴を上げて目覚める有様。で、叔父(水槽の脳)に
「子供の夢を盗む奴は、楽しい夢が悪夢に変り、悔し紛れに叫び出す」
と嫌みを言われる。仲悪いんですね。
子供をさらってくる役を、町の「一つ目教団」に依頼していて、
この「一つ目教団」というのがどういう物かと言うと、盲目の人間のグループで、科学者(水槽の脳?)の作った電子スコープを装着することで物を見られるようになって、このスコープから「一つ目」教団と名乗っている。このスコープが彼らに子供の誘拐を依頼する報酬になっているわけです。
彼ら教団の主張は、
「世界は欺瞞に満ちていて、目の見える連中は皆その欺瞞に騙されている。目の見えない我々こそが彼らの上に立って指導すべきエリートなのだ!」
というもの。クレージーです。
一つ目教団に幼い弟を誘拐されたサーカスの怪力男が主人公のロン・パールマン。
一つ目教団を追う彼に協力してくれるのが少年窃盗団の紅一点、「エリザベス・テーラーの再来!(予告編より)」ジュディット・ヴィッテ演ずるミエット。確かにつややかな美少女ぶりです。今どうしてるのかなあと思ったら、どうやら早々に女優は引退してしまったようです。
予告編を見ると日本側がつけた宣伝コピーが、
「夢の中まで、あなたを守ってあげたい」
「世界を変えるのは9歳の少女。」
と、なんだかナウシカのようで、嘘ではないですが限りなく詐欺に近いかなと。何しろ「悪夢」映画ですから。そんな感動的な物じゃありません。
ロン・パールマンも怪物顔で主人公というルックスでもありませんし、
同じ顔(クローン)がずらっと並んだのは悪夢そのものですし、
少年窃盗団を牛耳っている孤児院の院長は体の結合した双子女ですし、
一つ目教団の団員がクスリに操られて仲間を殺すシーンがあるんですが、相手のスコープを切って、自分のスコープをつなげて、つなげられた仲間は自分が首を絞められて殺されていくのを見ながら殺されていき、
その他、ちょっとここでは言えないこともちらほらと。
「ファンタジー映画」なんて言葉に騙されて子供なんかが見ちゃったら、トラウマ必至の悪夢的イメージ、ビジュアルがいっぱい詰まってます。
で、どうでしょう? こう具体的にネタばらししちゃいましたけど、どんな映画か分かりました? 「見たい!」と思います?
わたし自身はどうかというと、よく分からないです。
ビジュアルは独創的ですごくよく出来ているんです。音楽は「ツインピークス」のアンジェロ・バダラメンティ、衣装はジャン=ポール・ゴルチエ、撮影は「セブン」のダリウス・コンジと豪華。ミエットちゃんもかわいいし。
魅力はあるんだけれど、面白いかと言うと、あまり面白くはないんですよね。
変な映画。という感じで。
あまりにも独創的すぎて、自分の感覚で見られないんでしょうね。
やっぱりアートの一種なのかもしれない。
アートと言うより、やっぱりおとぎ話なんでしょうね。
おとぎ話って、変な話が多くて、起承転結もきちんとしていなくて、よく分からないものですよね。
よく分からない物を面白がられるかどうかで、この映画が楽しめるかどうかが分かれると思います。
決して万人にお勧めは出来ませんが、絵本が好きな人とか、美術館で絵を見るのが好きな人には向いているかも。悪夢的ですが。
ああ、
「悪夢」を「イマジネーション」と言い換えてもいいかもしれないですね。