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66 俺と花火大会(1)


毎年小春と里奈と参加している祭りがあった。毎年約束はしていないけど、なんとなくいつも3人で一緒にその祭りに行って一緒に花火を見ていた。でも、今年はもう3人で一緒にっていうのはないかもしれない。小春と猫宮が付き合い初めたから、そういうイベントは2人で楽しみたいものだと思うし。俺もバスケ部の友達と集まって行こうかなと思っている所に里奈からのメッセージが来た。


『今年の祭り、猫宮くんも参加するからお迎えいってあげてー!』


どうして俺が……、という気持ちと、今年も一緒に祭りを楽しめるのかって気持ちがぐちゃぐちゃになった。別に一緒に祭りに行かなくても、俺と里奈は邪魔だろうしそれぞれの友達と行けばいいんじゃないかって。それでも俺は嫌と言わずに分かったとだけ返事を返す。


スマホをベッドに放り投げて、俺も一緒にベッドに倒れ込む。小春と猫宮が仲良くしている姿を見るのはあまり楽しくなかった。12年間ずっと一緒にいた女の子がぽっと出のイケメンに掻っ攫われて行くのはどうしても気持ち良くはない。


初めての保育園で親と離れてぐずぐず泣いてた俺に声をかけてくれたのは小春だった。一緒に絵を描いたり、遊んだり、昼寝の時間隣で手を繋いで寝てくれたりした。後から気づいたけど、小春は弟が生まれたばかりでお姉ちゃんになろうと頑張っていたっぽい。だから俺にも弟にするように一緒にいてくれたんだと思う。単純な俺は簡単に小春を好きになって、それが初恋になって、今もずっと引きずっている。結婚する約束までしたのに。


保育園の頃からずっと隣にいたから、このままずっと一緒にいると思っていたのに。突然猫宮が現れて最も簡単に小春を奪っていく。幼馴染っていうポジションに甘えてないで、素直にさっさと気持ちを伝えていたら変わっていただろうか。




祭り当日、俺は猫宮を迎えにもらった住所を地図アプリに入れて、家へ向かっていた。駅で待ち合わせでもいいんじゃないかって思ったけど、小春達は色々準備に手間取ってるらしく少し遅れるから涼しい所に居てと言われ、猫宮から家に来たら?と誘いがあった。正直その誘いは意外すぎて驚いた。猫宮の家とか誰も行った事がないんじゃないかな。


アプリに道案内させてついた家は、普通の二階建ての家。なんとなく豪邸に住んでると想像していたから拍子抜けした。猫宮についた事を伝えると入ってきてと返事が来る。俺は少し迷って、小さくお邪魔しますと声をかけ玄関の扉を開けた。


「君が颯太くん?こんにちは。」


玄関を開けて入ると、入ってすぐの部屋から猫宮が顔を出してきた。イメチェンしたレベルで髪型が違ってびびったけど、よく見ると猫宮じゃなくてもっと大人の猫宮だった。兄貴かなにかか?


「こんにちは、お邪魔します。」

「今冷たい飲み物出すから、こっち来て座ってて。」


笑った顔がまたそっくりすぎて、遺伝子ってすげえって思った。案内されて入ったのはリビングで、猫宮は浴衣を着てソファに座っていた。


「小春ちゃん達浴衣の着付けしてるんだって。」

「猫宮も浴衣でいくの?」

「うん。着せてもらった。」


紺のシンプルな浴衣を着る猫宮は俺から見てもかっこよくて、悔しかった。そりゃこんなイケメンに好き好き言われたら小春も好きになっちゃうよな。俺は猫宮の隣の空いているスペースに腰掛け、猫宮の兄貴から麦茶をもらった。


「颯太くんはその服で行くの?」

「あー、はい。浴衣とか持ってないし。誰も着付けできないんで。」


大人の猫宮と話すのは何か変な感じだった。颯太くんって呼ばれるのも……。髪型や背丈は全然違うけど、顔や話し方が似すぎていて違和感しかなかった。


「せっかくのお祭りなんだから、浴衣きなよ。僕のを貸してあげるから。」

「え、いいっす!そんなの着た事ないし!」

「いいじゃん着せてもらいなよ。」


猫宮はスマホを見ていて俺にあまり興味がなさそうだった。持っているスマホの画面を覗くと小春の写真を1枚ずつ大切に眺めていた。てか、こいつ普段からそんな事ばかりしてるのか?気持ちはわかるけど、流石の俺もそんな穴が開くほど写真は見つめない。


「さ、こっちおいで。」

「じゃあ……、よろしくお願いします。」


せっかくの好意に甘えさせてもらう事にして、猫宮の兄貴に浴衣を着せてもらった。浴衣を着せてもらってる最中、帯を巻いている時だった。近くで見る猫宮の兄貴の目元や鼻、口元までほとんど一緒で兄弟ってすごいなって思っている時。


「うちの子が何か迷惑かけてない?まだまだ人間に慣れていないから。」

「……?いや、特に大丈夫っす。普通に仲良くしてもらってます。」


人間に慣れてないってどういう事だろう。その言葉が妙に引っかかって頭に残った。猫宮自身もよく変な事を言うが、兄貴も似たような感じなのか?


「まあ、颯太くんには面白くない事もあると思うけど、あの子と仲良くしてあげてね。」


面白くない事って……、聞く前に帯が巻き終わって背中を軽く叩かれた。初めて浴衣を着た自分を鏡越しに見る。思ったより似合っていた。


「ありがとうございます!浴衣クリーニングして返します。」

「いいよいいよ、僕のお古だし。あげるよ。」

「いや、こんなの貰えないっすよ!」


お古と言ってもまだ全然綺麗だし、生地も安くなさそうな感じの浴衣だった。さすがにこんなものは貰うわけにはいかないのでクリーニングして返そう。俺は猫宮の兄貴に軽くお辞儀して部屋を出ようとする。


「お祭り楽しんでおいでね。」

「はい!」


猫宮の兄貴はいい人なんだろうな。別に猫宮も悪いやつではないって分かってる。でも、小春の事があるからどうしても対抗心が抑えきれない。自分でも子供っぽいって分かってるけど、事あるごとに猫宮と比べてしまう自分が居た。


「僕がいうのもあれだけど、自分の気持ちは大切にするんだよ。今まで培ってきた気持ちを相手に伝えずに無かった事にしてしまうのは勿体無いからね。」


一瞬何を言っているのか分からなかった。ぽかんと猫宮の兄貴の顔を眺めて、今言われた言葉を頭の中で繰り返しているうちに気づいた。もしかしてこれ、小春の事を言ってる?


「なんでそれ……、猫宮に聞いたんすか?」

「いや?ただ、男女の幼馴染ってそういう感情持つこともあるんじゃないかなって。」

「でも、だからって……、はぁ。」


否定しようとしても、目の前の顔は全てお見通しだと言うような顔をしていた。俺は大きくため息をついて否定するのをやめた。猫宮の兄貴は不思議な雰囲気の人だった。まるで何でも知っている魔法使いみたいな……、普通の人じゃない雰囲気を纏っていた。


「伝えてどうするんすか。俺の気持ちを伝えても小春は困るだけ。その後今まで通りなんて難しいし、俺は今まで通り小春の幼馴染として傍にいるだけでも満足できます。」

「……、なるほど。ふふ、でも男女の仲なんていつまで続くかわからないし。ちょっとしたキッカケでダメになるかもよ?」


イマイチつかみどころがない人だ。自分の弟なのに小春といつか別れるかもしれないって言っている。普通は弟を応援するもんじゃないのか?猫宮の兄貴は俺を面白そうに見て笑う。


「ふふ、僕は波瀾万丈であって欲しいんだよ。そうじゃないと面白くないだろ?」


さっきまで何も感じなかったのに、目の前の猫宮にそっくりな顔で笑う人間に背筋がぞくっとした。

後から猫宮から目の前の人は兄貴じゃなくて親父だって聞いて、ますますこの人が信じられなくなった。親父にしては若すぎるだろ。

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