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第六話 赤い粉の秘密

 赤い粉末が舞い上がり、伽羅(きゃら)の店主の周りを取り巻いた。その瞬間、店主の体が激しく痙攣し始めた。彼の肉付きのいい体が、内側から引き裂かれるように震える。


「うぐっ……うあああああ!」


 店主の悲鳴は、耳を劈くほど凄まじかった。その声は、異常な轟音となって響いた。霧島(きりしま)(れい)は、恐怖で足が地面に釘付けになったかのように動けなかった。


 店主の体が、急速に変貌していく。皮膚が爛れ、骨が変形し、異様な姿へと為り変る。店主の肉が溶け、骨が露出し、そして再び新たな肉が盛り上がる。その過程が、玲の目の前で繰り返される。


 玲の目の前で、店主は人間の姿を失っていった。そこにいたのは、もはや人間ではなく、異形の怪物だった。その姿は、人と獣の中間のような、得体の知れないものだった。赤く光る目、茶色い乱杭歯、そして人の手とも爪ともつかない鉤爪。


「ぎゃあああああ!」


 玲は思わず絶叫した。その声は、恐怖の極みを表現するように、部屋中に響き渡った。玲の喉から絞り出されたその叫び声は、悲痛なものだった。


 怪物と化した店主は、ゆっくりと玲の方を向いた。その目は、狂気と飢餓感に満ちていた。口からは、粘つくよだれが垂れ、床に落ちて焦げ付くような音を立てる。


 玲は、体の自由を取り戻し、厨房を飛び出した。背後では、怪物の唸り声が追いすがる。その足音は、玲の背中を打った。


 店内を必死で走り抜ける玲。しかし、怪物は執拗に追いかけてくる。玲の息は上がり、肺が破裂しそうなほどだった。


 出口へと続く扉が目の前に見えた。玲は最後の力を振り絞って走った。彼の細身の体は限界を超えて動いていた。額には大粒の汗が浮かび、シャツは背中に張り付いていた。


 その時、扉が開いた。


「玲さん!」


 星名(ほしな)(つむぎ)の声だった。彼女の長い黒髪が、夜風に揺れている。彼女の隣には、夜久(やぐ)(とおる)の姿があった。夜久の眼鏡の奥の目は、いつもの穏やかさを失い、鋭い光を放っていた。


 玲は一瞬安堵したが、すぐに恐怖が襲ってきた。このままでは、紬と夜久まで危険に巻き込んでしまう。玲の顔は蒼白で、目は恐怖で見開かれていた。


「逃げて! 店主が、怪物に……」


 玲の言葉が終わらないうちに、怪物の姿が紬と夜久の目に入った。紬は悲鳴を上げ、夜久は厳しい表情で状況を見極めていた。紬の大きな瞳には、純粋な恐怖が浮かんでいた。


 三人は、怪物と化した店主を前に、絶体絶命のピンチに陥った。店の入り口には、月明かりに照らされた怪物の影が不気味に伸びている。


 夜久は、懐から小さな瓶を取り出した。その中には、先ほどの赤い粉と同じようなものが入っている。瓶の中の粉は、微かに動いているように見えた。


「これが、最後の手段だ」


 夜久の声には、決意が満ちていた。


 玲は、すべての謎が繋がり始めたのを感じた。夜久の都市伝説への造詣、伽羅(きゃら)の不可解な人気、そして赤い粉の正体――。全ては、この瞬間のために用意されていたのかもしれない。玲の頭の中で、パズルのピースが恐ろしい全体像を形作っていく。


 怪物の唸り声が近づく中、玲たち三人の運命の歯車が、大きく動き始めようとしていた。

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