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婚約破棄された異端令嬢ですが、王国の結界を担っていたのは私でした。今は帝国皇子と宮廷魔術師の幼馴染に溺愛されています

作者: 紅 与一
掲載日:2026/02/27

「よし、今日も完璧」


屋敷から歩いて二時間ほど離れた塔の最上階で、私は王国の護りを担う“魔道具”の点検を終えたところだった。


点検と言ってもほとんど魔力を込めるだけ。


先代の管理者であるお婆様が亡くなってから十年、私は毎日ここに通っている。


"この子"は千年以上前からここで、魔族の侵攻から王国を守ってくれているらしい。


私の身長ほどもある青く光る球体をそっと撫でた。


「また、明日来るからね」


そう呟いて、私は二時間かけて屋敷へと帰る。


「今日は暖かいな……」


季節は丁度春。


塔と屋敷を繋ぐ道は草原になっていて、この季節は風がとても心地いい。


色鮮やかな花々が咲いていて、つい寄り道したくなるけど、定刻までに帰らないと叱られるので、帰り道を急ぐ。



「おぉ、ティリス。ようやく帰ったか」


屋敷に戻ると、珍しく父が出迎えた。


普段、私に関わろうとすらしない父がいることに違和感を覚え、胸がざわつく。


「実はな……少し話がある」


父は咳払いをして、話を続ける。


「お前と婚約が決まっていた第二王子との縁談が、破棄になった」


「……えっ?」


「だがな、その代わりにお前の姉を婚約相手として所望してくださったのだ。王家との縁が切れずに済んだ。実に喜ばしいことだ」


「その話をするために、今日、第二王子クレイン殿が直々に来ておられる。」


父がそう言い終えると、奥の階段からクレイン王子が姉を抱き寄せながら降りてきた。


「久しいな、ティリス」


「単刀直入に言おう。お前との婚約は解消する」


「あの塔の管理も、もうお前の役目ではない」


そう言って、王子は姉の腰を引き寄せ、これ見よがしにキスをする。


「魔道具に魔力を込めるだけの仕事など、誰でもできるのだからな」


「しかし、お前がどうしても仕事を続けたいというのであれば話は別だ」


「私の下女として雇ってやろう」


「あぁ、さすが王子様、なんて寛大なお心」


姉はそう言うと王子の頬にキスをする。


「ティリス!王子の折角のご厚意だ、ありがたく頂戴しろ!」


父まで、笑いながら私を王子に売った。


(もう、私がここに居る理由もない……)


「せっかくのお言葉ですが、辞退させていただきます」


深く頭を下げ、私は屋敷の外へ向かった。



――私を引き止める人は誰も居なかった。



屋敷の外にある小屋に向かい、自分の部屋に入ると急いで荷物をまとめる。


「風よ、私を運んで」


普段は禁止されている魔法を使い、"魔道具"の元へと急いだ。


塔の階段を駆け上がり、青く輝く球体に抱き着く。


「ごめんね……朝、約束したのに、私はもうここに来られない……」


両親と違う髪と瞳を持って生まれたせいで、異端の子と言われ育った私にとって、


"この子"だけが唯一の友達だった……


「ぐすっ……」


涙が溢れ、球体を抱きしめていると、突然眩しく光り出した。


「えっ……?」


一瞬――


「――心配しないで」


そう、聞こえた気がした。




光に包まれて、次に目を開けた時には見知らぬ平原の道のど真ん中に移動していた。


「え……?どういうこと……?」


困惑しながら辺りを見渡していると、馬の足音が聞こえてくる。


「お嬢さん!道のど真ん中で座っていると危ないですよ!」


そう言われたのですぐに立ち上がり、道を譲ろうと思い端へと移動する。


「あれ……その赤い髪、もしかしてティリスかい?」


振り向くと、フードを被った青年が馬に乗っていた。


「えっと……どなたでしょうか?」


「あぁ、もう随分昔だからわからないよね、僕だよ」


「クリフだ」


そう言うと、彼は被っていたフードを降ろした。


彼の顔をよく見ると、


暗緑の髪色に、宝石のように透き通った緑の瞳。


片眼鏡をかけたその姿は、とても知的な雰囲気がある。


「……?」


首を傾げながら彼の顔を見つめ、必死に思い出した――


「あぁっ!同じ魔術学院の……」


子供の頃に通った、魔術学院で特別仲の良かった友達だ。


「ははっ、よかった思い出してくれて」


彼は嬉しそうに笑いながら馬から降り、私の手を取った。


「君と別れてからずっと探していたんだ」


「でも、何度家を訪ねても、君は居ないって言われ続けてね……」


彼は私の手を優しく擦ってくれる。


「随分荒れた手だ、何かあったの?」


「……家を、追い出されて……」


家のことを思い出して、胸がぎゅっと苦しくなり、涙が滲んでくる……


「そうか……つらかったね」


私が泣きそうになって目を伏せると、彼は私の手を優しく包み込んでくれた……


「ここでは落ち着いて話も出来ないし、僕の屋敷に来ないかい?」


「え……でも……」


「その様子だと、行く宛もないのだろう?」


確かに……いきなりこんなところに飛ばされて、行く宛もない……


「うん、じゃあ、お願いしてもいいかな……?」


答えを聞くと彼は嬉しそうに笑って、私の手を引いて馬の傍まで連れて行った。


「足をここにかけて」


次の瞬間、彼の手が私の腰に触れた。


「わっ……」


ふわっと体が浮いて、そのまま馬の上に乗せられた。


「すごい高い……」


「馬に乗るのは初めて?」


「うん……」


そう答えると、彼は後ろから私を支えるように跨る。


背中越しに彼の体を感じる……


(……近い)


「大丈夫、この子は優しいから」


彼の腕が私の腹のあたりに回り、布地越しに指先がそっと触れた。


落ちないように気遣ってくれているだけなのに……胸がドキドキして、少し痛い。


馬が歩き出すと体が揺れて、思わず声が漏れた。


「怖い?」


耳元でそう聞かれて、びくっと肩が跳ねる。


彼の吐息が首筋に当たり、ぞくっとした。


「……こわく、ない」


ただ――


どうしてこんなに胸がうるさいのか、わからない。


顔も熱くて、どうにかなってしまいそう……


私は理由も分からないまま、ただ目を伏せた。





一時間ほど馬に揺られていると、大きな城下町が見えて来た。


「僕の屋敷は郊外にあるから、街の中には入らないけどね」


彼はそう言って、城壁沿いの道を進んで行く。


しばらくすると、草原の中に大きな屋敷がぽつんと建っていた。


「あれが僕の屋敷、草原の中だけど結界を張ってあるから、僕が許可した者以外は入ってこれないよ」


「部屋は沢山余ってるから、好きに使ってね」


彼は馬を小屋に繋ぐと、私の手を引いて屋敷の中へ案内してくれた。


屋敷に入り、部屋に案内されると――


そこにはたくさんの本が床に転がっていて、本以外にも様々な物が散らかっていた。


「あぁっ!忘れてた……ごめん!今片づけるよ」


彼は慌てて本を拾い上げたが、その拍子に積み重なっていた本が彼に向かって倒れてくる。


「うわぁっ!?」


――そうだ、彼は昔から整理整頓が苦手だった……


そんなことを思い出して、私は家を出てから初めて笑った。


「ふふっ、私も手伝うね」


二人で、散らかった部屋の掃除を始める。


「あっ!ごめん!それ大事な奴だから……」


「あ、それも使うかも……」


「もう……いらないのは捨てないと、部屋が使えないよ」


私がそう言うと、彼は積み重なった書類や本を見て


「これはいらないか……?いやまだ使うかも」と呟いて必死に分別をしていた。


私はそんな彼を見て、くすっと笑って本に積もった埃を落としていく。


なんてことのないただの掃除だけど、屋敷に居た頃と違って、とても楽しかった――





「いやぁ、ごめんね……長旅で疲れてるのに手伝ってもらっちゃって」


彼は謝りながら、私に温かい紅茶を渡してくれた。


「うぅん、気にしないで。掃除は家で毎日してたから」


「え?君は令嬢だろう?なんで掃除を?」


彼は私の正面の椅子に腰掛け、紅茶を飲みながら聞いてくる。


「……家だと、居場所がなかったから……」


言葉につまりながら言うと、屋敷での暮らしを思い出した……


家族や侍女は私を見ると、汚いモノを見るような目をして、


母からは同じ家に住むなと言われ、屋敷の外のあばら小屋で寝食を過ごした。


最初は寒くて泣いたけれど、いつの間にか、それが当たり前になっていた――


彼は私の言葉を聞くと、考え込むように顎に手を置いて、上を見上げる。


「……なるほど、だから君の家を訪ねてもいつも不在だったのか……ふざけているな」


彼の声は、今まで聞いたことがないほど低かった。


「原因は、君の容姿、だね?」


核心を突かれ、ビクッと体が震える……


それを見た彼は深くため息を吐いて――


「はぁ……これだからあの国の連中は……古い格式に囚われて本質を見ようともしない」


「あいつらが君に何を言ったかは大体想像つくけど、気にしなくていいよ」


そう言うと、彼は私の手を優しく包み込んでくれた。


「君の容姿は天賦の才の表れだ、今度それを証明してあげるよ」


「ただ、それを用意するには少し時間がかかる、よかったら僕の屋敷に住み込みで働いてみないかい?」


「えっ?」


私がきょとんとして聞き返すと、彼は困ったように笑いながら頭を掻く。


「僕、掃除が苦手でさ……あまり知らない人を家に入れるのもイヤだから侍女も雇ってないんだよ」


「その点、君は魔術に詳しいし、信頼もできる」


「無理をしない範囲でいいし、ちゃんとお給金も出す」


「だから、どうかな?」


行く宛がない私にとって、これ以上ない好条件……


少し、悩んだけどここは彼の好意に甘えることにした。


「うん……私でよければ、お願いします」


「やった!僕の方こそよろしくね!」


彼は少年のように喜んで私の手を握った。


屋敷を出たあの瞬間、もう死んでもいいとさえ思っていたけど……


もしかして……あの子が私をこの縁に導いてくれたのかな。


そんなことを思って、明日からの生活が少し楽しみになった。






「どうして魔力を込められないんだっ!」


王国第二王子クレインは王国の護りを担う魔道具に魔力を込めようとするが、何度やっても弾き返されてしまう。


「くっ……あの女が居なくなってからもう二週間が経つ……そろそろ結界も持たないぞ……」


魔力不足なのか、普段は青く輝く球体も、今は光を失い弱々しく点滅を繰り返している。


「まずい、まずいぞ……なんとかしなければ……」


「このっ……いうことを聞け!道具風情が!」


荒々しく叩き、力任せに魔力を込める――


すると、彼を拒絶するように球体から火花が飛び散った瞬間、見えない力によって王子は壁に勢いよく叩きつけられる。


「ぐはぁっ!」


体全体に鈍い痛みが広がる――


魔道具は彼を吹き飛ばすと、まるで嘲笑うかのように強く輝いた。


(どうしてだ……まさか、あの女でなければ駄目だったというのか……)


(誰でもできるはずではなかったのか……)


王子が痛みに耐えながら立ち上がると、兵士が階段を駆け上がってくる。


「伝令!北の要所の砦が魔族に襲われました!」


「なんだとっ!?」


その言葉にハッとし、振り返ると、先程まで弱々しく輝いていた光が、完全に失われ、青黒い球体へと変化していた。


呆然としていると、さらに兵士が駆け上がってくる。


「伝令!王が呼んでおられます!すぐにご足労ください!」


「こ……こんなはずでは……」


王子は石造りの壁に背を預け、そのまま崩れ落ちた――






「ふぅ、ようやくすべての部屋が綺麗になった……」


幼馴染のクリフの屋敷に来てから二週間、毎日掃除をしてようやく一通りの掃除を終えた。


「ティリスー!手が空いたらこっちに来てくれー」


部屋の外から大声で彼の声が聞こえたので、返事をした。


「今行くから、ちょっと待ってて。」


そう言って、屋敷の階段を降りて彼を探す。


「あ、掃除中にごめんね、この前言っていた君の才能を調べるための準備が、ついにできたんだよ」


彼はそう言うと、私の手を引いて応接室へと案内した。


部屋の中に入ると、中央の机に大きな水晶が置いてあった。


「これは?」


「君の魔力量を調べる測定器さ」


彼がそう言うと同時に、来客を告げる鐘の音が響いた。


「大事な時に……いったい誰だろう」


「ちょっとここで待っててね」


そう言って、彼は玄関の方へと歩いて行った。


(この水晶……少しだけあの子に似てるかも)


(そういえば、もう二週間が経つけど……元気にしてるかな)


水晶を撫でて待っていると、突然眩く光り出した。


「きゃあっ!?」


あまりの眩しさに悲鳴を上げ、目を覆う。


「ティリス!大丈夫かい!?」


彼が慌てて駆け寄って来て、私の肩を支えてくれた。


「ごめんなさい……まさか触るだけでこんなことになるなんて……」


「いや、ごめん、僕も説明してなかったからね」


彼は優しく私の背中を擦ってくれた。


「おい、これはどういうことか説明しろ」


その声に振り向くと、応接室のドアを開けて一人の男性が現れた。


白を基調とした礼服に、赤いマントを身に着け、綺麗な銀髪と碧眼で、目付きの鋭い男性が立っていた。


「アレフ、以前話したことがあっただろう、彼女がその人だよ」


「ほほう、この娘が、か……」


アレフと呼ばれた男性は、私に近寄って目線を合わせた。


男性に見られることに慣れていない私はすぐに目を逸らしたが、彼に顎を掴まれ、無理やり視線を合わせさせられる。


「俺から目を逸らすな」


そう言ってじっと目を見つめられる……


「ふむ、上質なワインのように紅い髪、ルビーのように透き通る瞳……」


「気に入った、俺の嫁になれ」


「なっ!何を言うんだアレフ!」


私が驚いて目を見開いていると、隣からクリフが彼を引き剥がした。


アレフはクイッと顎先で机の上の水晶を示し


「あれは先日、城の宝物庫から持ち出した測定器だろう」


「帝国内でも随一の性能を誇る魔道具がアレだけの光を出すのを、俺が見た限りでは初めてだ」


「彼女の才能が欲しい」


彼はそう言うと再び私と視線を合わせ――


「そして、容姿も素晴らしい、実に好みだ」


と真っすぐ目を見つめて告げられ、威圧的な言葉とは裏腹にとても優しそうな笑顔をしていた……


私はそう言われて顔がぶわっと熱くなるのを感じ、鼓動がとても速くなった……


「だめだ!彼女は渡さないぞっ!」


クリフはそう言うと、再び彼から私を引き剥がし、胸の中に抱き寄せる。


「えっ、えっと……」


何が何だかよくわからずに困惑の言葉だけが口から漏れる……


「僕は、子供の頃から彼女が好きで……ずっと会いたくて探し続け、ようやく出会えたんだ!」


クリフは私を抱き寄せたまま、私の耳元で告白した。


「え……えぇっ!?」


驚いて思わず大きな声が出てしまう。


「彼女に会えなくて、ずっとさみしかった……もう二度と離さない」


彼はそう言うと、私の首筋に口づけした。


「……っ!?」


触れられた場所が、じんわり熱くなっていく……


胸がぎゅっと締め付けられて、少し痛い。


けど、不思議と嫌な気持ちじゃなかった。


「ごめん……我慢できなくて……」


私が彼の腕の中で固まっていると、私の肩に額を押し当てて、囁くように呟いた……


「この俺相手に見せつけるとは、大した度胸だな」


アレフは腕を組みながら少しふてくされたような声を出して、


「俺はこの国の皇子だ、お前から奪い取る方法なんていくらでもあるぞ?」


「えぇっ!?」


衝撃の事実の連続に再度大声が出る……


「こちらに来い」


そう言って皇子は私をクリフから奪い取り、そのまま片手で私を抱き寄せ、顎を持ち上げて唇を近づける。


「やっ……」


やめて、と言おうとしたけど、


皇子の綺麗な瞳に視線を吸い寄せられて、言葉を失う。


近付く吐息に、鼓動が速くなる。


逃げなきゃ――


そう思ったのに体が動かなくて、私は目をきゅっと瞑って、身を任せた――


「だめだっ!それはまだ早いっ!」


クリフがそう言うと、再度私を奪い返した。


そのまま皇子から距離を取って私が奪われないように力を込めて抱き締める……


「君の性格は長い付き合いだから知っているが、こればかりは譲れないね」


「俺の邪魔をするとは、余程その娘に惚れているんだな」


アレフは少し嬉しそうに笑っていた。


「ふむ……お前の頑固さも俺は知っているからな」


「俺も、お前が相手だろうと引く気はない」


『なら、彼女に決めてもらうしかない』


二人は同時にそう言い、私の顔を見つめた――








「シルビア!頑張りなさい!」


お母様が私に向かって泣き叫ぶように言う。


「お前ならできる!頑張るんだ!」


「うっ……ぐっ!この、道具のくせに!」


「なんで!反応しないのよ!」


王国の護りを担う青黒い球体に何度も魔力を込めたのに反応しない……


「あの子に出来て!私に出来ないはずがないわっ!」


(私は、赤毛で異端の妹より、優れているはずなのよっ!)


(王国名家である、お父様の金色の髪を受け継いだのは、私ですもの!)


そう言って魔道具を叩き、もう一度魔力を込める。


――しかし、魔道具がもう一度光ることは無かった。


「どうして……私とあの子の何が違うの……」


(私と目が合えば、怯えて何もできない子なのに……!)


「もうよい、お前たちには失望した。」


心の底が冷えるような冷たい声が響き渡る。


「お前たちの領土を一部取り上げる」


「さらに、魔族の侵攻を止めるため、北の要所に赴き、指揮を取れ」


「要所が落ちたらどうなるか、わかっておろうな」


王の威厳ある声が石造りの部屋に響き渡る。


父はこの世の終わりのような顔をして膝から崩れ落ちた。


母は何もせず、隣で泣いているだけ……


どうして、私がこんな目に……


「全て、あの子がいけないんですわっ!」


「どうかお慈悲をっ!妹を探しだし、必ず結界を蘇らせますので!」


頭を下げ、願い請うたが王は何も言わずに去っていった――












二人に見つめられ、恥ずかしくなった私は目を逸らす……


「え……えっと……一旦、保留で……」


頭が真っ白だったので、そう答えるので精一杯だった……


「ふむ、奥ゆかしく、そこもまた可愛いな、より好きになりそうだ」


「なっ!駄目だって言ってるだろう!」


「駄目かどうかは彼女に決めてもらうべきだろう?」


「くっ……たしかに……」


クリフは悔しそうに拳を握って震えていた……


(私が優柔不断なせいで……)


そう思い、彼に対して罪悪感が沸く。


「あぁ、そうだ、こちらに来たのは別の用があったのだ」


アレフはそう言うと、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「隣の王国から救援要請があってな、なんでも魔族からの侵攻にあってるらしい。」


「あの国には神話時代の強固な結界があるのに、破られたのかい?」


「知らん、どうやら結界が上手く作動しないらしくてな、その手の魔術師を紹介しろと要請が来ている」


「お前ならその手の魔術に詳しいだろう?」


「なるほどね、正直面倒くさいけど、仮にも宮廷魔術師だ、君の要請を断るわけにはいかないね。」


彼らの話を聞いて、私は体が震えた――


「あの子が……やっぱり魔力不足で……」


「ティリス?大丈夫かい!?」


魔族の侵攻……つまり沢山の人が死ぬ――


そう想像しただけで足が震えて立っていられなかった。


「ごめんなさい……わたしの……せいで……」


今更謝ってももう遅い、でも謝る事しかできなかった……


「……なるほどな、ティリス、貴様が結界の担い手だったか」


「そうか、そういえばティリスの家は結界術の名家だったな」


「でも、ティリス以外にも人はいるだろう?どうして結界が今更……」


「それはそこの魔道具が証明している」


まだ淡く光り輝いている魔道具をアレフが示す。


「この反応……まさかっ!?」


「そうだ、彼女は精霊の愛し子だろう」


クリフはアレフの言葉を聞いて、頭を抱える。


神話の時代の魔道具(アーティファクト)はつまり精霊の化身だったのか……」


「そうだろうな、だが王国の頭の堅い連中の事だ、歴を重ねるごとに血筋のみを重視し、大事な事を伝え損ねたのだろう。」


「アーティファクトかつ、神話級の精霊だと考えると、あの理知を超えた出力も説明がつくね……」


「我が帝国としては、別に王国が魔族に滅ぼされようと知ったことではないが、貴様はどうしたい?」


そう言われ、彼は私の目を見つめる。


「あの子に……会いに行きたいです……」


「だそうだ、クリフ、お前はどうする?」


「僕も行くよ、彼女を追いだした家の連中はどうなってもいいけど、無辜の民を放っておくことはできないだろ?」


「なら俺も向かうとしよう、馬車の中で愛を囁くのも、中々いいものだ」


アレフは顎に手をやり、ニヤニヤと笑いながらこちらを見つめている……


「なっ!僕も負けないぞっ!」


クリフは私を抱き寄せてアレフから距離を取った。


「お前は少々距離が近いな、俺にも抱かせろ」


そう言ってアレフは近づいてくる。


「お前は乱暴に扱うだろう!?」


「女は少々乱暴な方がいいと聞く」


「それは女の子によって違うだろ!」


近寄ってくるアレフから距離を取る度、彼に強く抱きしめられて移動する。


(……息が顔に当たって、彼の腕が、お腹に食い込む……)


力強く抱きしめられているのに、不思議と心地よかった。


そんな事をしていると、再び来客を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


「皇子!王国から使者が来ております!」


「先日来たばかりだというのに、よほど急を要するらしいな」


「仕方ない、すぐに支度をしよう」


「ティリス、おいで」


そう言って彼は手を差し出す。


「む、そいつの手を取るなら俺の手も取れ」


「どこで張り合っているんだ君は……」


私は二人に手を差し出され、迷いながらも両方の手を掴んだ。



どちらを選ぶか、ここで決めることはできないけど、この時の私は少なくとも、幸せだった――



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