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世界の中心、花咲く神の塔 (改訂版)  作者: 名無しの戦士


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第八話 武器選び

 午前の筆記試験を受けた僕たち四班は興奮と緊張が入り交じった心境の中、指定された場所へ向かう。この一ヶ月、仲良くなった舞さんと並んで廊下を歩く僕に男子のドロリと濁った視線が集まる。


 才色兼備で面倒見が良く、誰に対しても細やかな気配りができる彼女は、文字通り男女を問わず絶大な人気を誇っていた。


 同居人の友彦君が仕入れてきた話によれば、華やかな美貌と慈愛に満ちた性格で常に注目を集める舞さんに、これまで告白した者は軽く二十人を超えるらしい。

 だからこそ彼女と毎日楽しげに話す僕の存在を、疎ましく思う者たちがいても不思議ではなかった。


 嫉妬に満ちた視線を感じながらも、僕は舞さんとの会話に集中することにした。彼女の温かい笑顔と鈴を転がす声が、周りの雑音を消し去る。


「確かここ…で間違いないよね?」


「うん、合ってるはず。昨日、桜木教官に念を押して確認したから」


 目的の建物の前で足を止め、不安げな表情の舞さんに確信を持って答える。その言葉を裏付けるように既に到着していた他の班の訓練生たちが、同じように困惑した面持ちで建物を見上げている。僕たちの到着に気づいた他の訓練生が視線を向けて、軽く会釈を交わしてきた。


 眼前に佇むのは、まさに時代が止まったような古びた蔵。重厚な木の扉には錆びついた南京鎖が下がり、周囲には伸び放題の雑草が生い茂っている。長年にわたって人手が入らなかったことを物語る、どこか物寂たる佇まい。


「印象深い倉庫だね…?」


「そうだね。お化け屋敷みたいけど」


「……純君は幽霊とか平気?」


 教官を待つ間、ポツリと漏れた「幽霊」の言葉に、はっと肩を震わせた舞さんは僕の顔に目を据えて、恐る恐る聞いてくる。いつもの余裕ある表情とはうって変わり、不安げで心もとない声色に驚きつつも、僕は優しく笑顔を向けることにした。

 決して彼女を怖がらせたくなかったから。おどおどとした舞さんもまた、いつもと違った可愛らしさがあったが、そんなこと告げたらきっと睨まれてしまうに違いない。


「う~ん、僕は平気かな?七階層には死霊系の魔物が出るって図書室で見たけど、対策方法は多岐にわたって存在するらしいから」


「えっ……そ、そうなの?じゃあ安心だね!…でも出来れば塔でも守ってね」


 怪物図鑑の内容を思い出しながら舞さんの不安を和らげる言葉を投げかける。彼女は微笑んで、少し安心した様に見えた。



「皆集まっているようですね。遅刻者もいないようで感心、感心」


 第四班が全員集合した時、桜木教官が現れ施錠した扉へ向かっていく。この一ヶ月で教官の本性が知れ渡った今、軽口を叩く者は存在せず訓練生たちは教官の指示に対して一層の緊張感を持つようになっていた。その加虐的な鞭を貰ったとある青年が気持ち良さげに頬を紅潮させた顔は、記憶に蓋して見なかった事にした。…将来の性癖が心配だ。


「さて、皆さんお待ちかねの武器選びです」


 教官の声が張り詃めた空気を切り裂く。


「これから蔵の中に入っていただきます。中には様々な稽古用武器が保管されていますが、今日の課題はその中から自分に合った一本を見つけ出すこと。直感で選ぶもよし、あらゆる角度から観察して選ぶのもよし、仲間と相談して編成に適した武器を選ぶのもよし、仮に選んだ武器がしっくり来なければ、後日変更することも可能です」


 教官の視線が訓練生一人ひとりをゆっくりと見渡す。


「ただし…制限時間内に必ず一つを選び抜くこと。以上!」


 説明を終わらせ、古びた鍵束を懐から取り出した桜木教官が一本の鍵を南京錠に差し込み、開錠した音を聞きながら、重厚な木の扉を開けた。ギギギィと軋む鈍い音を周囲に立てて開かれた扉の先には薄暗い空間が広がっており、埃臭い匂いが鼻腔を刺激する。


 僕たちが教官の動向を注視していると、彼女は衣嚢から懐中電灯を取り出し、壁の電源スイッチを押すと室内の様子が明らかになる。


 教官の後に続いて中へ入る。蔵の内部は埃っぽい空気で満たされて、そこは予想より広い空間が広がっていた。部屋の中央には机が等間隔に並べられており、薄暗い照明が木箱に積まれた様々な武器の影が映し出している。


 古びた木の棚には日本刀や槍といった定番の物から西洋の両刃剣、盾、弓や棍棒、斧、戦槌などの武器類が所狭しと並べられていた。


 中に入った訓練生は思い思いに散開すると、目を引く武器へ近づいていく。僕も舞さんと身を寄せ合って、蔵の中央へ進み木箱に積まれた武器の山を物色していく。


「本当色々置いてあるね。どれを選べばいいのか迷うよ」


 おちゃらけた風に僕が言うと、舞さんも微笑んで「そうだね。やっぱり最初はコレだ!って思う武器を選んでみよう!」と答えた。


 数百を優に超える武器が保管された訓練場の蔵。どれもが将来の持ち主を待ちわびているように感じた。

 僕たちはそれぞれ武器を手に取り、重さやバランスを確かめながら歩いていく。すると舞さんが一振りの日本刀を手に取り、目を輝かせていた。


「見て、純君。模擬刀なのに、この波紋の美しさ」


「本当だ。美しい舞さんに似合いそうだ」


「っもう!そういうの止めてよ」


 同意した僕に彼女は照れくさそうに笑いながら、肩を軽く叩いた。僕は周りを見渡しながら定番の武器から珍しい武器が収納された木箱へと視線を移す。

 大陸から伝わる夫婦剣、扱いが困難な大鎌。半月刀、薙刀、鎖鎌、手甲鉤、旋棍、矛槍、三叉槍、鉄扇など普段なら目もくれない種類が雑に放り込まれていた。


 その中――僕の目に留まった六尺棒。見つけにくい隅に無造作にポツンと立てかけられたその棒は、他の武器に比べて地味な存在。しかし、不思議と何か惹かれるものを感じた。


「……これにしようかな」


 六尺棒を手に取ると、思いのほかしっくりと手に馴染んだ。見かけに寄らずしっかりとした重量感と絶妙な重心。まるで手の延長のように自然に扱える感触に、妙な心地よさを覚える。


「おいおいおい!マジでそれ選んだのかよ⁉その辺に転がってる棒切れじゃねえか!もしかしてビビっちまって塔に登るの諦めたのかぁ?」


 六尺棒を試している僕に横から、軽薄な声が浴びせられる。

 

 声の方に振り向くと訓練生の中でも態度が悪く粗暴で素行の悪い青年。彼の名は根川哲司、初日から舞さんに心底惚れており、彼女に近づく僕を快く思っておらず、ことあるごとに因縁をつけてくる問題児。根川は悪意のある笑みを浮かべ、僕の選んだ六尺棒を見下すように嘲笑した。


 彼の挑発にも動じず、僕は静かに言い放った。


「教官も言ってただろう、直感を信じろって。それに従ったまでさ」


「へぇ、戯言を本気で信じてるとか…キモッ。」


 僕の返答に対して根川は小馬鹿にした笑みを浮かべ、手に握った刀をチラつかせる。彼は自分の武器を自慢するように見せつけると、驚くことに前へ突き出す。


 黒光りする鞘が僕の目の前で止まり、根川は挑発的な笑みを浮かべたまま言った。


「じゃあ、訓練で証明してみろよ!お前の棒切れがどれだけ役に立つか、見ものだな!」


 好きなだけ言い放った彼は、わざと僕の肩をぶつけて蔵の出口へ向かった。彼が去った後、舞さんが心配そうに近づいてきた。


「大丈夫?言われ放題だっただけど…」


「うん、大丈夫だよ。ありがとう舞さん。寧ろ根川をぎゃふんと一発言わせたくて燃えてるよ!」


 微笑みながら六尺棒を肩に担ぐ。根川の挑発は正直言ってどうでも良かったが、結局前から僕を格下扱いしていることが気に食わない!いち早く塔を登りアイツを見返してやろうと決意する。


 その後、訓練生の武器選定が終わり、遂に本格的な訓練が始まった。

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