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雪少女の婚期と初めての花火大会

作者: ヤナギ
掲載日:2026/06/23

「見事に長袖だなぁ、皆」

つい、失言をしてしまう。

「やっぱり、私がいると寒くなっちゃうね。知ってたよ? もちろん」

悲しそうな顔をして返してくる。


『0℃の真夏』


花火大会、というのに皆浴衣じゃなく長袖の服を着込んでいる。


雪女がいる所は寒くなる。

まあ、隣に歩く子は雪女じゃなく雪少女で、幼なじみでもあるんだけど。

小学校までは一緒だった、人間の世界を学ぶため、だったらしい。冬にしか姿を見せなかったけど。


「でも、僕は大丈夫だよ」

笑顔を向けてみせる。

「寒いんじゃないの?」

心配そうに。

「いやいや。見なよ、僕は浴衣だろ?

1人だけ浴衣ってのは、なんだか面白いね」

大丈夫アピール。


本当は寒くて仕方ない。

けど、幼なじみを悲しませたくはない。

花火大会に参加したくて、わざわざ雪の国から来てくれたんだから。


明日は大風邪かなあ、とか思ったりもするけど。

自律神経…。


「楽しもうよ、花火大会」

「…。

うん、そうだね!」




『花火が上がります。皆様、港までお越し下さいませ』


「花火、花火」

ルンルンだなぁ、たこ焼きの入っていたパック、わたあめの付いていた木の棒、などを持ちながら隣で歩く僕は、つい笑ってしまいそうになる。


16歳になって、初めての花火大会なんだろう。

けど、何で今更なのだろう?

僕にとっては高1の歳だけど、雪の国に住むこの雪少女にとっては…?

わからない。高校があるのかも分からないし。


「早く早く」

「まだ時間はあるよ? すぐそこじゃないか」

「知ってるよ。

場所取りだよ、場所取り」

打ち上げ花火に?


『それでは、打ち上げ花火を開始します』


いよいよか、と口に出しそうになる。

バカにされそうで言わないけど。


花火大会も、もう少しで終わり。

明日からは、また課外。医者になるために、勉強しないと。


まあ、今だけは花火を楽しもう。


ドンッ、ドンッ、パラパラパラ。


大きな音の中、可愛らしい幼なじみがこちらに顔を向けてくる。


満面の笑みで、

「よ…た…ゆ…に来ない?」


何かを言ってきて、なぜか顔を赤くされた。


花火が終わった後、何て言ってきてか聞いてみた。

「2回も言いたくないっ」

首をブンブンと振られ、再び顔が赤くなった。


結局、何を提案されたかは分からなかった。




翌日、マスクをしたお母さんに「病気になりやすいのに薄着するからっ」と軽く叱られながら、車で、病院の駐車場に連れていってもらった。


「昨日はなぜか寒かったから、自律神経を崩した方が多いですね。検査しましたがコロナではありませんでしたよ、風邪ですね」

看護師に、穏やかに言われた。


マスクの下で、鼻水を出しながら、僕は昨日の特別な花火大会を思い出すのであった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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