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ダーク・ウォーター

 2005年、ジェニファー・コネリー主演。「リング」と同じく鈴木光司原作「仄暗い水の底から」(に納められる短編「浮遊する水」)による2002年のジャパニーズ・ホラー映画のアメリカリメイク作。



 オリジナルはわたしが最恐のホラー監督と信奉する中田秀夫監督(「女優霊」「リング」)作品ではありますが、こっちは嫌い。あくまでわたしの感覚ですが、こちらはホラーを勘違いしたホラー映画だと思う。(←絶対反対意見があると思いますが)

 人間の嫌な部分ばかりが極端にクローズアップされて、見ていて恐いよりもムカムカ嫌な気分ばかり感じてしまいました。ホラー描写も抑えめで、制作者が自分から「ホラー」であることを拒否したような、中途半端さを感じて、わたしは嫌いです。


 リメイクのウォルター・サレス監督(「モーターサイクル・ダイアリーズ」…見てないけど。ブラジルの人)作は傑作!だと思います。


 実はこれ、DVDで見たんですが、バーゲンセールで500円でたくさん売ってたんですよね。全然売れなかったんでしょうねえ。ジェニファー・コネリーが我がアイドルなので買ったんですが、オリジナルが嫌いなので、内容はまったく期待してなかったんですが。超掘り出し物でした。


 監督の腕前が明らかにこちらの方が一段上だと思います。まったく方向性が違うので比べるのもナンセンスだとは思いますが。


 オリジナルの何が嫌いといえば人間の描き方なんですが、どいつもこいつもろくでもない奴らで。

 リメイク版もストーリーはほとんど同じなんですが、人間のキャラクターが違っているんですね。確かにみんなあまり褒められた人たちじゃない。

 アパートを紹介する不動産屋はつまらない芝居をしてなんとか契約させようとするし、

 管理人は言い訳ばっかりで全然仕事をしたがらないし、

 弁護士は「家族が」とたびたび口にするが、どうも独り身らしく、見栄を張っているように見える。

 どいつもこいつもやり口がせこくて小市民的でやる気がない。

 でもイコール悪い人間ということではなく、なんだかんだ言いながら自分の仕事はちゃんとやる。

 人間に対して不必要に意地悪な見方をしておらず、ちゃんと人間として当たり前の良心も持っているんですね。


 主人公である母親は離婚調停中の夫と幼い娘の親権を争っている。

 そのため急ぎ新居を用意しなければならず、問題となるアパート(日本人の感覚ではマンション)に引っ越してくる。


 離婚調停中の夫とは相当険悪なことになっている。

 オリジナルで小日向文世が演じた夫なんて本当に冷たい、嫌な奴でしたが、リメイク版ではそこまで嫌な人間ではない。

 というか、ジェニファー・コネリー演ずる奥さんの方が相当神経質で(額の薄い皮膚に物凄い太い青筋)、本当にこの奥さんといっしょに暮らしているのは苦痛だったんだろうなあと同情してしまう。


 オリジナルでもそうだったと思うんだけど、リメイク版ではかなりはっきりと、奥さんに問題があるように描いている。


 この映画はホラー映画としてかなり恐いです。

 「ギャー!」と悲鳴を上げてストレス発散になるような派手な怖さではなく、ひたすら恐怖の対象に肉薄していく、その過程がひたすら重くて、ぐっしょり湿っていて、悲鳴を上げて息抜きをするということを許してくれないんですね。これを恐くないと言う人は全然映画に集中していないか、よほど鈍感な人だと思います。


 どうも娘が同い年くらいの女の子の幽霊と仲良くなってしまっているらしい。

 入ったばかりの部屋の天井には雨漏りがあり、それがどんどんひどくなっていく。

 娘と仲良くなっている幽霊はこのマンションで行方不明になってしまった女の子らしい。

 この雨漏りの正体はなんなのだろう?


 と、ホラーとして恐ろしい物語が展開するのですが、

 その恐ろしさの90パーセントを体現しているのがこの奥さんで。

 確かに幽霊がいるという描き方をしていますが、他の登場人物からすれば変な恐がり方をしているのは奥さんだけで、他はみんな現実的な受け止め方をしている。

 自分だけが幽霊を感じて、他は誰も信じてくれない、というのはうんざりしてしまうホラーの定番なんですが、

 ここでは奥さんも幽霊なんか信じていない。

 天井の雨漏りについて管理人にさんざん文句を言い、見ているこっちがうんざりするような苛立ちを見せ、見えない女の子と仲良く話す娘を厳しく問い詰めたりして、かなり痛々しい。本人にも自覚があって頭痛薬を常用している。


 恐いことはさんざん起こるけれど、それは現実的な原因が明らかとされる。

 けっきょくそれまでの「恐怖」は母親の疑心暗鬼という捉え方もできる。

 というところで、実際に原作では母親と娘はアパートを出ていって終わる。


 ところが映画はこの後で原作小説にはない女の子の幽霊が登場して原作小説にはない結末を迎えることになる。


 この終わり方が非常に後味の悪いものになっている。

 展開はほぼ同じなんですが、

 オリジナル版では非常に嫌な思いしか感じないのに対し、

 リメイク版は受ける印象がだいぶ違ったものになっています。

 よくよく考えるとリメイク版の母親の方が哀れで、オリジナル版の方がまだ精神的に救いがあるようにも思うのですが。

 オリジナル版は生きている人間が意地悪なろくでもない奴らばっかりなので、幽霊の存在がいじめられた母親の精神の逃げどころという印象がある。

 リメイク版では不気味な出来事ははっきり現実的な解決が与えられていて、真実が分かった今、人々は夫も含め母親にひどく同情的で、将来の明るい展望も示されている。その後に登場するので、幽霊が母娘にとってひたすら邪悪な存在になっている。

 結果もオリジナルはいろいろ解釈の出来るファンタジー的な色合いに対して、

 リメイク版ははっきりと結果を撮している。


 ホラーとしてはやっぱりこっちだろう、とわたしはリメイク版を推すわけです。


 きっとまったく逆の意見を持つ人も多いと思いますが。


 ラストも、これはきっと父親のキャラクターの捉え方だと思うのだけれど、リメイク版の方がより甘く、べたべたに感傷的なものになっている。母親に対する哀れさの裏返しでしょう。


 まったく同じストーリーでありながら、オリジナル版では人間の利己的な嫌な心を、リメイク版ではしがない人たちの人に対する良心を、全く逆に感じさせます。


 描き出すテーマと、リアルな怖さを感じさせる監督の腕前で、この映画はハリウッド映画には珍しい情緒的なホラーの傑作になっていると思います。

 ひたすら重〜〜〜〜〜い気分に浸りたい人にはお勧めです。

 重いですけれど、見終わった後はけっこうさっぱりすると思います。

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