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楳図かずおは恐いか?

 ちょっと宣伝。

 まったく失礼ながらわたくしのホラーの新作小説を勝手に「楳図かずお先生に捧げ」てしまいました。どうせご本人が読むこともないでしょうからどうでもいいと言えばどうでもいいでしょうが。

 この新作の内容が、はっきり言っちゃえば楳図先生の某マンガ作品のいただきで、盗作が厳しく規制されている現在たいへん拙いんですが、……オマージュです。先に(何十年も前に)描いちゃった楳図先生が悪い!と勝手に逆切れさせていただきます。(いや、キレてないですけれどね。とんでもないです)


 で、今回のテーマは、



  「 楳図かずおの恐怖マンガ 」 です。



 サブタイトル「楳図作品は現在も現役か?」。

 失礼なサブタイトルですが、現在楳図先生は新作マンガをまったく描いていません。SF超大作「14歳」完結の1995年以降ですからもう16年経ってしまいました。残念ながらマンガ業再開は難しいのではないでしょうか?

 この休筆は長年に渡って描き続けてきたことによる腱鞘炎と、当時の「14歳」の新任編集担当者との確執が原因であったと言うことです。この馬鹿編集者が「手はこうやって描くんです」とわざわざお手本を持ってきて見せたと言うんですね。超ベテランの一流プロに対してなんたる態度かと、先生はいたくプライドを傷つけられ、これはわたしの想像ですが「もうやめるか」と思ってしまったのではないでしょうか? 貸本マンガ時代から40年に渡ってまったく休むことなく描き続けてきて、ずっと走り続けてきたランナーがふと立ち止まってしまい、どう走り出せばいいか忘れてしまって途方に暮れるように、マンガの描き方を気持ちの上で忘れてしまったのではないでしょうか?

 この新任担当者は馬鹿で、楳図ファンにどれだけ恨まれても余りあると思いますが、ただ、「14歳」の絵を見ると「先生、手というのはこうじゃないでしょうか?……」と思わず言いたくなる気持ちも分からないでもありません。輪郭は崩れまくり、線はへろへろのめためたで、全盛期の美しさはみじんもありません。この絵の崩れは「わたしは真悟」辺りから部分的に見られ出し、「神の左手悪魔の右手」で進行し、「14歳」で完全に発症したと見られます。

 楳図かずおの絵はとにかく線が多い。あの大量の線を描き続けて手がぼろぼろになっていたのは想像に余りあります。あのスタイルで、絵描きとしては寿命だったのかと、お疲れさまでしたと感謝したいです。

 ただ。

 楳図かずおという人は天才であり、天才以外の何物にもなりえない人であり、凡人になることが出来ないというある意味不幸な人でもあります。

 テレビに「グワシ!」と笑顔で出ている姿を見ると、一種のもの悲しさも感じてしまいます。

 ああ、あなたはそんなことをして満足している人ではないでしょう?

 今、あなたの頭の中にあるものを、どうか我々凡人に形にして見せてください!、と、

 神をあがめるごとく願ってしまうのです。


 楳図かずおが並はずれた天才である事実をリアルタイムで体感させてくれたのが1982年から1986年に掛けて青年誌「ビッグコミックスピリッツ」で連載された「わたしは真悟」。

 いいですか皆さん、1982年ですよ? ファミコンで「ドラクエ」第1作が発売されたのが1986年ですよ?

 この時点で楳図は工業用ロボットを、「要するにコンピュータだろう?」と、人工知能が心と魂を持つことを想像し、「コンピュータっていうのは電話線や衛星通信でつなげられるんだろう?」と、インターネット接続や、インターネットを介してコンピュータが他のコンピュータとつながることで自分の機能を拡張していく「ネットワークスーパーコンピュータ」の可能性を読みとり、幼い男の子と女の子の「子どもを作るにはどうしたらいいの?」という純粋で真剣な恋心から奇跡が起こり、そのファンタジーが、世界を崩壊の危機にまで追いつめる巨大なSFサスペンスへ発展していくのです! 当時連載で読んでいた青年たちがこの奇抜な発想と怒濤のごとく拡大していく物語にどれだけ衝撃と興奮を感じたことか!今、それが当たり前の「現実」に実現されている若者たちに想像できるだろうか?

 「14歳」も遺伝子操作を初めとして科学の暗黒面をこれでもかこれでもかと妄想を膨らませて「マンガ」に仕立て上げたとんでもないデザスター「宇宙崩壊物語」で、これだけ巨大なスケールの物語は、日本のマンガに限らず世界物語史上においてもないのではないかと思われます。(と言いますか、無いでしょう。宇宙が崩壊してしまうのですから。これが人類が持ちうる物語の極限です)


 しかし、これだけ褒めちぎった上で、今現在、「わたしは真悟」にしろ「14歳」にしろ、マンガ作品として読んで面白いかというと、これまた別の問題で、当時最先端技術の先を行って衝撃的だった物語が、その最先端技術が日常的に実現してしまった今読んで、当時と同じ興奮と感動を味わえるかというと、それは問うのが酷だろうと思う。

 物語は圧倒的でもどうしても道具立ての古さが邪魔して、「最先端科学の暗黒物語」というリアリティーはなかなか感じられないのではないだろうか?


 我々には、今現在の、楳図かずおの頭の中が必要なのだ。


 あの天才の頭が、今現在の我々の未来をどう見ているか?、それが知りたくてしょうがないのだ。


 ああ、楳図かずおよ、どうか過去の栄光になんか安住しないで、アグレッシブにその天才性を全開にした悪夢の未来世界を我々に見せつけてくれ!


 と、切に願います。

 まあ、本人としては「14歳」で全てやりきったという気持ちがあるのかも知れないけれど、それで満足して思考を停止してしまったとはどうしても思えないんですよね。実際テレビに出てきたときには「映画をやりたい」と、美女のサイコスリラーの企画を紹介して「誰かお金出してください」とスポンサーを募っていましたが、どうなんでしょう?実現の見込みはあるんでしょうか?

 わたしが一番いいと思うのは、マンガを「監督」したらどうかと思うのです。

 企画して、脚本書いて、コンテを切って、キャラクターデザインして、作画は作画監督のチームに任せる、と。アメコミのように分業制を導入している「ゴルゴ13」のさいとうたかをプロみたいな感じですね。

 これが一番楳図マンガファンの欲求を満たす方法だと思うんですが、天才で、すべて自分でやらないと気の済まない本人は、きっとそれじゃあ満足しないんでしょうね。あえて凡人になることの出来ないのがこの人の弱点です。

 小学館!責任を持って説得しろ!


※ ※ ※ ※ ※


 楳図かずおと言えば「恐怖漫画家」です。

 おっさんの昔話ですが、子どもの頃この楳図かずおの気持ち悪い恐怖マンガが大嫌いで、大嫌いな癖に、当時は書店で普通に立ち読みが出来ましたので、買わずに立ち読みばかりしていました。今で言えば古本屋で買わずに延々立ち読みしているようなものです。大嫌いだと口では言ってるくせに読みたくて、読まずにはいられないんですね。大人になってからちゃんと買いました。はい。

 でも、大人になってから読むと、正直言ってあんまり面白くないんだなあ。(←おいおい)

 あまりに大胆すぎる物語と、あまりに個性的すぎる絵、表現は、恐いよりも笑ってしまう。まさに恐怖と笑いは紙一重、「まことちゃん」の世界ですね。

 今読んでも面白いのは大人向けのサイコスリラーでしょうか?

 当時青年マンガ誌と言うのはなかったですから連載媒体は少年誌や少女誌ですが、


 やたらと黒ベタの多い劇画調の「おろち」、そして美少女とグロテスクの極み(ブレインサラダサージェリー♪)、絵のタッチも最高に美しい「洗礼」は現役で恐いと思います。


 でも「おろち」は好きじゃないんだなあ、恐いよりも嫌な話ばかりで。「グワシ!」と浮かれた変なおじさんですが、実はこうした人間の暗い心理をえぐり出す大人の作品も多いのですよ。あんまり好きじゃないんだけど。

 わたしが一番熱中して面白かったのは「漂流教室」。

 これはずいぶん後で再販のデラックス版をまとめ読みしたんですが、続きが気になって仕方なく、本屋を梯子して全巻揃えて読みふけりました。残酷描写満載の少年たちのSFサバイバル物語ですが、とにかく面白く、これを最高傑作に推す楳図ファンも多いと思います。


 楳図かずおの恐怖マンガは一世を風靡した「へび少女」のモンスター物から、モンスター物ながら悪役の「タマミちゃん」の心情を描き心のモンスター性を描いた「赤ん坊少女」を経て、直球で大人向けと言っていい心理サスペンス「おろち」、子どもたちが殺し合うSFサバイバルの「漂流教室」、美と醜のサイコスリラー「洗礼」と、

 おおむね、 子ども向けのビックリ系 → 大人向けの深い心理ホラー と言う流れを見ることが出来ます。


 ここでまた私事で宣伝なんですが、あるホラー物語を思い立って、「似てはいけないな」と楳図先生の「うろこの顔」という作品を読み直したんですが、これはいくつかある「へび物」でも少女の「変身」具合が一番「エグイ」とファンに評判の作品で、なかなか気持ち悪い逸品です。

 でもね、やっぱりね、大人が読んで「恐い」物じゃないんだなあ。

 そりゃそうだよな、今どき誰が「へび女」を怖がるって言うんだ?

 笑いとノスタルジーにしかならないよ。

 へび女は「洗礼」の頃に「蛇」という劇画タッチでリアルに描いた短編があるんですが、これなんかもセルフパロディーみたいな感じでまったく恐くなく、ギャグにしか感じませんでした。

 「似てはいけない」と思ったのですが、諦めました。どうやっても「オリジナル」は「楳図かずおのへび女」になってしまいます。わたしのは下手くそなパロディーです。楳図先生、すみません。わたしも楳図マンガに多大な影響を受けた生徒の一人です。


 休筆後に何度か新作の噂があって、「今度は初期の『へび少女』のようなストレートな恐怖物」というような記事を読んだ覚えがあります。それももうずいぶん前のことになってしまいましたが。

 ただの変人扱いで生殺しももったいない。楳図かずおは天才なんです。凡庸な一般人にありがたい教えを垂れてくれる神なんです。

 過去のどの作品よりも新しい新作が読みたい!

 ほんと、誰か説得してくださいよ。頼みます。

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