ONE PIECEはやっぱりすごい
「ONE PIECE」がすごい! というのもまったく今さらですが。
やっぱりすごいなと、改めて思いました。
面白い!というのも当たり前なんですが、理屈屋のわたしとしては取り上げるテーマがすごいなと感心するのです。
「ONE PIECE」(以下面倒だから「ワンピース」)がただ者じゃないなと思ったのは先頃スペシャル新作版も放映された今となっては初期の航海士ナミのエピソード。
ここまで重いか!? とその壮絶な過去と現在の決意が明らかとなるエピソードですが、悪役はサメ人間アーロン率いる魚人海賊団。アーロンは人間を「下等種族」と蔑む極悪非道にして凶暴な強敵。こいつがもう徹底して悪い奴なのだが…………
ナミはこの魚人海賊団の仲間だった!?
実はナミは海図を描く才能を見込まれアーロンに雇われていたのだった。そしてアーロンとは一つの約束をしていた。現在魚人海賊団がアジトにしている故郷ココヤシ村を「1億ベリーで買い取る」という約束を。アーロンは極悪非道だが「俺は金の上の約束は必ず守る」という言葉を信じて、命がけで(海賊から泥棒して)お金を貯めていたのだった。
約束の1億ベリーまで後一歩。
しかしここで思わぬ横やりが入る。魚人海賊団の占拠を見て見ぬ振りしていた海軍の大佐が、「泥棒とはけしからん」と、ナミが必死で集めた金を、徴収に来たのだ。後一歩のところで!…隠した金が発見され、怒り狂って阻止しようとするナミに銃が向けられ、ナミをかばった姉が撃たれてしまう。けっきょく金は持って行かれ、ナミの8年に及ぶ必死の努力は水の泡になってしまう。
もうっ、もうっ、もう〜〜〜〜〜っ!!!!
はらわた煮えくり返りまくりですが、ナミの怒りはそんなものではない。海軍が現れたのは裏でアーロンが情報をリークしたからに違いない。アーロンは優秀な測量士であるナミを自由にする気はさらさらなかったのだ。怒りの形相で詰め寄るナミに「俺が何をしたって? 証拠はあるのか?」と凄み、「なあに、金なんかまた集めりゃいいじゃねえか。たかが1億ベリー、今度はもっと早く集められるんじゃねえか?」と笑い飛ばす。
もうっ、もうっ、もう〜〜〜〜〜っ!!!!!! であります。
ナミがアーロンの仲間になり、必死に泥棒を働いてきたのは、もう村のみんなを誰一人傷つけさせたくないという思いからで、ナミはアーロンに目の前で母親を殺されていたのだった!・・・・
人間を「下等種族め」とあからさまに軽蔑し、極悪非道を笑って行い、そのくせキレやすく凶暴なアーロンもこれ以上ない悪役ですが、その強いアーロンにかなわないと見て見ぬ振りをしていながら、裏で手を組んで「正義」の名の下に泥棒の上前をはねる海軍大佐もはらわた煮えくり返るという点ではアーロン以上です。
この2重の悪の構図もすごいなと思いますが、この時点ではとにかくキャラクターの背負う重い過去に「少年マンガでここでやるか!?」と驚いたわけです。
しかーし!
「ワンピース」がそこに留まらなかったのは今や日本で400万人以上の知るところ。すごい!
その後の「砂漠の王国アラバスタ編」では悪の構図は更に深化し、ここで描かれるストーリーは情報操作による作られた革命戦争!
ねつ造された証拠でいとも簡単に民衆心理を操り、王都を襲う暴徒と化せる。
ルフィ海賊団の仲間となっていた王女ビビの声は民衆には届かず、ついに戦争は起こってしまう。
ここでもそれを陰で操る悪役クロコダイルにははらわた煮えたぎるんですが、それと同時に、騙されて暴力的に暴走する愚かな民衆にも苛立ちを感じるのですよ。
どこか……まあ、日本も含めてですけれど、あちこちでありますよね、こういうこと。マスコミの言うことを鵜呑みにして「そうだそうだ!」と自分たちが正しいと思い込んでまったく他の冷静な声を聞こうとしないで脅迫的な団体と化す人たち。
さらに!
「空島スカイピア編」では、神の土地を巡る聖戦ですよ!
こと宗教がらみになると和解だの平和だのといった腰抜けの理屈は殺気立った一睨みで却下です。
この悪役が「われは神なり」というわけでカミナリを操る雷人間ゴッド・エネル。う〜ん、ナイスです。
アラバスタ編で仲間になった考古学者ニコ・ロビンの行動によってどうやら「ワンピース」の物語全体にSF的?な「隠された歴史」が背景にあるらしいというのがはっきりして、先の大きな展開が俄然楽しみにもなりました。
その後もどんどんすごくなりながら…わたしはテレビアニメで追いかけているもので原作の連載から遅れているんですが、テレビでは現在
「魚人島編」
がクライマックスを迎えようというところで(うちの地域は2週遅れの放送です)
ここで、また! また!
「『ワンピース』って、ほんとすげえなあ〜〜」
と感心してしまったのです。
魚人といえばナミのエピソードで悪逆非道の限りを尽くした極悪魚人アーロンですが、そのアーロンの生まれ故郷が、この深海にある魚人島です。
で、話は長〜〜く、物語の上でも2年越しになっていて、深海を目指す前の「シャボンディ諸島編」から続いているんですが、「魚人族」というものが、どういう存在であるか? が、語られているのです。
人間を蔑み「下等種族」と言ってはばからなかったアーロンですが、実は生まれ故郷では、地上の人間と海の魚人族とは、まったく正反対で、魚人が人間に「下等生物」扱いされ、奴隷として、物として、人間に買われる存在なのです。
人間がいかに魚人を差別的に扱っているかが、おごり高ぶった貴族「天竜人」と、奴隷の解放者で魚人族の英雄であるタイガーの因縁のエピソードで語られるのです。
アーロンがあれほど人間を蔑み、悪逆非道を行ったのは、元々、魚人族が人間たちにされていたことの仕返しだったのです。
今回の悪役はアーロンの後継者を名乗り新魚人海賊団を率いるホーディ・ジョーンズ。
アーロンの下の世代の若者たちですが、彼らは怪しげな薬によって一時的に強靱なパワーを手に入れ、ホーディは大量接種によってモンスター並に変身する。
ホーディは人間たちと和解しようとする王族を憎み、反乱を起こしてルフィたち麦わらの一味と大対決するのだが。
激しい闘いの中、王子がホーディに訊く。まだ見てない、読んでない人にはネタバレで申し訳ないのですが。
「おまえは何故そこまで人間を憎む? 人間に何かされたのか? それとも愛する者を、家族を、人間に殺されたのか?」
同じ魚人同士であることを信じて怒りと悲しみの中で問う王子にホーディは答える。
「なんにも」
驚愕する王子。
そう、ホーディにとって、人間は、実はどうでもよかったのだ。
人間と魚人の過去の歴史などどうでもいい。
海底に閉じこめられ、しかも孤児たちの貧民街で育ったホーディは、何もかもが面白くなく、むかつき、何もかも、ぶっ壊してやりたい。
ただ、それだけの若者だったのだ。
すっげえ〜〜〜〜〜! ワンピースすっげええ〜〜〜〜! 尾田栄一郎すっげええ〜〜天才いい〜〜〜〜〜!!!!!
ここまで社会的な問題や歴史的な事件をストーリーの中に上手く消化して描いてきた「ワンピース」ですが、特に今回このホーディという悪役の、まさに今現在の、若者心理を吸収したキャラクター。見事ですね。
これだけ魚人と人間の歴史的な因縁を描いてきて、当然今回の事件もそこに動機があるのだろうと思いきや、過去を利用した、現在の、状況的な不満をぶちまけた、破壊と破滅のみを目指した、いわば悪意の馬鹿騒ぎだったのですね。(子供の頃から周りの大人たちからもたらされる情報でどんどん感化されていったというのが本当のところですが)
どっかで見てるよなあ〜、こういう画を、特に最近、テレビで。
まあ、あんまり現実の事件とセットで語られるのは作者も本意ではないと思います。「ワンピース」の素晴らしい最大の点は、とにかくめちゃくちゃ面白いマンガ!という点です。その面白いマンガストーリーの中にじっくり消化されて、ジュワッとあぶり出されてくるから、キャラクターたちの生の感情として、テーマ性やメッセージ性が自然に深く、見る者の胸に染み込んでくるのですね。素晴らしい!!
「ONE PIECE」は日本マンガ史上、いや、世界マンガ史上に永遠に残る大傑作ですね。完結まで、きっと更にどんどん加速してすごくなっていくんでしょう。
尾田栄一郎は本物の天才だと思います。この人と同時代人であることに興奮します。