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「映画クレヨンしんちゃん」シリーズ

 まさかベートーヴェンの伝記映画を見ていて野原しんのすけを連想するとは思いませんでしたが、「クレヨンしんちゃん」の映画シリーズを。


 記念すべき第1作目「アクション仮面VSハイグレ魔王」の公開が1993年。

 今年2011年「嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦」でなんと早19作目。そっかあ、来年で(きっと)20作目になるんですねえ…………。


 わたしはさすがに映画館に見に行くほどではないですが、第1作から公開の翌年のテレビ放映を楽しみに見ていたファンでした。

 「映画クレヨンしんちゃん」というと第9作目「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」と第10作目「アッパレ!戦国大合戦」の2作の評価がずば抜けて高く、おそらくこの2作の評判で「映画クレしん」を見るようになった大人も多いと思うのですが、わたしはこの2作品、いい映画だと思うんですが、実はあまり好きじゃないです。


 わたしがとにかく大好きで、おそらくアニメ映画の中で一番回数多く見ているであろうなのが、



   第5作目 「クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡」。



 これはもう本当に大好きで、20回くらいは見ていると思います。土曜の夜に一人でビールを飲みながら見ていると楽しいんですよね。…………寂しい奴…………。


 この映画はですね、映画が好きな人なら絶対に面白いと思います。

 大筋は毎度お馴染みの悪の組織との馬鹿馬鹿しい戦いなんですが、なんとこの作品、ロードムービーなんですよ! いい味が出ています。

 「ファンシーなオカマ」「お水VSニューハ−フ」「サラリーマンの儀式」「無音劇」「お尻」「突然の劇画調」とギャグも炸裂しまくり、シリーズ中一番(大人が)笑える作品だと思います。

 この5作目から初代の本郷みつる監督に代わり原恵一監督が担当し、しんのすけの妹ひまわりが加わっています。

 この前の時期テレビシリーズは「ひまわり誕生編」ですっかり「サザエさん」のようなただのファミリーアニメになってしまっていて、わたしは「つまらなくなったなあー、クレヨンしんちゃんももうおしまいかなー」と思っていました。監督も交代してしまって、まったく期待していなかった映画だったんですが、


 見てビックリ!


 起死回生、過去最高の傑作大笑い映画でした。

 おそらく原恵一監督もかなり気合いが入っていて、過去のクレしんの面白さを全力で描きつつ、自分なりにやりたいことも挿入した、「映画クレヨンしんちゃん」としては理想的なバランスの作品になったのではと思います。

 魔人を呼び出す宝玉を巡って(何故か)正義のオカマ三兄弟と悪のお水軍団が争奪戦を繰り広げ、そこにしんのすけひまわり兄妹と父ひろし母みさえの一家が巻き込まれ、聖地である山里目指して逃走劇を繰り広げる。ここで秀逸なロードムービーとなるわけですが、ここに射撃がド下手くそなくせにダーティーハリーを気取った女刑事が加わって、ドタバタと、のんびりしたたそがれ感が、いい感じで描かれているんですよ。こういうのを見ていると旅に憧れてしまいますねえ。

 もう一人、ロシア版シュワルツネッガーみたいな独りシリアスな強敵が現れて、グッと緊張感が高まるんですが、ま、それもほどほど。最後、クライマックスはお約束のギャグで落としてくれます。ここでは家族愛の爆発もギャグとして楽しく見られます。

 いやあ愉快愉快。ほんと、この映画は見るたびに笑えるし、見終わってから最高に気分がいいです。もう〜〜〜、大好き!


 第5作に続く


 第6作「電撃!ブタのヒヅメ大作戦」

 第7作「爆発!温泉わくわく大決戦」


 も傑作で、この3作がわたしはシリーズ中突出して好きです。

 次の

 第8作「嵐を呼ぶジャングル」

 を経て、第9「オトナ帝国」第10「戦国大合戦」と世間的な評価が爆発するわけですが、う〜〜〜〜〜ん………………………。



 これ以降の作品は作品の質もしんのすけのキャラクターも変質してしまって、あまり好きではありません。お話はひどく現実的(もちろん荒唐無稽ですが、変に大人の考えるリアルさがある)になり、しんのすけも「子どもっぽくおバカだけれど、芯はすごくいい子」という実に「正しい子ども」になってしまって、すっかり魅力がなくなってしまった。ずうっと母親たちの「子どもに見せたくないテレビ番組」のワーストに君臨し続けていたのが(今もそうなのかな?)、すっかり「笑って泣ける」と評価が高まり、良質なファミリー映画として定着してしまったようだ。それで面白ければいいんだけれど………すっかりパワーが低下しちゃったんじゃないかな?


 わたしは第1作目からのファンでした。

「スタッフが子どもをだしに自分たちの好きなことを思いきり楽しんでいる」

 という姿勢が痛快で、初期本郷みつる監督作品には全編にアニメーションの面白さが溢れていました。

 しかし、大人たちが面白がって好きなことをやって、でも、きちんと子どものことを考えて作っていたと思うのです。きっと、大人たちが本気になって面白がって作っている物は、子どもが見ても面白いに違いない、という信念があったと思うのです。格闘やナイフや銃器といったアクションも、敵がお馬鹿で、現実離れしていて、「だって子どもが活躍する冒険ファンタジーなんだもん」という免罪符で許されるというのを確信犯的に狙ってやっていたと思うのですね。子どもたちが大喜びするお下劣ギャグや派手なアクションも、「子どもが主役の子ども映画だから」成り立つ娯楽なんですよね。初期の「クレしん映画」は子どもが夢想する、子どもが思いきり大暴れできる、心優しいイタズラ好きの魔法使いが用意してくれた「おとぎの国」だったんですよね。

 監督が原恵一さんに変わって、監督自身の「面白い」と思うポイントが変わったと思うのですが、それでも第7作「温泉ワクワク大決戦」までは「子供のファンタジー」という基本的な構造は守られていたと思います。わたしはその「クレヨンしんちゃん」が大好きでした。それが第8作「嵐を呼ぶジャングル」になると敵のキャラクターがリアルに、現実的なものになり、しんのすけたちの冒険する舞台も子どものためのおとぎの国ではなく、「大人たちの人工的な遊園地」になってしまった。そこに紛れ込んでしまったしんのすけたちには実に奇妙な世界だ。子どもの純粋な目で「なんか変」な大人の世界を指摘するのは、原作初期に通ずるのかも知れないけれど……、楽しくない。子どもの目を借りたスタッフの現実に対する当てこすりのようで、なんか姑息だ。

 原作マンガはそもそもは子供向けのものではなく、それこそ純粋な(純粋を装った)子どもの、大人たちに対する子どもならではの遠慮のない鋭いツッコミと、子どもならではのボケと、さんざん引っかき回しておきながら「オラ、子どもだから」と子どもだから許される(子どもじゃなきゃ許されない)無責任な逃げ、が大人たちには恥ずかしさと苛立ちと、それをギャグとして笑い飛ばせる痛快さが面白くて受けたのだと思う。

 テレビアニメになって、初期の頃は大人が笑うポイントと、子どもが笑うポイントはそれぞれ別だったと思うのですが、同じ物を見ていっしょに笑いながら、でも笑いのポイントがズレている、というのも「クレヨンしんちゃん」ならではの面白さだったのではないかと思う。

 子どもたちの人気が高くなっていって(人気絶頂の頃わたしも実際に「しんちゃん言葉」を話す困った子どもたちに何人も会いました)だんだん子どもたちの笑いへバランスが傾いていったと思うのですが、それでもしんのすけは決して大人から見た「いい子ちゃん」ではなかった。相変わらずお調子者でわがままでムカつく「クソガキ」だった。それだからしんのすけは子どもたちのヒーローだったんじゃないだろうか?

 原恵一監督の映画版は笑いの「大人度」のバランスが高くて、子どもは面白いのかな?と当初から疑問に思っていたのだけれど、変な物を見て笑っている大人を見て子どもが「大人って変なの」と思うのも、それはそれで「クレしん」らしいかと思う。大人の笑いと子どもの笑いが違和感なく同居している映画なんて、他にはちょっと思い当たらない。


 今はどうなのかな?

 なんだか今のしんのすけの精神年齢って、小学校の5〜6年生くらいのような気がする。(←もう何年もまともに見ていないので数作前の映画版の感想ですが)

 いわゆる、大人が子どもに期待する、「子どもらしいいい子ちゃん」じゃないだろうか?

 わたしはそんなしんのすけに全然魅力を感じなかったし、「おバカ」をやっている姿の方にわざとらしい不自然さを感じてしまった。わたしが今子どもなら、そんなしんのすけに、「ちぇっ、なんだよ、大人にこびやがって」とそっぽを向くと思う。


 昔の「クレしん映画」は「映画だ映画だ!イヤッホー!」と、大人が子どもになって本気ではしゃいで大喜びで作っていた。その大人げない態度が良識的な大人からは眉をひそめられたんだろうけれど、子どもたちの信頼は勝ち得ていたと思う。

 今は「笑って泣ける」が最初から戦略的で、子供だましだと思う。本当の「お子さま映画」に成り下がってしまった。

 「クレしん映画」にはもう一度本気になって子どもたちと泥まみれになって遊び倒す「大人げなさ」が必要なんじゃないかと思う。

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