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68 俺と花火大会(3)


色々な花火が上がり、空をカラフルに染め上げていく。小春の隣で空を見上げ同じ花火を見て感嘆の声が出る。スマホのバイブは鳴り続いていたけど、確認するつもりはなかった。


「本当はみんなで花火見たかったのに。ごめんね。」


花火を見上げる目は切なかった。まだ自分を責めているんだと分かった。正直今回の事は誰のせいでもないし、こんな人混みじゃはぐれるのも無理はないと思う。


「まぁ、そんな時もあるよな。俺は小春と一緒に見れて、よかったって……思ってるけどな。」

「ふふ、私も。1人じゃなくて安心した。」


少しだけ意味を込めて伝えた言葉もあまり伝わっていなかった。やっぱり猫宮ぐらいストレートに気持ちを言葉にしないと伝わらないのか。そう思うが、言葉にしようとしてもどう伝えていいのか分からない。そのままの気持ちを伝えるなら今しかない。


「ーーきだ。」


心臓の音か花火の音か分からない。ドンドンと大きな音以外聞こえない。囁くようにやっと言えた言葉は小春に届いていなくて、俺はもう一度言葉にしてみる。


「好きだーー」


はっきりと大きな声で言えた。しかしそのタイミングで今日一番大きな花火が打ち上がり、周りの歓声にかき消されてしまった。自分のタイミングの悪さに嫌気がさす。やっぱりこの気持ちを伝えるのは今度にしよう。伝わらなかったけど、初めて自分の気持ちを口に出して言ってみて分かった。もし拒絶されたら、俺は2度と小春と一緒に居られないかもしれない。そう思うと怖くなった。


「何が?」

「えっ。」


花火に集中していたと思ってた小春が急にこっちを振り返って、俺の顔を覗き込んで聞いてきた。聞こえていないと思って油断した所だったから、つい誤魔化してしまう。


「あー、花火!俺花火好きだなって!」

「私も好きだよ。」


一瞬俺の好きに答えてくれたみたいに聞こえて、一気に顔に熱が昇った。小春はまた花火を見上げて続ける。


「花火って、一緒に見る人で感想変わるっていうよね。今日颯太と一緒に見れてよかった。」

「俺もこはーー」

「猫宮くんと見たら、どんな風に見えたんだろう……。」


俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。そうだよな、今の小春の彼氏は猫宮だ。一緒に見たかったはずだよな。今日だって、あいつのためにオシャレして、一緒に歩く祭りを楽しみにしていたはずだ。そう思うとどうしようもなく悔しくなった。絶対俺の方が先に小春を好きだったのに。


花火が終わり見ていた人々が散り始めた。


「そろそろ猫宮くん達と合流できるかな?」

「そうだな。」


俺達は道の端にあったベンチに座って猫宮と里奈が通るのを待った。大体の場所を連絡したからそのうち向こうから俺らを見つけてくれるはずだ。隣に座る浴衣姿の小春を見て俺は言った。


「小春、今日の浴衣すごく似合ってる。」

「え、急にどうしたの颯太!いつもそんな事言わないじゃん!」


駅で見た時から思っていた。今日の浴衣はとても似合ってて可愛かった。猫宮と里奈の前でそれを口にする勇気もなくて、別に言わなくてもいいだろうと思っていた。だけど、猫宮に綺麗だと言われて照れながら喜んでいた小春を見ると、先に言えば良かったと後悔した。


「ありがとう、颯太もその浴衣すごく似合ってるよ。」


猫宮が言った時はあんなに照れていたのに、俺が言ってもなんともない感じで返されて少しショックだった。俺の言葉では小春の気持ちは動かせないって事に気付かされたような気がした。


今になって鼻緒で擦れた足がまたジンジンと痛み出す。足が痛いのか心が痛いのか、考えるのも疲れてしまった。


「颯太?」

「ちょっと疲れた。」

「えぇ、大丈夫っ!?」


はぁ、と大きなため息をついて膝に肘をおいて項垂れる。具合が悪いのかと勘違いして俺の背中に手を回し、さすってくれる小春の優しさにずるいとは思いつつ甘えてしまう。構ってちゃんかよ俺は。


「何か飲み物買ってくる?」

「何もいらない。傍にいて欲しい。」

「分かった。」


弱ったフリをしないと素直に気持ちも伝えられない。背中をさすり続けている小春の手が優しくて涙が出そうになった。俺はそれを隠すために下を向いて前髪で顔を隠す。


「私を見つけてくれてありがとね。」


ゆっくりなだめるように俺に声をかけてくれる小春。そんなのーー


「あたりまえじゃん。どこに居ても見つけるって言ったろ。」

「あーー。」


今思い出しましたみたいな顔をしてる小春に思わず笑ってしまう。こいつはなんで俺との思い出をなんでも忘れてしまうんだろう。小春との思い出は大体覚えている。それは俺が小春の事をずっと想ってるからなんだけど。


「あの時は、お世話になりました。」

「覚えてるの俺だけかよ。あんなに苦労して探したのに。」

「ごめんって!小さい頃の思い出って、あんま覚えてなくて……。」

「別にいいけど。」


こうやって何気ない会話をしている時が幸せだった。小春が隣で笑ってくれるだけでよかったのに。小春の顔を見つめていると、不思議そうに聞いてくる。


「私の顔に何かついてる?」

「俺は全部覚えてるのに。」


あの時の約束もーー。


「ご、ごめんて!頑張って思い出すから!」


あれを思い出したら小春はどんな顔するんだろう。小さい頃の約束だから無効にしよう!とか言いそうだな。その時はちょっとぐらい俺を意識してくれたりするのかな。


「小春ちゃん!!!!」

「あ、猫宮くん!」

「こはるんごめん!私が勝手に動いたからあ!」


猫宮と里奈が俺達に小走りで近寄ってくる。小春はぱっと俺から離れて立ち上がり2人の方へゆっくり向かう。猫宮は我先にと小春に駆け寄り抱きしめる。そして小春越しに俺のことを睨みつけてきた。


「里奈本当ごめんっ!私のせいで……。」

「そんな事気にしないで!私が勝手にはぐれちゃったし……、それより猫宮くんと花火見れなくなっちゃって、ごめん……。」


俺もゆっくり立ち上がって3人が集まる所へ向かう。足は痛いけど、普通に歩けなくはない。だけど、小春は大丈夫なのかな。猫宮に抱きしめられたままの小春に声をかける。


「小春、歩けるか?またおぶってもいいんだぜ?」

「だ、大丈夫だよ!もう歩けるから!」

「それ、どういうこと?」


わざと猫宮の嫉妬を煽るような言い方をする。案の定猫宮は俺に厳しい視線を向けてくる。俺に出来る精一杯の対抗だった。猫宮の知らない時間を俺は小春と過ごして来たし、今日も小春を見つけたのは俺だった。


「鼻緒で靴擦れ起こしちゃって、颯太におんぶしてもらったの。」

「こはるん大丈夫なの!?うわぁ、痛そうじゃん!!バンドエイド持ってるよ!」

「ありがとう里奈。まだ痛いけど、ゆっくり歩けば我慢できるから!」


俺を睨みつけて一言も話さない猫宮に、小春は不安そうな顔をして見上げる。いつも涼しい顔をしている猫宮にも一泡吹かせた気持ちになれて清々しかった。猫宮が少しでも隙を見せるなら俺はいつでも小春をもらう。初めは小春が猫宮の事を好きならと、猫宮が小春の事を好きならと、思っていた。だけど、それだと今までの俺の気持ちはどうなる。ずっと一緒に居たのは俺だったのに。


猫宮の親父が言っていたように、俺は俺の気持ちを大切にする。小春の事は困らせない。だけど、猫宮の事は困らせてやる。


「小春ちゃん歩ける?痛かったら、次は『僕が』おぶって行くからね?」

「ゆっくり歩いてたら大丈夫だから。心配かけてごめんね?」


小春が猫宮の腕に捕まりながらゆっくり歩くのを後ろからついて行く。俺におぶってもらってた事がよほど嫌だったのか、猫宮は俺に警戒しているのが分かる。猫宮にぴったりくっついて歩く姿を見てモヤモヤしながら俺は後ろを歩く。そんな俺の隣には里奈が歩いてて、こっそり話かけてきた。


「ねえ、颯太?もしかして足痛い?」

「よく分かったな?実は靴擦れしてて……。」


気づかれないように歩いていたつもりだったけど、さすがマネージャー。里奈はこう言う細かい所によく気づいてくれて、マネージャーを勧めて良かったと思っている。バスケ部の連中も里奈にいい所見せようとして頑張るし、里奈もマネージャーの仕事をテキパキとこなしてくれてるし、正直とても助かってる。


「うわっ、颯太も赤くなってるじゃん!ちょっとだけ止まって!」

「よくそんなの持ってたな?さすがマネージャー!」


里奈は巾着からバンドエイドを取り出して俺の親指の付け根につけてくれた。鼻緒が直接傷口に当たらない事で歩くのがだいぶ楽になった。妹みたいに思っていた里奈が意外と面倒見が良いって事を最近知って感慨深いものがある。こうやって人は大人になって行くんだな。


「ありがとう、すっげえ楽だ。」

「もう、我慢しないで言ってよね!」

「家すぐそこだし、大丈夫かなって。」


ふと前を見ると、小春達はだいぶ先を歩いていた。俺は里奈とその後をゆっくりと歩いて追った。



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