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「ゴールデンスランバー」と「インシテミル」

 どちらもテレビで見ましたが、まずは



「ゴールデンスランバー」


  伊坂幸太郎原作 堺雅人主演



 「本屋大賞受賞作」ということで、どんなお話なのか?すごく楽しみに見ました。

 感想は、エンディングにて、「おしまい?」でした。

 見終わって振り返ってみると、「ふうーん…、そうかあ、そういう話だったんだあー………」と、すっかり気の抜けた感慨を持ってしまいました。

 お話は、


  大学時代の友人に呼び出され久しぶりに会った主人公の運送作業員。友人の車の中で居眠りしてしまい、目覚めると、すぐ前の通りでは新総理大臣に就任した地元出身政治家の凱旋パレードの真っ最中。友人は悲痛な表情で「おまえ、オズワルド(ケネディ大統領暗殺犯に仕立てられた男)にされるぞ」と告げられ、直後、爆発によってパレード中の新総理は死んでしまう。「逃げろ」と友人に追い立てられた主人公を、二人組の警官がホルダーから拳銃を引き抜き迫ってくる。かくして主人公は友人の警告通り「総理大臣暗殺犯人」として追われることになる。主人公の運命やいかに?


 というもの。

 さて、映画及び原作小説を知らない人はこの出だしを読んでこの後の物語の展開をどう予想するだろう?

 当然、主人公にぬれぎぬを着せた真犯人は誰なのか? 新総理暗殺はなぜ行われたのか?、というミステリー的興味を抱くと思うのですが、言ってしまえば、この物語はミステリーではありません。「一国の首相を暗殺した男に仕立てられた主人公」というシチュエーションで展開する……なんというか……面白い話です。いやあ…、このシチュエーションで面白い話というのも不謹慎なんですが、どういう話か内容をばらさずに説明しようとするとこう言うのが一番合っているようにわたしは感じました。

 ミステリーではないので、そういう興味で見ていると、映画の終わりにて「え?これでおしまいなの?」と狐につままれたような(古い表現ですね)呆気にとられたような感じがします。


 最近の事件でふと思い出したことがあって、嫌な事件なんですが、

 公園で複数の人間の遺体の一部が詰められた一斗缶が放置されているのが見つかった。

 という事件があって大騒ぎになりましたよね?(8月のことでした)

 例によってニュース番組やワイドショーなんか大騒ぎだったようですが、わたしが気になったのが新聞に載ったこうした事件の研究家だか大学の教授だかの見解で、

「非常に扇情的で、自分の犯行を見せつけ、社会に挑戦しようという、社会に対する非常に強い恨みを持った、強い意志を持った複数人のグループの犯行」

 といったようなことをコメントしていたんですね。わたしはそれを読んで(まあ今だから言えるんですが)「そうかあ〜? 思いっきり行き当たりばったりな、アバウトな犯罪に思うがなあ〜〜???」と、その研究家だか大学教授だかの見解を「サイコスリラーの読み過ぎじゃないのか?」と呆れる思いで読んでいました。

 で、結局この事件は近所のよく分からないおじさんが妻と息子の遺体を詰めて捨てた物と判明。これだって十分異常で分からない事件なのですが、少なくとも「社会に挑戦するカルト的な集団」による犯行ではなく、やっぱりかなり行き当たりばったりな犯罪だったようです。まるっきり赤っ恥ですね?先生?


 これでまた思い出したことがあって。

 テレビアニメ「名探偵コナン」のだいぶ前の話なんですが、

 何か不可解な事件があって、例によってコナン君と少年探偵団の子どもたち(小1)が事件を推理する。

 これまた例によって子どもたちは実に子どもらしい幼稚な推理を披露しコナン君は「おいおい、んなわけねえだろ」と呆れるのですが……今回に限っては子どもたちの推理がことごとく的中!ついに犯人にたどり着く。ここで今回犯人の不可解な行動?に振り回されてまったく推理が成り立たなかったコナン君が犯人(実はひどく優柔不断で子ども並の失敗ばかりやらかしていた)にぶち切れて説教したあげく、「俺はホームズみたいに知的な犯人と推理対決したいんだあ〜〜!」みたいなことを叫んで終わり。

 というお話がありました。(ずいぶん昔なので……何しろ今年で15年?、細部は全く覚えてませんが)

 上の現実の事件の研究家先生じゃありませんが、世の中の一般人というのは、高い知識のある頭のいい先生が推理するようにはなかなか行動してくれないものです。案外くっだらない行動が積み重なって、偶然、複雑で不可解な状況が出来上がってしまった場合の方が多いんじゃないでしょうか?

 映画や小説に対する「現実的でない」という批判は、常識で筋道立てて考えた結果をもってしていると思うのですが、本当の現実というのは頭で理屈で考えたようには動かないものです。

 映画「ゴールデンスランバー」に対してもそういった批判が見られましたが、しかしあのシチュエーションをごく現実的に考えれば、主人公は最初に警官に「犯人」として射殺されておしまいでしょう。それで……面白いですか? このお話を「現実的でない」と批判する人は、あまり物語を楽しむことには向いていない頭の構造をしているのでしょう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ここで一転


「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」


 に話を移しまして、こちらは

 「『このミステリーがすごい!』で絶賛を浴びた米澤穂信の同名サスペンス小説」を「『リング』の中田秀夫監督」が映画化したもので、

 昨年公開時、面白そうだなあと思ったんですが、某映画ファンサイトで酷評意見がずら〜〜っと並んでいて、「えー?そうなの? なんか中田秀夫監督、すっかりパッとしなくなったなあ」と見に行かなかったんですが、今回のテレビ放映は楽しみにしていました。


 面白かったじゃないですか。


 確かに「リング」監督の割にはサスペンスが薄く、緊張感はありませんでした。お金を出して映画館に見に行っていたら不満があったかな? のんびりテレビで見ていて丁度よかったかも知れません。どうも中田監督も一時期のスピルバーグみたいに自分の一番の得意技を意図的に封印している節があって困ったものです。内容は映画の時間枠の中でバランス良く物語が描かれていたと思います。

 しかしなんでみんながこれをそんなに「つまらない」とか「面白くない」とか酷評するのかよく分からないんですが、恐らく、決定的なのは、≪描かれている内容が不愉快だから、≫なのではないでしょうか?

 お話は、


  時給11万円という破格のアルバイト料で7日間の心理実験に参加した10人の男女が、「この実験の内容について一切の質問は受け付けません。また実験には不条理で非倫理的な出来事が起こります。それでも良いと言う人のみお進みください」と警告を受けた上で、地下の外界から隔離された施設に下り、出口をロックされる。いくつか簡単なルールがあるだけの共同生活を至る所に仕掛けられた監視カメラの下で送るだけの単純な実験と思われたが、参加者の一人が死体となって発見される。参加者は監視カメラに向かって「実験中止」を訴えるが、実験は、ここからスタートしたのだった……

 参加者はどんどん殺されていき、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」の様相を呈していく。殺人者は誰か? 死人が出ても続行される実験の正体はなんなのか? 生き残った者の中に疑心暗鬼を生みながら、7日間のカウントが0になるまで実験は続いていく……


 面白そうでしょ?

 面白かったですよ?

 で、なんでみんなこの映画をそんなに嫌うのかというと、この実験の真相というのが非常に不道徳なものであることへの反発が映画全体のイメージを著しく悪くしたと思うのですね。

 例えば「中学生に殺し合いをさせる」という不道徳全開を売りにした「バトル・ロワイアル」は最初からそういう物を楽しむために見たい人が見に行ったので、観客からそういう批判はなかった(?)と思うんですが、こちらは「実はそうだった」という嫌な真相が「答え」として提示されるから、反発が強かったんじゃないかと思います。

 原作はもっとミステリーとして複雑なようですね。でもそういうミステリーの面白さって、上映時間が決まっている映画にはあんまり向いてないと思うんですが。ミステリーじゃない「映画版」と割り切った作りなら、それはわたしは結果として良い判断だったと思います。(とはいえ、映画もミステリーとして面白かったです)

 この「真相」をここで明かすわけにはいきませんが、観客が、言われると腹が立つ、ことなわけです。

 わたしも小説書きとして実感があるんですが、人間というのは批判されると不愉快に感じてあれこれ理屈を付けて否定しようとします(わたしもですけど)。それがちゃんと理屈が通っていればいいんですが、理屈をこねるのが面倒な場合は、とにかく「けなす」んですね。感情で、悪口を言うわけです。…と、こんなこと書くとまた腹を立てられるんでしょうけれど。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ここでまた「ゴールデンスランバー」に戻って、

 「首相暗殺犯」に仕立てられた主人公は、マスコミの報道にも追いつめられていきます。捜査する警察の正式発表された事実ですからしょうがないんですが、テレビ番組であれやこれやと主人公のそれまでの人生を好き勝手に「解析」して、いかにも犯人として納得できる人物像を作り上げていきます。

 テレビを見ている一般大衆の多くはそこになんの疑問も抱かずに受け入れ、主人公を「極悪テロリスト」と思い込むのです。

 そこには分かりやすく面白可笑しいストーリーを求める一般大衆の姿勢がほのめかされ、主人公側の観客はその単純な馬鹿さ加減に腹を立てるわけですが……、描かれているそれって、普段の自分たちの姿じゃないですか?、とも思うわけです。

 断片的な情報を、自分たちに都合のいい見方をしてストーリーを作り上げ、あたかもそれが事実であるかのように簡単に受け入れてしまう。

 「ゴールデンスランバー」は面白いお話であると共に、現代の社会を映す寓話でもあります。

 こうして並べて書いちゃうと「インシテミル」の実験の真相も分かっちゃうかな? 後から分かると腹が立つようなので、まあ、ご容赦ください。

 絶体絶命の主人公の逃走を手助けするのは、権力者の示す「事実」に懐疑的であり、同時に柔軟な感性を持った人たちです。彼らはがんじがらめの現実に一様に静かな怒りを見せています。

 けっきょくミステリーとして描かれることなく終わる物語は、非常に現実的な結末の付け方でもあります。

 人は誰かが大きな声で「こうだ!」と言うと、それが単純で分かりやすい言葉であればなおさら、あっさりうなずいて受け入れてしまうもののようです。

 ある対象に強い感情を抱いて、それを受け入れて考えるか、反発して感情をぶちまけるか、その分かれ道にどういった作用が働くのか?

 たまたま続けて見た2本の映画でなんとなく考えた次第です。

 終わり。

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