宝島(テレビアニメ)
先ほどネットでニュース記事を眺めておりましたら「出崎統氏 逝去」と見つけて、ガアーーン……と頭の中が真っ白に。ただいまじわじわ涙ぐみながらこれを打っております。
誰? それ?
という方に、一番分かり易いのはテレビアニメ「あしたのジョー」の監督の仕事でしょう。もう一つだめ押しをすれば「エースをねらえ!」の第1シリーズと劇場版もそうです。この2作品で分かるように、ひたすら熱い、熱血物を得意とした方です。
アニメ監督出崎統(でざきおさむ)氏 2011年4月17日 肺ガンで逝去。享年67歳。
とのことです。Googleで検索すれば写真が見つかりますが、最近のお写真は枯れてガイコツっぽいというかゾンビっぽい風貌になっておられますが、わたしがその昔アニメ雑誌でよく見ていたのは背が高く細身で、パーマの掛かった髪に大きなサングラスをして、文化系の松田優作がちょっとおじさん化したような、当時のアニメ界には珍しいおしゃれな伊達男でした。肺ガンということですが、いかにもヘビースモーカーっぽいですね。
出崎氏の演出スタイルは、そのおしゃれな伊達男ぶり同様、非常にスタイリッシュで、スピード感がありながら、溜めと疾走感の緩急が豊かで、見ていてとにかく感情が熱く盛り上がってくるものでした。やはり30分のテレビシリーズで一番その魅力が発揮されたと思います。
スタイリッシュ=極端なアングル、シャドウ、ライティング、分割画面、スローモーション、繰り返し、止め画、黒画、と、アニメファンなら「出崎演出」で通じる確固としたスタイルがありました。
実はわたしの書いております小説作品の人物造形は出崎演出にもろに影響されたところがあります。今連載しております「紅倉美姫 呪殺村」に公安の「日本太郎」という悪役がいますが、終盤のモノローグで、まさにそのまんまという部分が出てきます。
出崎氏はほとんどの作品で自分で絵コンテを描いているのですが、その時点でかなりシナリオを自己流にいじるようなんですね。セリフ回しに独特の熱さ……溢れてくる感情を必死に言葉に置き換えているような、とにかくその時その時を全力で生きているような熱さがにじみ出ているのですが、きっとそうしたセリフは出崎氏が絵コンテ上で脚色していったものなんでしょうね。(「ルパン三世」のムック本で脚本家が「この人は脚本いじっちゃうからなあ」と苦笑いしていました。出崎監督は白黒「鉄腕アトム」に参加していた日本のテレビアニメ黎明期からの大ベテランだったんですね。「ルパン三世」は第1シリーズで演出と2時間スペシャルの初期5本まで監督)
現在現役で活躍しているクリエーターにもファンが多いと思いますが、漫画家島本和彦氏はtwitterで「ああああああ」といかにも熱血らしくその嘆きを表現していたようですが、現在私のほとんど唯一オンタイムで追っかけている連載漫画「ベルセルク」にももろに(堂々と)「出崎監督ごめんなさい」と「宝島」の有名なワンシーンがギャグとして再現されていました。船長のキャラが「似てるな〜」と思ってたんですよね。
それでその「宝島」の話です。
出崎監督の数ある傑作代表作の中でも「これが一番好き!!!」という熱烈ファンは多いと思います。私もその一人。
スティーブンスン原作のあの有名な「宝島」ですが、全26話(後に「その後」を描いたおまけ短編あり)のアニメシリーズはかなりオリジナルのアレンジが施されていると思われます。私は原作を最初の方だけ読んで、やめちゃいました。面白くねーなーと。きっとアニメの方が100倍くらい面白いお話になっていると思います。
「宝島」の何が面白いかといって、お話が波瀾万丈の冒険物で面白いんですが、
なんといっても素晴らしいのは、
主人公の少年ジムと、一本足の海賊ジョン・シルバーの関係です。
このシルバーが、もう、もう、もう、(←出崎演出)もう〜、たまらなくかっこいいんです!
おっさんなんですけどね、
少年が「こういう男になりたい!」と憧れる、「男の中の男!」なのです。
しかし、宝島へ向かう船にコックとして乗り込んだシルバーは、船の中をうろちょろする子どものジムのお守りのような形でコンビを組み、「凪の海のカジキ漁」や「幽霊船騒動」を経て友情を深めていき、ジムは気さくで腕っ節の強く仲間の信頼の厚いシルバーに「男の中の男!」と全面的に憧れを抱くのですが……、島に到着する寸前「リンゴ樽の中で聞いて」しまうのです、ジョン・シルバーこそが、宝を残した大海賊フリントが一目も二目も置いていたナンバー1の部下だったことを………。恐ろしい海賊の親玉の本性を現すシルバー。溢れる涙、崩れていく憧れ。「オレの、オレの、オレの、オレのジョン・シルバーが、あの、ビリー・ボーンズ(宝の地図をジムに託した海賊)の恐れていた一本足だったなんてえー・・・・・・」……そう、最初はジムもシルバーを「怪しい」と思っていたのですが、その人間的な魅力にすっかり信じ込んでしまっていたんですね。
宝島上陸と共に敵味方に分かれて宝を巡る攻防が繰り広げられていくわけですが、いったん決裂した友情が、実は、まだ心の中でつながっているんですね。共に危機に陥り、協力して乗り切っていこうと、いったん以前のように心が触れ合うのですが、「おいジム。おめえ俺の料理の中で何が一番好きだった? この嵐を乗り切ったら、なんでもおめえの好きな物を作ってやるぜ?」と笑顔で訊くシルバーに、ジムは、「オレは……人殺しの作った料理なんか食いたくない………………」と拒否するのです。この時の二人の表情がまた……くうう〜〜〜〜…。
出崎監督は代表作といわれる劇画系の作品のほとんどを杉野昭夫作画監督(大好き!!!!)と組んで作っているのですが、当初出崎監督は「宝島」をもっともっとコミカルな味わいの作品にしたかったようです。それで杉野作画監督にシルバーのキャラクターデザインを「もっとシンプルに、ラフなシルエットに」といろいろ描かせたようなんですが、杉野さんもストイックな劇画系の人なので、「僕はこれしか描けません」と劇画系の(はっきりと「ジョン・シルバーは力石徹」と言い切っています)ジョン・シルバーを提出し、出崎監督もそれを受けて演出プランを組み立てていったようです。さすが名コンビ!。敵でありながら、強い憧れを持って、決して口に出さないけれど確かな友情を心の中に持っている、という関係は、やはり矢吹丈と力石徹のそれですね。ジョン・シルバーと共に当時の乙女たちの人気を二分した一匹狼のグレーはさしずめカーロス・リベラといった立ち位置でしょうか?
ラストが。
もう本当にかっこいいんです!
これは書かない。もったいない。
これで感動しなけりゃ男じゃねえ!、という、「真っ白に燃え尽きた」=「あしたのジョー」のラストに並ぶ最高のラストショットです。
はあーーーーー……………。
もう、出崎・杉野の黄金コンビの新作はないのですね。全て過去形で語らなければならないのが本当に寂しい。自分の青春時代は、出崎杉野作品だったんだなあ………と思います。
最後に出崎統監督の代表作を紹介して終えたいと思います。素晴らしい作品の数々を残してくれたことに感謝いたします。
「あしたのジョー」
「エースをねらえ!」
「ガンバの冒険」
「家なき子」
「宝島」
「エースをねらえ!劇場版」
「ベルサイユのばら」(後半)
「あしたのジョー2」
「スペースアドベンチャー コブラ」
「ゴルゴ13」
「エースをねらえ!2」「エースをねらえ!ファイナルステージ」
「おにいさまへ…」
「ブラックジャックOVA」
「ブラックジャック劇場版」
「Genji」