召喚魔術とパラドックス
あなたは、悪魔を信じますか?
辛くて、寂しくて、辛くて、憎しみ、恨み、不安、そんなありふれた負の感情は、あなたにとってとても大切な、そしてなくてもいい感情かもしれません。
我慢できなくなったら呼べばいい。
私は、よく父に図書館へ連れてこられていた。
街中にあるとても大きな図書館で、日当たりのいい窓辺、キレイな木目のテーブル、ロッキングチェアなんて置いてある。
とても雰囲気のいいところで、外では小鳥が鳴いていて、おはようって言ってくれてる。
そんな少しの間だけお姫様気分になれるそんな場所だった。
毎日ここに来て、同じ場所。
不便は、友達がいないことぐらいだったかな。
父は、お家にいるとお酒を飲んで私を傷つける。
私のせいで母が亡くなってから、寂しいのかもしれない。
私を放っておけないらしくて学校にはいけていない。
でもたくさんの本に囲まれて勉強だって出来るし、司書の人達もみんな優しい。
〝ハナちゃん〟なんて言われて、全然寂しくなかった。
なんてね。
朝はお勉強をしてお昼には、隣接しているカフェでサンドイッチを食べる。
具材は、いつもと同じトマトとチーズが入っている。
トマトとチーズがなぜ合うのか、私は常々考えていた。
トマトの酸味とチーズのまろやかさ…だけじゃない。
トマトの色やプチっと弾ける様な食感から、
全てを包み込むチーズと牛乳くささがとても、好みじゃありませんでした。
今日も、おいしくいただきました。
お金は、いりません。
全て父が払ってくれてるので。
食後にダルマイヤーのコーヒーを飲んで一息ついたら、いつもの場所に戻った。
昼食が終わったら本を読む。
今日は、冒険したくて自分より少しだけ背の高い本棚に行った。
設置されたハシゴをせっせと押してスライドさせると、少しだけいい運動になる。
本は、左から右に上から下に50音順に並べてあって誰にでもわかりやすくなっている。
時間もあるし今日は、ゆっくり調べようかな。
タイトルと内容と、表紙だったりとか好みがあるけども、私はなぜか本にオーラみたいなものが昔から見えていた。
本をいっぱい読んだからかもしれない。
中盤にとても目を引く本があった。
吸い込まれるように黒くてピカピカ。
メフィストファレスと書かれたその本は、とある魔術師の話しが書かれていた。
16世紀にいた、黒魔術師?の話しだった。
彼は、とってもすごい人で全てを手に入れたとかで魂をとられたとか。
中盤まで読み終えると魔術の仕方が書かれていた。
とても簡単ですぐにできそうでとても興味の惹く内容だった。
結局あれは、最後まで読まなかったな。
何が書いてあったんだろう。
準備するものは、私の血と簡単な呪文、それと小鳥の死骸。
図書館の周りは、小鳥が多いのでとてもよかった。
それとよくわからないものは、それらしいもので補った。
父に嘘をついて私は、図書館に残った。
あとで、罰は受けようと思う。
図書館が閉まる間に必要なものを準備して、
誰もいない夕刻静まり返った時に私は、それを行った。
大きな器に、特定の物を入れて…。
呪文は、非常に簡単なものでカタコトなのか、上手く言えているのかわからなかった。
静寂のなか、私の呼吸音だけが聞こえていた。
器の中がぐつぐつと沸騰して煙をあげ始めたと思った瞬間に光がまたたいた。
黒い何かが私の前に立っていた。
いや、浮いていた。
「こりゃたまげた。まだお嬢ちゃんじゃないか。」
黒い怪物だったものが、人間に姿を変えて喋りだした。
「まぁ、いい。知識か富か永遠か、はたまたこの世の真理でも知りたいのかい?望めばいい。」
すらりと伸びた背筋は、どこかの貴族みたいだった。
「私は、あの日に帰りたい。」
「なぜ、それを望む。その過ちを受け入れ進んで行くのが人間じゃないのかい?」
そんなの誰かが言った偽善でしかない。
それに耐えられない人がいる。
「願っても頼んでも叶えられるものなんかじゃない。神様や人みたいな、ただ聞くだけ存在になんてなおさら。」
だったらそれ以外のものに、すがったって、ねだったっていいじゃない。
みんなに合わせたあんな人達には、なりたくなかった。
私は、いつも同じ場所に居るのが嫌だった。
いつも同じものを食べるが嫌だった。
ハナちゃんなんて勝手に呼ばないでほしかった。
本を読むのが嫌いだった。
苦痛だった。
この毎日が辛かった。
自分が不幸だ、なんて感じることが不快で怖くてとても寂しかった。
「そりゃそうだ。神様なんているかもわからねぇもんだしな。」
「でもよぉ。お嬢ちゃん、勘違いしねぇでほしい。お前は、願っても頼んでもいねぇ。
望んだんだ。」
「わかってる。」
私は、ただそう言って祈るように望んだ。
「俺は、あくまで事象を変えるだけだ。
あくまでな。」
ふっと目の前が暗くなった。
母がそこにはいた。
横断歩道を歩く前、信号が青になる。
私はしっかりと立ち止まった。
母の顔を見て優しく暖かいようなその笑顔に涙が込み上げてきた。
「どうして泣いているの?」
頑張ったよ。と私は言った。
首を傾げて私の頭を撫でるその手は、とてもあったかくて、ただそれだけの為に生きてきた様なそんな感じがした。
それからは、平穏な母がいて父がいて、とても幸せな日々だった。
三人で飲むダルマイヤーのコーヒーは、ため息の出るくらい幸せのひとときだった。
そいえば、契約内容はなんだったかな。
でもあれって未来のお話しなんだよね。
私が、あと何年生きられるかなんて誰にも証明できない。
悪魔にでもね。
この物語は、すべてフィクションです。