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ハミルトン伯爵家の四姉妹  作者: 宝月 蓮
スティーナ編

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8/10

1

 ハミルトン伯爵領にある、ハミルトン伯爵邸。

 ベッドからゆっくりと起き上がったスティーナは、自室の窓から外を眺めている。

 ハミルトン伯爵邸近くの野原で駆け回っている領地の子供達。

(羨ましいわ。(わたくし)も、あんな風に元気に駆け回りたい)

 スティーナはアクアマリンの目を伏せてため息をつく。


 昔から体が弱いスティーナは、外で駆け回ったことがない。

 貴族の令嬢として外を駆け回ることはあまり良いとはされていないが、三人の姉達は幼少期、ハミルトン伯爵邸の庭を駆け回っていた。

 しかしスティーナだけは、駆け回る三人をベッドの上から見ることしか出来ず寂しい思いをしていた。


(まあ、どう頑張っても(わたくし)には出来ないことよね)

 アクアマリンの目は、諦めに染まっていた。

 体が弱く、出来ないことが多いスティーナ。

 何かをしたいと思っても、体の弱さ(ゆえ)に諦めなければならなかった。

 そしてそのうち、諦めることに慣れてしまった。あきまやスティーナはきょとんと首を傾げる。

 現在スティーナは幼少期よりも体は丈夫になったものの、どこか弱々しかった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






「ウリカお姉様、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとう、スティーナ」

 成人(デビュタント)したばかりの姉、ウリカがクレイツ子爵令息フォルケと婚約が決まり、領地にいたスティーナにも報告に来たのだ。


 スティーナはまだ十三歳で、成人(デビュタント)していない。よって、セドウェン王国の社交界シーズンには王都へ行かず、領地にあるハミルトン伯爵邸に残っているのだ。


「もうフォルケ様と婚約するに当たって色々あったのよ」

 ウリカは自分のとフォルケの間にあったことを話してくれた。

 スティーナには想像出来ないくらい、色々とドラマチックな展開だったのだ。

「とても目まぐるしい日々でしたわね、ウリカお姉様」

 スティーナは穏やかにニコリと微笑み、ウリカの話を聞いていた。

 それと同時に、やはり少し羨ましいなとも思うスティーナである。

(でも(わたくし)は体が丈夫ではないわ。いずれ素敵な結婚をしてみたいと思ったけれど、きっと(わたくし)には関係のないことよね)

 スティーナは内心ため息をついた。


 その時、スティーナの部屋の扉がノックされる。

「スティーナお嬢様、ヒェルタ子爵家のアルヴィド様がいらしております」

 扉の外からの使用人の声に、スティーナは少しだけアクアマリンの目を輝かせた。

「あら、アルヴィド様、またスティーナに会いにいらしたのかしら?」

 ウリカは悪戯っぽくニヤリと笑った。

「……きっとアルヴィド様は、病弱な(わたくし)に同情してくださっているだけですわよ」

 スティーナは期待し過ぎないようにしていた。

「またそんなこと言っちゃって。まあ、邪魔者は退出するから、アルヴィド様とお話したらどうかしら?」

 ウリカはそう言い、スティーナの部屋を後にしたのである。


「スティーナ嬢、こんにちは」

 ウリカと入れ替わりで部屋に入って来たのは、ヒェルタ子爵家長男アルヴィド・ニルス・フォン・ヒェルタ。

 スティーナよりも一つ年上の十四歳で、スティーナの幼馴染だ。

 ハミルトン伯爵領とヒェルタ子爵領は隣接しており、こうしてアルヴィドがスティーナを訪ねてくることが幼少期から多々あった。

 アルヴィドはストロベリーブロンドの髪にアメジストのような紫の目で、凛々しい顔立ちをしている。

 アルヴィドもスティーナと同じく、まだ社交界デビューはしていない。


「アルヴィド様、また来てくださったのね」

「うん。また面白い本を持って来たんだ」

 アルヴィドはアメジストの目を優しく細める。

 スティーナはそんなアルヴィドに、少しだけ胸をときめかせていた。

 アルヴィドはいつもスティーナの為に本を持って来てくれたり、面白い話をしてくれる。

 体が弱く、色々なことを諦めていたスティーナだが、アルヴィドとの時間だけは少しだけ楽しみにしていたのだ。

読んでくださりありがとうございます!

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