妖怪伽鬼(がき)のネアとクゥのつぶやきーー無邪気な遊び「ズイズイ・ズッコロバシ」に御用心
【妖怪伽鬼ネアとクゥのごきげんなお遊戯〜】
ネアとクゥは、妖怪伽鬼の姉弟だよ。まずは、自己紹介をするね。
弟の名前はクゥ。「飢えた」と「空っぽの器」を表してるんだ。みてみて、かわいいし守ってあげたくなるようなキャラクターでしょ? クゥは自慢の弟なんだよ。
それで、私はネア。「何かをねだる」「欲しがる」って意味なの。とっても私に合ってると思わない?
ネアとクゥはね、人間がどれだけ与えられても、満たされても満足できずに欲しがる澱が、ドロドロの重油やヘドロみたいに溢れ出しちゃってできたものなの。
本当の姿はね、ちょっとあんまり言いたくないんだけど……というか、本当は形なんてないんだよ。ネアは黒板をガリガリ引っかく音で、クゥはキーンって高い音が鳴ってるの。人間はその音が耳障りで本当は嫌みたい。あんな音を聞いたら鼓膜が破れたり精神のバランスが崩れちゃうらしいんだけど、そこはちゃんと私たちの妖術でいい感じに調整してあげてるのよ。ネッ、クゥ!
それなのに面白いことに、人間には、ネアは十二単衣を着た白い髪のおかっぱの女の子に、クゥは三歳くらいの狩衣に烏帽子を着た愛らしい子に見えるんだって。みんな、目と耳は大丈夫〜?
ネアとクゥの2人? 2妖怪? はねぇ、いくら欲が満たされても絶対に満足できないの。だから、常に飢えている人間がもっと増えたらいいなって思って、仲間を増やしてあげてるんだ。ただでさえ人間の世界はそういう人だらけだけど、大勢で連る方が安心なんでしょう? 人間もうれしいよね。
だからネアとクゥは、幸せオーラ満タンで満足そうに生きている人を見つけると、近寄っていって、その綺麗な白いオーラを全部吸い取っちゃうの。そうして空虚な人たちの仲間にしてあげるのよ。
「ねえ、クゥ。あそこの人間、見てごらんよ」
「ほんとうだ、姉ね(ネエネ)。なんだかキラキラしてて目が眩みそう……あんなにまぶしいのを見たら、目が……」
「まぁ! クゥを苦しめるなんて許せない。あんなふうに自分が満たされてるなんて勘違いしてるおメデタイ奴ほど、ぜんぶ空っぽになっちゃって、渇きが癒えなくなったときの顔が面白いんだよねぇ」
「さぁ、お遊戯の時間の始まりだよ。クゥ、行くよー!」
「お姉さん、こんばんは。私たち、お母さんにここで待っててって言われてるんだけど、その間一緒に遊んでくれる? 弟が退屈しちゃってさ」
「お姉ちゃん、僕と遊んで、お願い」
こう言うと、大抵の人は優しく遊んでくれるんだから。だから、ネアとクゥは『ズイズイ・ズッコロバシって知ってる?』って遊びに誘うの。そしたら、若い人間って案外その遊びを知らなかったりするんだよね。信じられないでしょ? だから、遊び方を親切に教えてあげるの。ほんと、めんどくさいんだから。そのくらい自分で知っときなさいよね。
「ずいずいずっころばし、ごまみそ……」って、そうやって遊んでいる間に、お姉さんのキラキラしたオーラを全部もらっちゃうの。
それをもらっているとき、本当は自分の中が空っぽになっていくのに、みんななぜかすごく幸せそうに笑うんだよね。なんでかなぁ? やっぱり人間って、常に満たされない方が好きなのかもね?
全部吸い取った後どうなるかって? 最初はただの虚無感に陥るみたいだけど、その後はもう乾いて乾いてしょうがなくて、いくら欲しがっても満たされなくなっちゃうの。感情がずっとグズグズに渦巻くんだってさ。
まあ、そのあとの事なんかネアとクゥは知らないもん! お仲間がいっぱい増えるんだから、楽しく過ごせるでしょ?
「姉ね、あっちに僕の目をいじめる奴がいるよ」
「あら、ほんとだ。クゥをいじめるなんて許せない。早く遊びに誘わなきゃ」
「姉ね、早くズイズイ・ズッコロバシやりたい! 早く行こ、行こ!」
今日も夕方の優しい橙色の街に、ネアとクゥの楽しげな声が響いている。




