雪少女の婚期と初めての花火大会
「見事に長袖だなぁ、皆」
つい、失言をしてしまう。
「やっぱり、私がいると寒くなっちゃうね。知ってたよ? もちろん」
悲しそうな顔をして返してくる。
『0℃の真夏』
花火大会、というのに皆浴衣じゃなく長袖の服を着込んでいる。
雪女がいる所は寒くなる。
まあ、隣に歩く子は雪女じゃなく雪少女で、幼なじみでもあるんだけど。
小学校までは一緒だった、人間の世界を学ぶため、だったらしい。冬にしか姿を見せなかったけど。
「でも、僕は大丈夫だよ」
笑顔を向けてみせる。
「寒いんじゃないの?」
心配そうに。
「いやいや。見なよ、僕は浴衣だろ?
1人だけ浴衣ってのは、なんだか面白いね」
大丈夫アピール。
本当は寒くて仕方ない。
けど、幼なじみを悲しませたくはない。
花火大会に参加したくて、わざわざ雪の国から来てくれたんだから。
明日は大風邪かなあ、とか思ったりもするけど。
自律神経…。
「楽しもうよ、花火大会」
「…。
うん、そうだね!」
『花火が上がります。皆様、港までお越し下さいませ』
「花火、花火」
ルンルンだなぁ、たこ焼きの入っていたパック、わたあめの付いていた木の棒、などを持ちながら隣で歩く僕は、つい笑ってしまいそうになる。
16歳になって、初めての花火大会なんだろう。
けど、何で今更なのだろう?
僕にとっては高1の歳だけど、雪の国に住むこの雪少女にとっては…?
わからない。高校があるのかも分からないし。
「早く早く」
「まだ時間はあるよ? すぐそこじゃないか」
「知ってるよ。
場所取りだよ、場所取り」
打ち上げ花火に?
『それでは、打ち上げ花火を開始します』
いよいよか、と口に出しそうになる。
バカにされそうで言わないけど。
花火大会も、もう少しで終わり。
明日からは、また課外。医者になるために、勉強しないと。
まあ、今だけは花火を楽しもう。
ドンッ、ドンッ、パラパラパラ。
大きな音の中、可愛らしい幼なじみがこちらに顔を向けてくる。
満面の笑みで、
「よ…た…ゆ…に来ない?」
何かを言ってきて、なぜか顔を赤くされた。
花火が終わった後、何て言ってきてか聞いてみた。
「2回も言いたくないっ」
首をブンブンと振られ、再び顔が赤くなった。
結局、何を提案されたかは分からなかった。
翌日、マスクをしたお母さんに「病気になりやすいのに薄着するからっ」と軽く叱られながら、車で、病院の駐車場に連れていってもらった。
「昨日はなぜか寒かったから、自律神経を崩した方が多いですね。検査しましたがコロナではありませんでしたよ、風邪ですね」
看護師に、穏やかに言われた。
マスクの下で、鼻水を出しながら、僕は昨日の特別な花火大会を思い出すのであった。
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