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65 私と花火大会(2)


「小春にこんな才能あったなんて……。」


驚く颯太の目の前には小さなぬいぐるみが4つ。あの後ラムネのお菓子を狙っているのに、何故か玉が外れて里奈が欲しがっていたクマのぬいぐるみ、犬のぬいぐるみ、そして最後にレオと色違いの白い猫のぬいぐるみに当たって落ちた。最後の1発は何にも当たらずに終わって屋台のおじさんがホッと息を吐いていた。


「はい、里奈。」

「え、いいの?」


里奈にクマのぬいぐるみをあげるとパァと顔を明るくして喜んで受け取ってくれた。せっかくだから颯太には犬のぬいぐるみを渡す。


「こういうのは男の役目なのにな。」


悔しい顔をしてたけど、犬のぬいぐるみを受け取って小物入れに入れてもらえた。最後に残った猫のぬいぐるみを猫宮くんに見せる。茶色の猫と白い猫の色違いのぬいぐるみ。


「どっちがいい?」

「僕が小春ちゃんにあげたかったのに。」

「なんかごめん……、でも、お揃いの取れたよ?」

「じゃあ、僕は白い子もらおうかな?小春ちゃんみたいで可愛い。」


猫宮くんは白い猫を受け取ってぬいぐるみの口元に口付ける。私みたいって言われた後にそんな事をされるとまるで自分にされているみたいで照れてしまう。私は手元に残った茶色の猫を見た。レオに似てるって思ったけど、猫宮くんの髪色に似てる。


「ありがとう大切にするね。」


猫宮くんもぬいぐるみを小物入れに入れて、私の手をとってまた屋台が並ぶ道を歩く。後ろには里奈と颯太もついてくる。そろそろ花火の時間だから自然に2人と離れなきゃ。


「猫宮くんりんご飴食べる?」

「いいよ、買いに行こうか。」

「えー私も行く!」


わざとはぐれようとしているのに、里奈は作戦の事をすっかり忘れて私達とりんご飴を買いに来てしまう。猫宮くんに颯太の事を頼んで私は里奈と2人でりんご飴を買う。


「ちょっと里奈、作戦忘れてるでしょ。」

「作戦って……、あぁっ!忘れてた!」


里奈は言われて気づいたらしくりんご飴をもらって慌てて颯太を探す。猫宮くんも一緒にいるはずだからすぐ見つかると思うけど……。そう思ってさっきいたあたりを見渡すと、ちょうど神輿が通り初めて道が分断されてしまった。


「このお神輿が通り終わるまで待った方がいいかもね。」


花火まであと1時間程、それまでに里奈を颯太と2人きりにさせてあげたいけど。とりあえず、今は動かないで神輿が通り過ぎるのを待つ事にしよう。隣にいる里奈に声をかけようと顔を向けるとそこには全く別の女性がいた。


「あれ、里奈?」


キョロキョロと周りを見渡しても里奈はいなくて、私は咄嗟にスマートフォンで連絡を取ろうとした。だめだ、人が多すぎて電波繋がっていない。私はサッと青ざめた。こんな人混みの中で里奈を探すのは不可能かもしれない。とりあえず猫宮くん達に合流して一緒に探してもらわないと……。


花火の時間帯が近づくにつれ人も次第に増えていく。神輿が通り過ぎるのを待っていたらこのまま花火の時間になってしまいそうだった。私は一度りんご飴の屋台に戻って里奈がいないか確認してから、神輿の最後の方に向かって人の流れに逆らうように戻って見た。後ろの方から回ったら猫宮くん達の場所に戻れるかもしれない。


時々スマホを見ながら私は神輿の最後尾まで回って向かいの道の方へ渡る。


「いっーー。」


みんなを探すのに必死で早く歩きすぎた、下駄の親指の付け根の所が擦れて痛くなってしまった。よかった、鼻緒が切れるとかいうありがちな展開にならなくて。これならまだゆっくりだけど歩ける。


私は次はゆっくりと人の流れに沿って元いた道へ向かった。電波はまだ入らない。最悪花火を見る予定だった所へ行けば合流できると思う。誰とも合流できなかったら諦めて1人で花火を見る事になるけど……。そうならないように願いながらゆっくり歩いていたけど、親指の付け根を庇って歩いていたせいで足の外側も痛くなってしまってちょっと休憩する事にした。


道の端に腰掛けて、下駄を脱いで足の様子を見てみると右足の鼻緒に当たる部分が擦れて皮がめくれていた。無理やり歩いたのが悪かったらしい。大きくため息をついて人が歩いていく様子を眺める。里奈が颯太と一緒に花火見れてたらいっか。


そう思っていたけど、電波の繋がらないスマホで時間を確認して花火の時間に近づくに連れ涙が溢れてきた。私だって初めてお祭りに参加する猫宮くんと一緒に花火見たかった。あの場所から動かないで神輿が通り過ぎるのを待てば今頃見つけて貰えてたかもしれないと考えたら悲しくて仕方なかった。せっかくメイクもしたのに泣いたら崩れちゃう……。そう思って溢れた涙をそのまま下に落とそうと俯いて、ぽたぽたと濡れていく地面を眺めた。



「小春ーー!」


呼ばれてパッと顔をあげると息を切らした颯太がいた。


「なんでっ……。」


颯太は里奈と一緒にいる予定だったのに。私のせいで里奈との作戦が台無しになった事と、見つけて貰えた安心感で余計に涙が溢れてきた。目を擦らないように浴衣の端で涙を拭く。


「やっと見つけた、なんだよ泣いちゃって?もう大丈夫だから。」


颯太は切らした息を整えながら私を安心させるために笑顔で言って、手を差し伸ばしてくれた。私はその手を取ってゆっくり立ち上がる。まだ花火の時間には間に合う。けど里奈と颯太を2人きりにしてあげるのはもう難しいかもしれない。


「ほら、猫宮の所戻ろうぜ。里奈も小春も戻ってこないから、手分けして探してたんだぜ?」

「里奈も、まだいない?」

「ちょうど神輿通って、通り過ぎた後も待ってたんだけど2人共戻らねえし、電波もねえしで。猫宮は先に、俺は後に戻って探してたんだ。」

「里奈大丈夫かな……。」


やっぱりあの場から動くべきじゃなかった。里奈は今頃まだ私たちを探しているかもしれない。そう思って私は涙を拭いて、足の痛みを我慢して颯太の後を歩く。右足を庇いながら変な歩き方になっている私に颯太は気づいて止まらせる。


「ちょっと待って……。やっぱり、小春お前足怪我してんじゃん!」

「これぐらい大丈夫。早く里奈を見つけてあげなきゃ、泣いてるかもしれない。」


里奈が1人でわんわん泣いてる姿は容易に想像できてしまう。つまり、今頃1人で涙を流しながら私たちを探している事もあり得るわけで……。こんな所でゆっくりしている場合じゃなかった。


「でも、お前これは痛いんじゃーー、はぁ……。ん、ほら。」

「え?」


颯太は大きなため息をついて私の前に背中を向けてしゃがむ。何をしようとしているのかはすぐに分かったけど、高校生になった今私達がそんな事をするのは恥ずかしすぎる。


「ゆっくり歩いてたら花火始まっちゃうだろ?こうした方が早く進めるし、里奈も俺らを見つけやすいだろ?」

「そうかもだけど……。」


颯太におんぶしてもらうなんて小学校以来だった。あの時はこけて膝を擦りむいて泣きじゃくる私をおぶって家まで連れて帰ってくれたっけ。


「私はゆっくり行くから先に里奈を探して来てよ!」

「こんな所に怪我人置いていけないだろ?なら俺もここに残る。」


下から私を見上げる目は意見を変える気は無さそうだった。颯太に背負われた私を見たら猫宮くんどう思うだろう、けど早く里奈を見つけてあげないと……。


「重かったらすぐ降りるからね。」

「バスケ部舐めんなっ、んんっ。」


颯太の背中に体重を預けると、少しだけ意気込んで私は持ち上げられた。何年振りかの行為に私はバランスを崩しかけて颯太の首元に思い切り抱きついてしまう。


「わ、ごめっ……。」

「こっちもその方が安定するから捕まってろ。」


猫宮くんにも里奈にも悪いと思いつつも、確かに私がのろのろ歩くより早いし、里奈をすぐ見つける事も出来そうだった。


先にある鳥居の下で猫宮くんと待ち合わせしているらしい。そこに向かいつつ私は颯太の背の上で里奈を探す。人が多すぎて進むのも探すのも大変だった。


「はぁ、颯太ごめん。」

「どうして謝るんだよ。」

「私が勝手に動いたから。足も痛くなるし……。」


勝手な行動で颯太に迷惑かけちゃうし、自分が情けなくて涙がまた溢れてくる。


「まぁ、そんな日もあるだろ。」


颯太がそう言ったのと同時にドーンと音が響いて花火が上がった。周りの人達が立ち止まって空を見上げる。ただでさえ混み合って進むのが困難だったのに、花火を見るために立ち止まってしまってからは人の流れが完全に止まって動く事が出来なくなった。





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