第七話 三つ巴の対決
深夜、伽羅の店内。異形の怪物と化した中村店主の唸り声が、耳をつんざく凄まじさで響き渡っていた。霧島玲、星名紬、そして夜久透の三人は、背中合わせで立ち、怪物を警戒していた。月明かりが窓から差し込み、店内に不気味な影を作り出していた。
紬の顔は青ざめ、全身が震えていた。しかし、彼女は震える声で店主に呼びかけた。
「中村さん! お願いです、正気に戻ってください!」
紬が一歩前に踏み出すと、玲は彼女を引き留めようとした。しかし、夜久が静かに首を振って制した。
「私、中村さんのカレーが本当に大好きなんです。だから、こんなことは……」
紬の声には、恐怖と悲しみ、そして懇願の色が混ざっていた。怪物は一瞬動きを止めたが、すぐに再び唸り声を上げた。
夜久は冷静に状況を見極めていた。彼の手には、赤い粉の入った小瓶が握られている。
「玲君、」
夜久が問いかけた。
「この粉について、何か気づいたことはないか?」
玲は必死に記憶を辿った。そして、数日前に見た都市伝説のウェブサイトの内容を思い出した。
「夜久先生、都市伝説ってサイトで見たんです。伝説のカレー店では、秘伝の赤いスパイスを使用しているって。その粉は特殊な模様の描かれた小瓶に入っているはずです」
夜久はすぐさま行動を起こした。
「厨房を調べてくる」
夜久が厨房に向かう間、玲と紬は怪物の注意を引きつけていた。怪物は混乱した様子で、三人の動きを追いかけていた。
数分後、夜久が戻ってきた。彼の手には、確かに奇妙な模様の描かれた小瓶が握られていた。
「これが、全ての始まりであり、終わりになるかもしれない」
夜久は静かに言った。
その言葉に、玲と紬は息を呑んだ。怪物は再び唸り声を上げ、三人に襲いかかろうとしていた。
夜久は決然とした表情で瓶を掲げた。
「さあ、真実の時だ」
その瞬間、夜久は瓶を怪物に向かって力強く投げつけた。ガラスの割れる鋭い音が店内に響き渡る。瓶は怪物の顔面で粉々に砕け散った。
赤い粉がに空中に舞い上がり、煙のように広がっていく。その粉は、まるで意思を持つかのように怪物を包み込んでいった。
玲と紬は息を呑み、固唾を飲んでその光景を見守った。怪物の姿が赤い粉の中に消えていく。
伽羅の店内に、緊張が満ちていた。この瞬間、三人の運命が大きく変わろうとしていた。赤い粉が晴れたとき、そこに何が現れるのか――。