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第三話 不吉なうわさ

 夜久(やぐ)(とおる)の言葉が、霧島(きりしま)(れい)の脳裏に刻まれていた。「近いうちに、わかるよ」――その謎めいた言葉の裏に隠された真意を、玲は掴み取ろうとしていた。その言葉は、玲の心に深く食い込み、彼を苦しめ続けていた。


 夜久について調べてみると、彼が都市伝説やオカルトに詳しいといううわさを耳にした。玲の心の中で、夜久の存在が新たな謎として浮かび上がる。


 *


 玲は大学の図書館に足を運んだ。薄暗い館内は、知識の重みと時間の堆積を感じさせる独特の空気に満ちている。書架が林立する様子は、迷宮のようだ。玲の足音が、静寂を裂いて響く。


 書架の間を縫うように歩きながら、玲は伽羅(きゃら)に関する資料を探した。彼の指先は、埃を被った古い新聞を撫でる。その感触は、冷たくざらついていた。古びた新聞の切り抜きや地域の歴史書を紐解くうちに、彼の表情が徐々に曇っていく。その顔は、血の気を失っていった。


 伽羅(きゃら)が開店して以来、周辺で行方不明事件が多発していることが明らかになったのだ。玲の指先が、資料のページをめくる度に震えていた。その震えは、恐怖に支配された彼の内面を表していた。


「これは、偶然じゃない」


 玲は呟いた。その言葉が、静寂な図書館の空気を染めた。


 *


 日が落ちる頃、玲はインターネットカフェに足を運んだ。暗い照明の中、青白い光を放つモニターに向かい、さらなる情報を求めた。狭い個室は、玲の不安を増幅させた。


 キーボードを叩く音が、玲の焦燥感と共に激しさを増していく。その音は玲の背後に迫っていた。そして、ついに彼は恐ろしい情報にたどり着いた。


 ――――人骨を煮込むと独特の旨味成分が出るという記述。


 玲の脳裏に、伽羅(きゃら)のカレーの「違和感」と行方不明事件が結びついた。スーパーテイスターだから分かった違和感。彼の顔から血の気が引いていく。その顔は、生気を失ったように蒼白だった。


「まさか……」


 玲は恐怖に震えた。伽羅(きゃら)のカレーは、もしかしたら人骨で出汁をとっているのではないか――。


 そんな恐ろしい仮説が、玲の頭を支配した。彼の心臓は、胸郭を破って飛び出しそうなほど激しく鼓動を打っていた。その音が、耳鳴りのように彼の意識を埋め尽くす。


 *


 玲は深夜、伽羅(きゃら)の前に立っていた。閉店後の店は、不気味な沈黙に包まれている。街灯の光が、店のガラス窓に不気味な影を落としていた。しかし、店の奥からは、かすかに不気味な音が聞こえてくる。


 それは、大鍋で何かを煮込む音のようだった。その音は、人間の骨が溶けていく音にも聞こえた。


 玲は、緊張で手が震えながら携帯電話を取り出した。画面には、夜久の連絡先が表示されている。玲は一瞬躊躇したが、事態の重大さを考え、深呼吸をして決意を固めた。そして、緊張しながらも通話ボタンを押した。


「もしもし、夜久先生ですか? 僕は……ある仮説にたどり着きました」


 玲の声は震えていた。緊張と恐怖で、彼の声は普段より高く、力なく聞こえた。対照的に、電話の向こうから聞こえる夜久の声は落ち着いていた。


「わかっていたよ、玲君。君なら、真相に近づけると思っていた」


 その言葉に、玲は戸惑いを覚えた。夜久は、すべてを知っていたのだろうか? その可能性が、さらなる恐怖を玲の心に植え付けた。


 玲は意を決して、伽羅(きゃら)の店内に侵入した。闇の中に潜む真実を、この目で確かめるために――。


 しかし、玲は知らなかった。彼が踏み込もうとしているのは、想像を絶する恐怖の世界だということを。その世界は、玲の理性を奪い、彼を狂気の淵に追いやるだろう。


 玲の足が店内に踏み入れた瞬間、彼の運命の歯車が大きく回り始めた。その音は、骨が砕ける音のように不気味に響いた。

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