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67 俺と花火大会(2)


猫宮を交えて参加した祭りは意外と楽しくて、俺は純粋に祭りを満喫していた。着せてもらった浴衣も最初は動きずらいと思っていたが慣れてしまえば祭りの雰囲気と合っていて、着ている事で普段よりテンションがあがった。あの人変な人だったけど、浴衣を着せてくれた事には感謝しよう。


俺は今猫宮と2人で、小春と里奈を待っている。俺たちに動くなといってりんご飴を買いに行ってしまった。結構人も多いから2人だけで行かすより俺らも行った方がよかったんじゃないかと思っていた頃、道が大きく2つに割れ神輿が通った。


「うわ、小春達大丈夫かな?」


完全に分断されてしまって、神輿が通り過ぎるまで向こうに渡る事が出来なさそうだった。まあ、通り過ぎたら小春達戻ってくるだろうと思っていたら、猫宮が無言で神輿の前に飛び出そうとするから俺は慌てて腕を引いて止めた。


「何やってんだよ!怪我するぞ!」

「でも、小春ちゃんが……。」

「大丈夫だって、神輿が過ぎれば戻ってくるって!」


猫宮は納得していない様子でスマホの画面をつける。小春にメッセージを送ろうとしているっぽいけど、どうやら人が多すぎて電波が届いていないらしい。


「僕も行けばよかった。」


眉間に皺を寄せて神輿の向こう側を睨みつける猫宮を大袈裟だなと思いながら、俺たちはその行列が過ぎ去るのを待った。けれど、神輿が過ぎ去った後も小春達は戻って来なかった。


「僕探しに行ってくる。」

「おい待てって、ここでお前まではぐれたらどうすんだよ。この先に鳥居がある。毎年そこで花火を見てたから小春達もそこに向う可能性はある。だから、お前はここから先を、見つけても見つけなくてもその鳥居で待ってろ。後から来るかもしれねえしな。」


猫宮は祭りに参加するのは初めてって言っていたから、この人混みでここに来たのも初めてのはずだ。だから連絡が取り合えない今こいつまで無計画で探しに行かせると、下手すると祭りが終わるまで誰にも合流できないかもしれない。


「……、分かった。颯太はどうするの?」

「俺は一応来た道を探してくる。花火までには鳥居に着くようにする。小春達も子供じゃねえから、いつもの場所に向かうと思うけど一応な。」


そうして猫宮と別れて俺は一度来た道を戻った。居るとは思ってなかったけど、一応探して歩く。


浴衣に合わせて借りた下駄が歩きづらくて、思わず舌打ちをしてしまう。こんな時洋服だったらもっと動きやすかった。いや、誰もこんな事想像してなかったから仕方ない。早く小春を見つけたくて歩みを早めたせいで、右足の鼻緒にあたる親指の付け根が擦れて痛かった。


「あー、くそっ。」


ある程度戻ったけど小春達は見つけられなかった。じゃあ、きっといつもの鳥居の所に向かったんだな。また今来た道を戻るために反転し、次はゆっくりと歩く。左足の指の間まで鼻緒で擦れてしまったらしい。


ジンジンとした痛みが響く。今日一日楽しかったけど、目の前で猫宮と小春の絡みを見せつけられ胸が苦しかった。もちろん里奈と話したり、屋台を回ったり、射的も楽しかった。まさか小春があんなに上手かったとも思わなかった。小春の事を考えて笑みが溢れた。だけど、猫宮と手を繋いで歩く後ろ姿を思い出してその笑みは消えた。


「はぁ、俺何やってんだろ。」


痛みで心が弱っているのかもしれない。俺は少し休憩しようと思って、ベンチのある脇道に目を向けた。


「……!」


そこには可愛いって思った浴衣姿があった。俺が可愛いって言ってあげられなかった浴衣。俺は足の痛みも忘れて駆け寄った。


「小春ーー!」


俺が声をかけると小春は顔を上げた。その目には涙が溜まっていて、どうしようもなく抱きしめたくなった。


「なんでっ……。」

「やっと見つけた、なんだよ泣いちゃって?もう大丈夫だから。」


抱きしめたい気持ちを抑えて、小春に手を差し出す。気持ちと行動がすれ違い続けてストレスが溜まる。身体はしっかりと理性を保っているらしい。2人で鳥居に向かいながら里奈を探す事にする。こんな時でも2人きりの時間が出来て嬉しいと思ってしまう。


「ちょっと待って……。やっぱり、小春お前足怪我してんじゃん!」

「これぐらい大丈夫。早く里奈を見つけてあげなきゃ、泣いてるかもしれない。」


小春を立たせて2、3歩歩いた所で異変に気づく。変な歩き方をしていた小春を立ち止まらせて、その足をよく見て見ると、俺の比じゃないほどに皮が捲れて赤くなっていた。よくこんなので歩こうとしたな……、里奈の事より自分の事をまず心配しろよ。


「でも、お前これは痛いんじゃーー、はぁ……。ん、ほら。」

「え?」


俺は大きなため息をついて小春に背を向けた。恥ずかしいだろうけど、そんな足で歩かせるよりはマシだ。でも、だってと断ろうとする小春。


「こんな所に怪我人置いていけないだろ?なら俺もここに残る。」


俺は別にそれでもいいけど。小春はしぶしぶ俺の背中に体重をかける。一応鍛えているけど、人を1人背負って歩くのはなかなか体力を使う事だった。


小春を背負うのは小学生の時以来だった。あの時は転んで膝を擦りむいて歩けないと泣きじゃくる小春を、おぶって家まで連れて帰った。その時に比べると体も大きくなっていて、背中にあたる柔らかい感触も確かに成長を感じさせていた。


俺はなるべく気にしないように、人混みの中を歩く。周りの人の視線も痛い。そりゃこんな祭りの中漫画じゃあるまいし女の子をおぶって歩くなんて普通じゃないよな。


人が多くて進むのも、里奈を探すのも思うように行かない。人を1人背負って歩いていたら、また足の痛さも思い出して来た所だった。


「はぁ、颯太ごめん。」

「どうして謝るんだよ。」

「私が勝手に動いたから。足も痛くなるし……。」


顔は見えないけど、小春の声がまた泣いているように聞こえた。いや、これは多分泣いてるだろうな。


「まぁ、そんな日もあるだろ。」


何もかも上手くいく事の方が少ないって俺は知っている。ちょうどその時、大きな音と共に空が明るくなった。一発目の花火が打ち上がった。空を見上げるとキラキラとした花火が次々と打ち上がる。


人の流れが完全に止まってしまった。


「小春立つのは辛くないか?」

「うん……。」


完全に元気を無くしてしまった小春をゆっくり地面に下ろす。小春の頬には涙が伝っていた。


「私のせいでっ、せっかくのお祭り、楽しめなくなっちゃったっ……。」

「大丈夫だって。俺は楽しかったぜ?」

「でも、こんなはずじゃ、なかったぁ……。」


俯いて涙を流す小春の顔を掴んで顔を上げさせる。次から次へと涙が溢れてこぼれ落ちてくる。俺はそれを、持って来ていたハンカチを取り出して拭いてやる。


「猫宮くんもっ、里奈も、今も1人かも知れないっ。せっかく、来たのにっ……1人で、花火見てる、かもっ……。」


小春が心配していたのは、猫宮と里奈が今も1人で居るかも知れないって事だった。俺は安心させるように、さっきハンカチを取り出した時に見たスマホのメッセージを見せる。


「大丈夫、里奈は猫宮と合流できたらしい。」

「よ、よかったぁ……。あ、私のスマホ、充電なくなっちゃってるや……。」


猫宮からのメッセージに、小春を見つけたとだけ返事して巾着にしまう。すぐにブーブーとバイブが鳴って電話がかかって来ていたが気づかないふりをした。花火の音で小春は俺のスマホが鳴っているのに気づいていない。


猫宮と里奈が合流している事に小春は安心したようで、涙はそれ以上溢れ出てこなかった。花火の光が反射してキラキラ光る小春の目尻に残った涙を親指で拭き取った。



「でも男女の仲なんていつまで続くかわからないし。ちょっとしたキッカケでダメになるかもよ?」



何も言わない俺を不思議そうに見上げる小春の顔を見下ろしながら、猫宮の親父の言葉を思い出していた。

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