へうげもの
最終回いろいろシリーズ最終回。
「へうげもの」
「へうげもの」と書いて「ひょうげもの」と読みます。
へうげる=ふざける、おどける という意味だそうです。
戦国時代の武将で、茶道の大家千利休の高弟であるところの古田佐助(後、古田織部)の信長から秀吉へ世が移り変わる中での一代出世物語。……それを「数寄(すき)」=今で言えば美術愛好の視点から描いたアニメ(漫画)で、
この古田佐助という人物、わたしはてっきりこの時代の面白エピソードを集めた創作上の人物かと……だって毎回冒頭で「この物語はフィクションにて候」って入るし、思っていたら、実在の人物だったんですね。でも、
「ニマア〜〜」とか「うひょひょひょひょひょひょ」
とは言わなかったと思うんですが……
タイトル「へうげもの」とはこの主人公、古田佐助を指したものです。歴史的にはけっこう偉い人だったようなのですが……
しかし、ユニークなのは主人公のみならず、織田信長も「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」ですし、秀吉も家康も伊達政宗もかなりユニークで、大河ドラマなんかで描かれる姿とはだいぶ違っています。
しかしこれが漫画的にひょうげたギャグ的創造かというと……具志堅用高そのまま(本人)の加藤清正はギャグかも知れないけど……けっしてふざけただけのキャラクター造形ではない。
伊達政宗は歌舞伎役者というより地方周りの田舎芝居のようなあか抜けないたたずまいで(演じているのが「戦国バサラ」と同じ中井和哉というのがギャグですが)一見かなりふざけてますが、天下はすでに豊臣に固まり、都から遠く離れた田舎で「オレあてっぺんに登るんだぜエ」と大見得を切る姿は滑稽であるが、その状況的な滑稽さと本人の大口を叩く割には秀吉を前に冷や汗をかきまくる小心ぶりと、よく表している。しかしこの伊達政宗もそれなりにすごい人物で、存在その物はけっして軽くない。単に面白可笑しく描いただけではなく、その人物の本質をデフォルメした造形になっている。
ユニークに立ちまくるキャラクターたちの中で圧巻なのが、
巨人として描かれた千利休。
見たことのない人に似たイメージを提供すると、短距離走のウサイン・ボルトです。ね、あの巨大さは遺伝子のドーピングでしょ? 生き物としての規格が違っています。
利休はまさにそうした巨人として描かれています。
史実としての利休が巨人だったのかは知りませんが、
この「へうげもの」の物語においてはまさに巨人です。
アニメは全39回。原作漫画は現在も連載中ですが、アニメは古田佐助が利休に出会って弟子となり、利休が切腹して死ぬまでが描かれています。
物語はこの時代の数寄=美意識を通して描かれていきますが、その美意識を「わび」に求めた利休が物語の推進者となって物語り及びこの時代の人々を支配していきます。
原作者は元々利休の物語を描こうとして資料を集めていたところ、思想的、哲学的に深すぎる利休は自分には描けないと思い、「こっちの方が面白そう」な古田織部を主人公に選んだそうで。こちらはとても分かりやす〜い、物欲エネルギーの固まりです。
ここに来て今更ですが、このアニメは本当に面白くて、毎回楽しみに見ていました。
前半の山場は本能寺の織田信長の死。
この死にっぷりもすごかった。
そして最終回の千利休の切腹。
これまたすさまじかった。どうすさまじかったかは言わないけれど。
後半は秀吉と利休と古田織部、三人の関係を中心に進んでいく。
秀吉と利休は時の権力者と高名な文化人というだけの付き合いではなく、もっと深いコネクションで結ばれている。
最後、やむにやまれず利休に切腹を申し渡す秀吉はまさに断腸の思いに苦しむ。
ここで死ぬ利休は、平成の今の世になって尚日本人の美意識に現役で影響を持ち続けている。
一方で天下人となって欲しい物はすべて手に入れたはずの秀吉は、武将たち、民衆の心は離れ、豊臣の世の終わりは見え始めている。
利休の助命嘆願に訪れた織部に、うつむいて真っ黒な影で表情を見せずに秀吉は、
「佐助よ。おまえだけは友でいてくれ」
と、弱々しくも恨めしく言う。古田織部という人は、ちょくちょく重要な局面で要領のいい人で、秀吉とも個人的なつながりを持っている。
この三者で、付き合いは濃いけれど一番関係の薄いのが、実は織部と利休なのかも知れない。
織部の方は利休をリスペクトしまくりで、利休も目を掛けてやっていて、他の弟子たちよりもずっと近しい付き合いをしている。
けれども、やはり二人の間には取り外せない壁が一枚あるような隔たりを感じる。
織部は利休に認めてもらいたくてしょうがなく、あれやこれやと「やりすぎ」な事をやって呆れられたり笑われたりしている。
利休の方も色々あって、自分を慕ってくる織部を突き放すようなことをする。
この二人の関係が、最期、利休の切腹でどうなるのか?
・・・・・・・・・・・
個人的に、これだけ熱い思いになった最終回は、かの名作「宝島」のジムとシルバーの再会以来でした。
当たり前のことですけれど、人の死、人の命とは、これほど重い物なのですよ。
その人間の当たり前をアニメで描ききったこの作品はすごいなあと思います。