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さまよう鎧は今日も帰れない!──毎夜姿を変える星屑の迷宮を歩く、夜になると消えてしまう少女と漆黒の生ける鎧。  作者: nanananaca
第一幕:星屑の道は今日も遠くて

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Episode 22:流れ星の迷い子

「ノワール! ユウ! 見て! あそこ、星が落ちてるみたい!」


星屑の道の先で、ティアの魂が突然ふわりと立ち止まり、面甲の奥から見つめるノワールに向かって大きく目を丸くした。


彼女が指さす道の向こう側が、見たこともないような濃密な銀色の光の群れで埋め尽くされていた。無数の小さな光の粒子が、まるで夜空の天井から一斉にこぼれ落ちてきたかのように、銀白色の石畳の上で幾重にも渦を巻きながら荒く漂っている。それは、行く手を阻むように道を塞ぐ『流れ星の群れ』だった。


異変を察知して、いつものようにピクシー四姉妹が羽をバタつかせながら慌てて飛んできた。その後ろからは、少し遠慮がちに星影の子ルカもついてくる。


「わわっ! これは大きな空間シフトの予兆だよ! 近道は……こっち!」


赤ピクシーが一番に叫べば、青ピクシーがすかさず「いや、こっちのルートの方が絶対に早いはず!」と張り合う。黄ピクシーは「緑、また寝てる……」と呆れ、半分だけ目を開けた緑ピクシーが「……ティアちゃん、危ないよぉ……」と眠たげに注意を促した。


そんな四姉妹の喧嘩をよそに、光の群れはみるみるうちに膨れ上がり、ついには巨大な銀色の光の壁となってノワールたちの前進を完全に阻んだ。光の粒の一つ一つが、まるで迷子になった子どものように落ち着きなく不規則に飛び回っている。


「……群れが道を完全に塞いでいるな」


ノワールは兜をわずかに下げ、胸の星槽の出力を警戒レベルに引き上げながら低く呟いた。


「このままでは、里へと続く空間のグリッドが完全に消失しかねない」


「みんな、どこへ行けばいいか分からなくて迷ってるみたい……。どうしよう、ノワール……」


ティアが心配そうに、激しく明滅する光の壁を見つめる。


その時、紙翅ししモスのユウがノワールの黒い肩から静かに飛び立ち、そわそわと波打つ光の群れのすぐそばへと舞い降りた。半透明の翅をゆっくりと広げると、表面に刻まれた古い詩句が淡く発光し、一枚の紙片がふわりと光の渦の中へ落ちていく。


「……『星は、あたたかな家族の場所を探してさまよう』……。これが、この迷子たちの胸にある共通の想いだね」


紙片が光に触れた瞬間、切ない記憶の残滓が周囲の空間へと優しく再生された。


それはかつて世界を揺るがした『大星災』の夜の記憶。激しい光の奔流とともに夜空から引き剥がされ、地上へと落ちてきた無数の星の欠片たち。彼らは暗い空間の中で家族や大切な人と離ればなれになり、「もう一度、みんなと一緒にいたい」と切実に願いながら、この閉ざされた道を今日までさまよい続けていたのだ。


「みんな、ずっと一人で寂しかったんだね……」


ティアはユウの紡いだ紙片を自身の胸にそっと当てるようにして、優しく語りかけた。


「私もね、病室のベッドで一人きりだった時、ずっと『誰かと一緒にいたいな』って思ってたよ。でも今は、ノワールやユウ、みんなが私のそばにいてくれるからもう寂しくないの。だから大丈夫。みんなも一緒に、あったかい家族のところに戻ろう?」


その優しい呼びかけにピクシー四姉妹が慌てて別の近道を提案しようとした、まさにその瞬間だった。ミルフィが目をこすりながらフラフラと飛んできて、こともあろうに光の群れのど真ん中へとノーモーションで突っ込んでしまった。


案の定、驚いた光の群れはさらに激しく乱れ狂い、銀色の壁が膨張して道が完全に崩壊しかける。


「みんな、落ち着いて! ユウ、教えて! この子たちをどうやったら元の場所に還してあげられるの!?」


ティアが慌てて両手を広げて叫ぶ。ユウはこれに応じるように翅を大きく広げ、もう一枚の紙片をハラリと落とした。今度はその光が群れ全体へと行き渡り、再生された温かな記憶の波動が、迷子たちの心の奥へと真っ直ぐに届いていく。


「……『家族を呼ぶ声は、どんな過酷なシフトをも越えて響く』……。ティア、君のその真っ直ぐな声で、みんなを導いてあげるんだ」


ティアは深く、優しく深呼吸をすると、銀色の渦に向かって明るく手を振った。


「みんな、こっちだよ! 一緒に、家族のところに帰ろう! 私はずっとここにいるから、何も怖くないよ!」


その透き通った声が空間に響き渡った瞬間──あれほど激しく荒れ狂っていた光の群れが、嘘のようにピタリと動きを止めた。


そして一粒、また一粒と、まるで母親の元へ駆け寄る子どものようにティアの魂の周りへと集まり始め、銀色の美しい光の道を作り出していったのだ。


「ティアちゃんの声、すっごく綺麗……!」


ピクシー四姉妹も驚きに目を輝かせながら、ティアの真似をして一緒に一生懸命手を振る。後ろにいたルカも、小さな手をそっと振って「……僕も、一緒に……」と小さく微笑んだ。


ノワールは静かに胸の星槽を開き、旅の途中で得た『青の欠片』をスロットへと滑り込ませた。道探知の魔導回路が作動すると、光の群れが紡ぎ出した新しい銀色のルートが、星蜜の里の方向へと確かに繋がっているのが面甲の奥にはっきりと見えた。


「……見事だ。道が完全に拓けたぞ、ティア」


ノワールが低く、しかし確かな温もりを込めて告げる。


迷子だった光の群れは、まるで心からの感謝を伝えるかのように、ノワールたち一行の周りを一度きれいにくるりと回り、それから満天の夜空に向かって、静かに、ゆっくりと一本の光の帯となって昇っていった。


遮るもののなくなった道には、まるで祝福のように美しい銀色の光の粒が優しく舞い落ちている。


「みんな、がんばってね! またいつか空で会おうね!」


幸せそうに夜空へ手を振るティアの横で、ノワールは再び重厚な足音を響かせながら歩き出した。鎧の胸の奥で、確かな充足感が広がっていく。


(……ティアの声は、迷い込んだ星の光までも優しく導く。かつての俺は、ただ脅威からあの子を守るだけの盾だと思っていたが……。こうして皆と手を取り合い、共に新しい道を拓いていく日常も、今は決して悪くないと感じているな)





やがて一日の終わりを告げる夕陽が沈み、いつもの『星屑シフト』の地鳴りが轟いた。里の温かな灯りは無情にも遠ざかり、いつもの「あともう少し」の過酷な距離へと引き戻されていく。


約束の時間が訪れ、ティアの魂がふわりと夜空へ浮き上がった。


「えへへ……今日もやっぱりダメだったね。でも、流れ星の迷子のみんなが無事におうちに帰れて……私、すごくいい一日だったな。明日も、絶対にがんばろー!」


穏やかで愛おしい笑顔を残し、彼女の魂は夜空へと溶けるように消え去っていった。


ユウはティアの消えた虚空でゆっくりと翅を広げ、今日の手助けで集まった輝かしい光の記憶をまとった粒子を、ノワールの胸の星槽へと静かに放った。ノワールは肩の上の、ユウの温かな紙の感触を優しく感じながら、明日を信じて静かに、力強く道を進み始めるのだった。

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