火怨・北の英雄 アテルイ伝
前回に引き続き「最終回いろいろ」シリーズ。※ネタバレあり。
「火怨・北の英雄 アテルイ伝」
高橋克彦さん原作の、平安時代初期、朝廷軍の侵攻を幾度となく撃退した、当時「えみし」と呼ばれて蔑まれていた東北地方の英雄アテルイを描いたNHKBS大型時代劇。45分×4回を90分×2回に編集してNHK総合で再放送。
正直な感想を言うと、「いまいち盛り上がらなかったなあ」です。
演出が凡庸で、戦のシーンがイメージシーンをつなげて女性(お婆ちゃん)のナレーションで処理している、という感じで、
大型時代劇、という触れ込みですが、予算的にこんな物かなと。
わたしは高橋克彦さんのファンで一時期集中的に読み込んでいまして、この「火怨」は新聞連載で毎日読んでいました。翻って思い起こせばそもそも「総門谷」を新聞連載で読んでいて、「面白いなあ」と夢中になって、ファンになったのでした。
「総門谷」「火怨」とも吉田光彦さんの挿し絵が素晴らしくて、大いにイメージをかき立てられました。
原作の「火怨」はすごく面白くて盛り上がるんですよ。
(実は終盤のクライマックスを引っ越しで読まないまま、今回初めてドラマで見ることになったのですが)
似たような映画でメル・ギブソンの「ブレイブハート」があります。こちらはスコットランドのイギリスの支配に対する反抗で、史実的にはかなり嘘のある映画のようですが、記録が残っていなくて想像で作られた「火怨」とこの点でも似ていると言えば似ているかなと。
「ブレイブハート」はすごく好きな映画で、構成も「火怨」とよく似ていて、
1,中央政権の「野蛮な辺境民族」に対する暴虐非道な態度が憎々しく描かれ、
2,その暴虐非道ぶりについに主人公が怒りを爆発させ、その反乱によって英雄になる。
3,蛮族の反乱に対し中央政権は本格的な軍隊を送って鎮圧しようとするが、反乱軍は民族が一致団結した勇猛果敢な闘いぶりで圧倒的な勝利を上げる。(←ここが一番の盛り上がりどころ!)
4,しかし物量的に圧倒的に勝る中央軍は次第に攻勢を強め、消耗戦は次第に民族を苦しめていく。
5,中央政権の揺さぶりで部族の中から離反者が出てきて、主人公は孤立していく。
6,ついに中央軍の攻勢に屈し敗走。
7,主人公は中央軍に捕らえられ、敵地で刑死される。
……あ、しまった、思いっきりネタバレしてしまった。ごめんなさい。(ここで上の※を書き足し)
しかし歴史物というのは「決まっている出来事をどう描くのか?」という面白さだと思いますのでお許しください。
改めて振り返ってみると本当にそっくりだなあ。
中央政権に対する地方民族の抵抗運動というのは世界的にも歴史的にもだいたい同じ様な道を辿るものなのかも知れません。
ドラマが盛り上がらなかったのは前述の戦闘シーンの描き方で、原作でももちろんここが一番盛り上がるところなんですが、やっぱり予算的に再現は無理なんでしょうね、予算たっぷりの映画でもなければ。
でもですね、ここで盛り上がってくれないと、その後の勢いを失っていくやるせない展開に深みが出ないんですよ。女性(お婆ちゃん)のナレーションじゃあなあ…………ってところです。
演出の凡庸さは音楽の使い方にも出ていて、総じて、うるさい。邪魔。べたべたなシーンでべたべたな音楽を流されるとうんざりしちゃいます。
朝廷軍の敵将は坂上田村麻呂。学校の社会の時間に習いましたね、征夷大将軍ですよ。
主人公アテルイを大沢たかお、参謀のアテルイと最期を共にする親友モレを北村一輝、坂上田村麻呂を高嶋政宏が演じてます。
高橋克彦さんの小説の主要登場人物たちは、熱く、根はすごくいい人、が多いんですね。これは敵味方の別なく。これがはまったときはすごく盛り上がるんですが、時として、なんでもかんでもいい人過ぎちゃって、「そんな甘い終わり方はないだろう?」という……ちょっと白けちゃうこともあります。(こんなこと言うとすごく怒りそうだなあ)
「火怨」における坂上田村麻呂も「敵ながらあっぱれな大人物」という趣で描かれるのですが、
アテルイは最終的に降伏して投降するのですが、その直接のきっかけが田村麻呂が山に火を掛けたことで、えみし軍は馬に乗り弓矢を操り森に紛れての戦闘が得意なのですね、それに業を煮やした田村麻呂が「燃やしてしまえ!」と山を焼かせた……ということなんじゃないかと思うんですが、そこら辺の裏事情はすっかり忘れちゃった事前情報で推測しなければならないのですが、その故郷の山が燃やされる様を見て、これ以上戦争を続ければ自分たちが生まれ育った野山がすべてなくなってしまう、と心を痛めて、野山を守るために投降するわけです。
立派な武人が、こういう卑劣な真似をするでしょうかねえ?
というか、
そういう卑劣な真似をする野蛮人が、立派な人物なんだろうか?
ちょっと納得行きませんよね?
田村麻呂も捕らえたアテルイに説教されてその人物に感じ入り、改心したようなんですが、やっぱりいまいちもやもやが解消されませんねえ。(これもみんな予算をけちって蝦夷の勇猛果敢な強さを描けなかったせいですね)
改心した田村麻呂さんは桓武天皇にアテルイとモレの助命を嘆願するもまったく聞く耳持たずで死刑を命じられ、やむなく二人を処刑する。
ところで、坂上田村麻呂なんて大昔の人、現代人にはまったく過去の歴史の事柄に過ぎないと思われますが、実は、現在も存在するある超メジャーな物件に関係しています。
京都の清水寺がこの坂上田村麻呂の建立した寺だそうで。
で、別に田村麻呂さんが作ったわけじゃなく、1994年に作られたそうですが、その境内にアテルイとモレの顕彰碑があります。
もうずいぶん前ですが清水寺を訪れた際に「あ、こんなところに」と発見して「なんで?」と思ったんですが、清水寺は田村麻呂が建立した寺だということで「へー、そうだったんだー」と思ったものです。
季節的に訪れる方が多いと思いますが、見つけたら「あ、これだ」と思い出してやってください。ちょっとメインの参拝路から外れたところにあったような……昔の記憶なんでよく覚えてませんが、そうだったような気がします。
もう一つおまけに番外編的な感想ですが。
評判はどうだったんだろうとNHKの掲示板を見たら、「素晴らしい!」「感動した!」といった熱い感想がずらりと並んでいて、「ふうーん、世間一般的にはこういう感じなのか」と相変わらず自分のズレ具合を確認したんですが。
この掲示板で感心したのが、当然NHKの公式掲示板ということでチェックされてのことでしょうけれど、皆さん文章がとても礼儀正しくて、とても好感を持ちました。
掲示板というのは見ないようにしているんですが、たまにうっかり開いてしまうとひどい汚い言葉が溢れ返っていてうんざりさせられます。
人に読んでもらう文章は、文章自体、客観的に眺めてみることが必要ですね。