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ほんとに出ちゃった「貞子3D」

(ここまでのお話:タウン雑誌編集者の田中巻子は深夜帰宅したマンションの入り口で不気味な女と会う。女はどうやら幽霊だったようで、あの手この手で巻子の部屋に侵入してこようとする)

_______


 このしつこさ、これで終わりとは思えない。

 エレベーター、窓、チャイム、携帯電話と来て、

 次はテレビか? ベッドか? シャワーはさっさとすませておいて良かったわ、と思った。

 まずはテレビか、と睨み、先手を打つことにした。

 テレビをつけ、ぐだぐだの深夜番組なんて無視してDVDプレーヤーに切り替えた。本棚の一隅のライブラリーからある一本を取り出すと中身を取り出しセットした。さっさとメニューを出してチャプター選択にした。

「これでどうだ」

 映画の最後の方を選択して決定した。


 キシシシイイインンン・・・


 と、何とも言えない不気味な音が響き、テレビ画面に荒い画像で古い井戸が映った。

 その井戸から……………


 最高の恐怖シーンで、巻子は言った。



「3Dもやっぱりビエラですね」



 巻子は美人ハーフキャスターを気取ってニッコリ言い、

 テレビではひげ面の二枚目中年俳優がのけぞって床をはいずりながら恐怖の表情を浮かべ、

 巻子はアハハハハハと自分で受けて笑い声をあげた。

 ・・・・・えー…、

 幽霊もなんのことやら戸惑うと思われるので解説すると、

 世はデジタル3Dテレビが大流行である。高くて買えないけれど。会社で昼休み話題になって、誰がCMキャラクターをやったら面白いかという話になった。そこで

「そりゃあやっぱり、『あの』人だろう? なんてったってテレビから…、ねえ?」

 と大受けしたのがかの日本が世界に誇る最恐ジャパニーズホラームービーの、あの、お方である。パチンコにもなってテレビのCMにも登場して今やお茶の間の老若男女知らぬ者はない人気者(?)で、今さら表現をぼかす必要もない気もするが、そこは雑誌編集者であるので厳しく自主チェックである。

 仲間内では受けたし、現在巻子も一人で「うひゃひゃひゃひゃ」と笑っているが、果たして幽霊に生きている人間のユーモアを共有する感性が残っているものかどうか。幽霊の気持ちなんて霊能力者でもなければ分からない。

「うひゃひゃひゃひゃ。ここでかぶって出て来ちゃったら大笑いだわね。出てこられるものなら出て、いらっしゃーい」

 笑いながら幽霊を挑発するようなことを言って、どうやらまだ相当酔いが残っているようだ。

 これまた一世を風靡したTK氏の手になるテーマ曲が流れ出し、巻子はすっかり和んでしまった。ちなみにこの映画、中1の巻子がクラスメートの男の子と初デートに見に行った映画で、満員の映画館はそりゃあもう女子達の悲鳴が響き渡りにぎやかなものだった。楽しいデートだったが、その男の子とは中2のクラス替えで別れてその後自然消滅してしまった。懐かしい甘酸っぱい思い出の映画である。

 エンディングを最後まで見終わり、巻子は大あくびをした。

「ふあ〜〜あ…。あー、見た見た。さ、寝よっと」


_________


 以上、わたしの書きましたホラーコメディー「入りたがる女」からの抜粋でした。宣伝です。長々とすみませんでした。


 いやあ、でもねえ、「貞子3D」の企画って、こんな感じじゃありません?

「うちもそろそろ本格的な3D映画やりたいですよねえ? 何やったら受けるでしょうねえ?」

「そりゃあうちの持ちネタで3Dって言ったら、やっぱり、アレ、だろう? なにしろ出て来ちゃうんだから、ねえ?」

 と、企画会議でもこのようなやりとりがなされたのは明白(?)です。


 ね? だから、ギャグですよね、「3Dリング」っていうか「3D貞子」って。


 ほんとに出てきたら笑っちゃうよなー、と。


 だいたいこれだけメジャーになってしまったホラーキャラクターで今さら新作を作るというだけでもハードル高いのに、それを3Dって、最初からギャグ以外の何物でもない。

 実際恐いより笑っちゃいましたよ、ほんとに出て来ちゃった3D貞子さん。

 笑われるのは最初から分かっている。問題なのは、出オチの笑いを凌駕する恐怖を新生貞子が観客に与えることが出来るかどうかだ。


 で、今さらなんですが、


「なんで作っちゃった、貞子の新作!?」


 という、作っちゃった物はしょうがないんですが、そもそもの企画意図から考えざるを得ない。

 なんで作っちゃった?というのは、なんといっても今回の新作が、映画のオリジナル脚本ではなく、「リング」原作者である鈴木光司氏の手になるストーリーであるという点です。

 実際は映画の企画があって、原作者の鈴木先生にいかがなものでしょう?とお伺いを立てて、出来ましたら先生に映画のストーリーを……という話の流れだったんじゃないかなあ〜と勝手に推測します。ここで鈴木先生が、

「よしよし。わしに任せたまえ!」

 と、オーケーした心境がいかがなものであったのかと、いろいろ、もやもや、考えてしまうのです。


 今回のストーリーは原作者じゃなかったら許されないような超絶トンデモな代物になっています。

 ニコニコ動画、ブログ炎上、世界はオレ様のためにある的自己チュー男、と、さすがビデオに呪われるという現代的呪いを開発した作者だけあって今の世の中への目配りはバッチリです。腐っても鯛でなかなか充実したストーリーだったとは思います。

 これ以上は現在上映中の映画ですからネタバレは自重しますが、原作者というのは自分が書いた物に対していくらでも大胆な態度を取ることが出来ます。続編を作るに当たって、外部の脚本家ならばここまで前作の世界観やキャラクターを崩すことに躊躇するということも原作者ならいくらでもぶち壊すことが出来ます。俺が作った物なんだから、俺の書く物が正当な続編なのだ。というのは正論で、外部の者が何をごちゃごちゃ言おうが、それが原作者の権利です。

 事前にわたしの読んだ記事では鈴木光司氏は今回のストーリーにかなり自信満々のようで、「映画版『リング』の恐怖シーンを上回る恐怖シーン」を書いたというように書かれていたように記憶しています。…………それが、アレ?

 映画「リング」が傑作だったのはもちろん原作鈴木光司氏によるサスペンス溢れる見事なストーリーが基本にあるのはもちろんなのですが、それ以前に「女優霊」でものすごく恐い和製ホラー映画を作った脚本高橋洋・監督中田秀夫のゴールデンコンビのホラー職人的映像ならではの恐怖描写がものすごく効果的で、有名なクライマックスシーンも映画のオリジナルであります。原作のクライマックスシーンは、文字ではこんなもんだろうなという全く別物と言っていいものです。

 「画面から出てくる貞子」というのは、鈴木光司氏のアイデアではないのです。(だと思います)

 だから、「画面から出てくる貞子」を基本アイデアにした鈴木光司氏書くところの続編というのは、正確には映画版「リング」の正当な続編とは言い切れないんじゃないか……という思いがします。

 新生貞子のストーリーは、腐っても鯛だったと思うのですが、今の世相への目配りや、わたしはうんざりしてしまうホラー映画のお馴染みの「誰も分かってくれない」的な展開など、上手く材料を組み合わせてまとめあげているような印象ですが、なんというか、熱、が感じられませんでした。少し前に書いた「キムタク版ヤマト」と似たような感触なのですね。

 そこで上の設問、


「なんで作っちゃった、貞子の新作!?」


 なんですが、劇中ひどく気になったセリフがありました。今回の悲劇の元となった人物が借りている部屋の家主の女性のセリフなのですが、具体的にはないしょにしておきますが、映画シリーズだけ見ていたのではなんのことやら分からないセリフなのですが、原作の三部作「リング」「らせん」「ループ」を読んだファンなら意味の分かる、


 なんだ、けっきょくそういうことなんだ?


 と、ひどく白けてしまうセリフなのです。しかもこのセリフ、いかにも意味ありげに2回も発せられるのです。これが原作者の書いたセリフかどうか分かりませんが、脚本のチェックはしていると思うので、作者鈴木光司氏のこのストーリーに対する見解と受け取っていいでしょう。その意味するところは、今さら貞子が主役のホラーなんて物を書かされることに対する精一杯の抵抗か、それとも、こんなのは遊びだよ、という作品その物に対する皮肉か? いずれにしても熱心な「リング」ファンに対してずいぶんと失礼な物言いと感じます。

 どうやら鈴木光司氏は我々一般が思うところのいわゆる「ホラー」という物がお好きでないようです。著作の中で純粋にホラーといえるのは「リング」だけなんじゃないでしょうか? 続編の「らせん」「ループ」はSF的内容へ変化していき、「リング」のホラー的要素を打ち消す内容へとなっていきます。

 今回の仕事、このセリフをもって「金のために作品の魂を売った」と批判されても仕方ないかと思います。

 それともわたしの全くの思い違いで、あのセリフにはこのストーリーの更なる隠された展開があり得るのでしょうか?

 映画のラストは、これで終わったとも、新たに始まるとも、どちらにも解釈できるもので、中途半端な感じが否めません。まあこれもホラー映画のお約束と言えば言えますが。


 いろいろごちゃごちゃ言ってしまいましたが、わたしの外向きのこの映画に対する評価は、

「イベントムービーと割り切るならデートムービーにはまあまあ合格。でも『リング』の恐怖よもう一度!とシリアスに渇望するなら失望するからやめておきましょう」

 というところです。ああ、そう、「平成仮面ライダー版『貞子』」と言えばイメージに合ってるかも知れません。映像もデジタルですし。

 わたし自身の本音は、やはり原作者の新作ストーリーというところに期待が大きく、ホラーを舐めてるなというところに失望はありました。けれどまあ、そうつまらなくもなかったです。期待と別のところでそこそこ面白かったです。65点くらいかなあ…………


 ※ ※ ※ ※ ※


 以上、内容についてでしたが、今回のキモは3Dであるということ。

 3D映像についてですが、今回は「飛び出す映像」を意図したということで、目が疲れました。わたし尖端恐怖症なんです、始まってすぐ尖ったアレがグッと迫ってきた日には『ウグッ』と顔をしかめてしまいました。

 3D効果を娯楽として楽しませようという試みは感じました。わたしの勘違いかも知れませんし、たまたまそうなっただけかも知れませんが、ほんの一部意図的に3D視点を狂わせて吸い込まれるような恐怖感をあおる映像演出があったように思います。パソコンの画面なんですが、ここは本当に目が痛くなったので要注意です。

 ただですね、やっぱりわたし3Dにはまだ慣れることが出来ません。過去2回、額縁の中のジオラマを眺めているようなイマイチ乗り切れなかった経験から今回はガラガラの自由席でうんと前で視界いっぱいのスクリーンで見たのですが、やっぱり遠景は立体感が分かるんですが、大写しの被写体がどうも立体に感じられないのですね。ヌッと飛び出てビックリっていうのも面白いんですが、被写体に触れるようなリアル感を期待するんですよね……何に触りたいんでしょう?

 今回の撮影はどうなんでしょう? 何故か山本裕典だけやたら立体的に感じたんですよね?? どうも一部にしか3D撮影用のカメラを使わず、後は2D映像をコンピューター処理で3D化しただけのような気がするのですが……違ってたらごめんなさい。レンズの違いなんでしょうか? でもそういう、紙で組み立てたようなぺらぺらの3Dに見えちゃうんですよね。どうせなら山本裕典より女子高生の女の子たちを立体的に見たかったぞお!!


 本編前に「スパイダーマン」と「MIB3」の3D版予告編が入ったんですが、「スパイダーマン」は全く目がついていけませんでした。

 最近映画館ではどうも邦画づいてまして、この前に観たのが「ライアーゲーム〜再生」で、これは文句なしに面白かったです。(一つ文句を付ければ芦田愛菜ちゃんはいらなかったかなあー…と)

 こちらはもちろん2D。でもこれを3Dで観たいとは全然思わないものね。

 3Dに関しては映像技術的に色々言いたいことがある。詰まるところ、まだ完成されていないんだろうと思う。立体映像って体験として面白いけれど、2Dの画作りの自由度は3Dには明らかに無いと思うのです。一方で3Dには3Dの面白さがあって、その3Dならではの面白さにチャレンジした今回の映画、100点は付けられないけれど、試みとしては面白かったと思います。



※追伸※


 馬耳東風様よりご感想をいただき、本文中に事実誤認のあったことが判明しました。映画のストーリーは鈴木光司氏の「エス」を元に映画の脚本家が作った物のようです。本文中の訂正はこの追伸に代えさせていただきますが、詳しくは馬耳東風様のご感想及びわたしの返信を参照してください。本文をお読みくださった方に誤った認識を与えてしまったことをここにお詫びいたします。申し訳ございませんでした。

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