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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

キタさんとミタオくん 4

作者: 灯月 寧
掲載日:2026/02/17

冬の終わりの風が、川沿いの部屋のすき間から細く入ってきます。

天日干ししていた上着が、ゆっくり揺れていました。


ミタオくんはそれを取り込もうとして、ポケットから少し見えてる白い紙に気づきます。


「ん?」


出てきたのは小さなレシート。

飲み屋の名前と、三人分の金額。


「……三人?」


テーブルの上に置いたところで、ちょうどドアが開きました。


「ただいま」


キタさんが帰ってきました。



「キタさん、これ落ちた」


「あ、ありがとうございます……あー……それですか」


声が少しだけ、間延びしました。


「飲みに行った?」


「はい。先週の土曜日です。会社の人とです」


「三人?」


「はい。三人です」


キタさんはコートをたたみながら、観念したようにうなずきました。


「男性一人、女性一人、私です」



やかんを火にかけてから、キタさんはきちんと座りました。

こういう時は、姿勢を正します。


「忘年会の時に、その女性が私を気に入ったらしくてですね」


「へえ」


「私の友人の男性に頼んで、場を作ったそうです」


「なるほど」


「計画的です。段取りが良いです」


褒めているのかどうか、よく分かりません。



「どんな人?」


ミタオくんが聞くと、キタさんは少し考えました。


「身長は160センチくらいで、細身でした。金髪のロングヘアです」


「うん」


「そして、とても立派でした」


「何が?」


「胸部です」


「……正直だなあ」


「事実は正確に伝えます」



店では、にぎやかな雰囲気だったそうです。


「その方、豚串を頼みまして」


「うん」


「半分、こちらに“あーん”をしてきました」


ミタオくんが吹き出します。


「キタさん、どうしたの」


「食べました」


「食べたんだ」


「食べ物は無駄にしません」


少し間を置いてから、


「あと、少しときめきました。油断しました」


と付け加えました。



「LINEは?」


「聞かれました」


「交換した?」


「していません」


即答でした。


やかんが鳴ります。

火を止めてから、続けました。


「見た目は、とても好みでした」


「へえ」


「ですが、価値観が合わないと思いました」



湯のみを二つ置きます。


「派手な方でして。楽しい人でしたが……」


「うん」


「半額の総菜で一緒に喜べる感じが、想像できませんでした」


ミタオくんは少し黙りました。


キタさんは続けます。


「電車の音とか、安いもやしとか、曲がったきゅうりとかで笑えない気がしました」


「具体的だなあ」


「生活は具体です」



ラジオから洋楽の最新ランキングが流れています。


キタさんは湯のみを両手で包みました。


「それに」


「それに?」


「比較対象が強すぎます」


「誰?」


「ミタオくんです」



「あなた以上に、同じことで笑えそうな人を知りません」


「そんな評価ある?」


「最高評価です」


「豚串あーんより?」


「総合点で勝っています」


「評価基準が独特だなあ」



外の川は暗く、街灯だけが細く揺れていました。

部屋は相変わらず寒く、相変わらず狭いままです。


キタさんは静かに言いました。


「もし黙っていたら不誠実です。なので全て白状しました。」


「ありがとう」


「こちらこそ」


「ちょっとドキッとしたけど」


「私もしました。豚串で」


二人とも笑いました。


やかんの残り湯のぬくもりだけが、

いつもより長く部屋に残っていました。

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