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第12話 調査訪問

 その後すぐには動けず、星空を見上げながらボーッと時間が過ぎていった。祭りの喧騒が静まり出した頃、私はアシェルト様を起こし、何事もなかったかのように二人で家路に着いた。


 ラシャ様の名を呼ぶアシェルト様の声は忘れてしまおう。

 小さな箱のなかにこの想いは閉じ込めるのよ。そうしないと私が前に進めなくなってしまう。私が止まる訳にはいかない。アシェルト様に前に進んで欲しいのなら、私自身が無理矢理にでも前に進まないと。


 きっとこうやって箱にしまう気持ちはこれからもきっとある。

 こうやって閉じ込めて、やり過ごして、前へと進んで……そしていつかこの箱に想いを閉じ込める必要がなくなる日がきっとやってくると信じて……私は頑張るしかないのよ。


 その後、私はアシェルト様との研究も進めつつ、その合間を縫って魔導師団へと赴いた。

 アシェルト様に魔導師団訪問の話をすると、やはり賛成はしないけど、といった複雑そうな顔ではあったが、溜め息を吐きながらも送り出してくれた。


 王城にある魔導師団へと向かうと、まずはバルト団長へと声をかけに行く。

 いつものごとく団長室の扉を叩き、バルト団長に挨拶すると魔導師団の皆に話を聞く許可をいただく。


「あの、しばらくは毎日通いたいのですが良いですか?」

「毎日か、ならば時間を決めておいてくれ。その時間はノアを仕事から外すから同行させるように」


 毎日ノアに同行してもらうのは申し訳ないなぁ、と少したじろぐと、バルト団長は苦笑した。


「ノアに悪いと思っているのなら無駄だぞ? 逆に呼ばないと怒るだろ、あいつは」


 アハハ、と笑いながら言ったバルト団長。うーん、ノアは私とアシェルト様のあのやり取りを見ているからか、やたら心配してくれているしね……確かになにも言わずに私がひとりで行動したら怒られそうだし……。


「とりあえずノアを呼び出すか」


 そう言ってバルト団長はおもむろに小さな紙を取り出した。


 あ、これ、連絡用の魔導符。

 魔法陣が描かれた小さな紙。連絡を取りたい相手を思い浮かべ魔力を送ると、相手の元へと魔導符が転送されるのよね。


 魔法陣と共に送る側の印が記されてあるから、誰から連絡が来たのかが分かる。呼び出せるだけなので比較的簡単な魔法だ。私でも使える。ただ相手を呼び出すなんてことは、私のような下っ端が出来る訳もないので、使ったことはない。


 緊急的に伝えたい内容がある場合の魔法はもう少し高度になるため、使える人が限られてくる。私やノアもこの魔法自体は学園でも習ったので使えるのだが、それなりに魔力消費量が多いため、こちらも使うことはまずないだろう。


 バルト団長は魔導符に魔力を送ると、魔導符は青白く光り、バルト団長の手から離れ浮いた。そしてまるで炎で燃え落ちていくかのように、青白い光は広がり魔導符が跡形もなく消えた。

 この魔導符は消えたと同時に相手の目の前に消えたときと同様に、まるで炎が広がるかのように青白い光が魔導符を形作っていくのだ。

 おそらく今頃ノアの目の前に出現しているのだろう。


 そしてバルト団長と今後の相談をしていると団長室の扉を叩く音がする。


「団長、ノアです」

「入れ」


 ガチャリと扉が開かれ「失礼します」という言葉と共にノアが現れた。


「あれ、ルフィル?」


 団長室へと足を踏み入れたノアは、応接椅子に座るバルト団長に視線を送ったあと、私に気付き声を上げた。

 そしてすぐさま事情を察したのか、「あぁ」と小さく声を上げたかと思うと、歩を進め、応接椅子の横で立ち止まった。


「ルフィルの魔導師団訪問の件ですね?」


 ノアは応接椅子の横に立ち、後ろ手に直立すると、バルト団長に向かい声をかけた。


「ハハ、話が早い。そうだ、ルフィルが魔導師団の皆から話を聞きたいと言っていた件だが、どうやらしばらく毎日来たいらしいのだ。お前の都合のいい時間で合わせたほうがいいと思ってな」

「毎日……」


 チラリとノアは私を見た。


「フッ、良かったな」


 バルト団長がなにやらニヤッとしながら言った。

 ん? 良かった? なんで? ノアからしたら迷惑なだけ……いや、仕事を休めるから? 息抜きにはなるのかしら?


「ちょっ!!」


 ノアが急に大声を上げたため、驚き顔を見上げた。横に立つノアとバチッと目が合うと、ノアはガバッと顔を逸らす。


「ちょっと! 顔逸らすとか失礼ね」


 ノアに文句を言おうと顔を覗き込むため前のめりになると、ノアはさらに顔を逸らしてしまった。


「ブフッ、アッハッハッ」


 バルト団長が盛大に噴き出したため、私の視線はノアから外れ、バルト団長に向いた。


「団長……」


 ノアがやたら低い声でジト目になりながらバルト団長を見ていた。

 バルト団長は必死に笑いを堪えようとしているが、目に涙すら溜めている。

 な、なんなのよ。


「あー、すまん。んん、あー、えーっと、そうそう、ノアの都合のいい時間だよ」


 ノアはブツブツとなにやら文句を言いながらも、自身の仕事の予定を思い出していた。


「今のところ遠征等の外部へ出る予定もありませんし。午後の数時間は訓練をしているだけなので、その時間ならどうですか?」

「そうだな。ルフィルの都合はどうだ?」


 ノアとバルト団長が目を合わせ、ノアの予定を思い出しつつ、バルト団長が顎に手をやり頷いた。そして私に視線を寄越すと聞く。


「私はそれで大丈夫です」

「うん、なら、その時間でノアと合流するように。第一の隊長には俺から伝えておく」

「ありがとうございます」


 ノアに目をやると、先程顔を逸らしたことは忘れているのか、目が合うとニッと笑った。

 なんだかまたしてもバルト団長がニヤニヤとしている気がしたけど……ま、いっか。


 そしてノアの訓練時間の半分を私に割り当ててもらい、毎日訪問することとなった。


「なんかごめんね? 巻き込んじゃって」

「気にするな。俺が自分から言い出したことなんだから」


 ノアはそう言いながら、頭にポンと手を置いてワシワシと撫でた。


「うん、ありがとう」

「早速向かうか?」

「そうだね」



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