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第九話 それぞれの未来

 数日後、帝都(ていと)|大学の学食は、いつもの喧噪に包まれていた。その喧噪は、日常の風景を形作っていた。霧島(きりしま)(れい)は、白米と味噌汁を前に、深い思考に沈んでいた。彼の細身の体は、椅子に深く沈み込んでいた。


「玲さん!」


 明るい声が、玲の耳に届く。その声は、玲の思考を中断させた。振り向くと、そこには星名(ほしな)(つむぎ)の姿があった。彼女の表情には、以前のような明るさが戻っていたが、その目の奥には、まだ悲しみの影が残っているようだった。


「紬さん、どうしたんだ?」

「あの、この間は本当にありがとうございました」


 紬は深々と頭を下げた。その仕草に、玲は少し戸惑いを覚えた。彼の切れ長の目に、困惑の色が浮かぶ。


「いえ、僕も力になれてよかったよ」


 玲は微笑む。しかし、その笑顔の裏には、まだ事件の影が残っていた。


「ところで、紬さんはこれから、どんな料理を作りたいと思ってるんだ?」


 玲の質問に、紬は少し考え込んだ。彼女の大きな瞳が、何かを見つめるように遠くを見た。そして、決意に満ちた表情で答えた。


「たくさんの人に笑顔を届けられるような、そんな料理を作りたいです」


 彼女の瞳は、力強く輝いていた。その言葉に、玲は深く頷いた。


 *


 玲は帝都(ていと)|大学の構内を歩きながら、今回の事件を振り返っていた。彼は自分の味覚を信じて行動し、そしてそれが真実へと繋がった。しかし同時に、その才能がもたらす責任の重さも感じていた。その重さは、彼の肩にのしかかっていた。


 玲はこれからも、自分の道を進んでいこうと決意した。しかし、その道は決して単純なものではないだろう。味の真髄を追求しつつ、人としての倫理を守る。その難しいバランスを保つことが、彼の使命なのかもしれない。


 *


 夜、夜久(やぐ)(とおる)の研究室。夜久は、伽羅(きゃら)から持ち帰った赤い粉末を分析していた。顕微鏡を覗き込む彼の表情は、真剣そのものだった。


 粉末は、古来より伝わる秘伝のスパイスであり、人間の精神に影響を与える力を持つことが判明した。その力は、使い方次第で祝福にも呪いにもなり得る。


 夜久はその力に畏敬の念を抱きつつも、さらなる研究を進める決意を固め、その目には、新たな可能性への期待が宿っていた。


「いつか、このスパイスを使って、人々を本当に幸せにできる料理を作りたい」


 そう呟くと、夜久は静かに目を閉じた。彼の心の中で、新たな研究への情熱が燃え上がっていた。


 玲のスーパーテイスター、紬の料理への情熱、そして夜久の研究。三人三様の道が、これからどのように交差し、どんな未来を織り成すのか。それは誰にもわからない。


 しかし、確かなことがひとつあった。彼らはそれぞれの方法で、「味」という人間の根源的な喜びを追求し続けるということだ。その探求の旅は、時に危険を伴うかもしれない。だが、それでも彼らは歩みを止めないだろう。


 *



 街を歩く星名(ほしな)(つむぎ)。喧騒の中で彼女はボソリと呟いた。


「人骨カレーおいしいのにな」


 カレーの香りが漂う街の片隅で、新たな危機の種が、静かに芽吹いていた。



 =了=

最後まで読んでいただきありがとうございます。


よろしければブクマとか星まーくとかぽちっとしていただけると作者が泣いて喜びます!!

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