64 私と花火大会(1)
年に1度しか着ることがない浴衣をお母さんに着付けてもらって、迎えにきた里奈と一緒に家を出る。カランコロンと下駄の音が響き、今から夏祭りに行くんだと気持ちを昂らせる。
私の気持ちが盛り上がっているのは、夏祭りに行くからだけではなかった。先日里奈から告白された、自分の好きな人は颯太だって事実。今日はそのために花火前に私と猫宮くんはわざと逸れるっていう作戦まで立てた。猫宮くんは元々私と2人で花火を見る予定だったらしいのですんなり作戦に賛成してくれた。
「こはるん、私変じゃない?」
「うん、すっごい可愛い。」
今日はいつもよりしっかりメイクをして、オレンジ色に白い花の里奈に似合った浴衣。そして髪は毛先を少し巻いて大きめの髪飾りをつけていた。私が男だったらこういう女の子に恋をしていたはずだ。優しくて明るい、そして辛い時に一緒にいてくれる女の子。
「私が男の子だったら幸せにしてあげるのに。」
「こはるん、いきなり何いってるの!」
笑いながら待ち合わせの駅まで歩く。次第に口数が減っていき、里奈の緊張が私に伝わってくる。いままでずっと一緒にいたのに、里奈の気持ちを知ってからだと私は変な気を使っちゃいそうだった。
「普通でいてね普通で!」
「分かったって。里奈が緊張すると私も緊張するじゃん!」
「あーもう、言わなきゃよかった!」
言ってくれてよかったって思ってるけど、私が変なことしないか心配だった。嘘をついたりするのは自分でも苦手だと分かっている。うっかりバラすような事しちゃわないか気をつけよう。
駅に着くといつもより多くの人で溢れていて、浴衣の人達もたくさんいた。その中から猫宮くんを見つけるのはすごく簡単だった。周りの人たちの視線を追えばすぐに見つけられる。今日は特に。
「今日もすごいね。」
遠くから猫宮くんを見た里奈がつぶやいた。
今日の猫宮くんは浴衣を着ていた。前髪は片側だけ耳にかけて少し節目がちが目が色っぽく見える。紺色の浴衣から覗く首筋や鎖骨、胸元にドキリと心臓が高鳴る。女性だけでなく、男性までも猫宮くんを何度見かして立ち止まっていた。本当に私が彼女でいいのかな……。自分に自信をなくしていく。
「おまたせー!」
「ごめん、遅くなっちゃった。」
「おせーよ!肩身狭すぎてやばかった!」
里奈が先陣を切って声をかけに行ってくれた。猫宮くんばかり目が行って気づかなかったけど颯太も浴衣姿だった。
「えー!颯太浴衣じゃん!どうしたの!」
「猫宮の親父が着付けてくれた。親父もすげーイケメンなの。遺伝子ずるいよな。」
颯太はここにくる前に猫宮くんの家に行ったらしくて、そこで私服だった颯太を見かねて猫宮くんのお父さんが自分の浴衣を着付けてくれたらしい。颯太もなかなか似合っていた。
「似合ってんじゃん。」
「まーなっ!」
いつも通りの2人だけど、里奈の気持ちを知ってからなんだかそわそわしてしまう。変な事を言わないように私は意識を猫宮くんに向ける。そう言えばまだ一言も声聞いてない……?どうしたんだろうと猫宮くんの方を見たら、私を見て微笑んでいた。
「小春ちゃん浴衣似合ってる。綺麗だよ。」
「あ、ありがとう……。」
いつも可愛いなのに、今日は綺麗って言われて嬉しくて恥ずかしくて照れて下を向いてしまった。猫宮くんの浴衣姿もすごく素敵なのに、素敵すぎて言葉にできなかった。
「こっち向いて?もっと僕に見せてほしい。」
「ねえ、恥ずかしいって……、みんな見てるからっ。」
私の顔を優しく両手で包んで目が合うように上に持ち上げられる。あまりにも恥ずかしすぎて、猫宮くんの手を掴んで下に下ろす。そのまま片方の手の指は絡まって手を繋ぐ形になる。
「見てるこっちも恥ずかしいって!私の浴衣も似合ってるてしょ!?」
「どうだろう、颯太はどう思う?」
「えっ、俺?あー、まあ、いいんじゃね?可愛いと思う。」
流石猫宮くんだと思った。自然な流れで颯太に話を振って里奈の浴衣の感想を聞き出していた。颯太は恥ずかしいのか少し目線をそらしながら浴衣の感想を言う。
「え、あ、ありがとう。」
まさか颯太からの感想をもらえると思ってなかった里奈は顔を赤くして俯き加減で笑う。嬉しそうな里奈を見るとこっちも嬉しくなってくる。私はるんるんとした気分で屋台を見て回ろうと提案して、猫宮くんと手を繋いで前を歩いた。
ここら辺では一番大きなお祭りらしく、くる人も多ければ屋台の出店数もとても多い。神社までの道のりにはびっしりと左右の道に屋台が並んでいて見ていて飽きなかった。猫宮くんはお祭りが初めてらしく、あまり顔には出さなかったけどキョロキョロと色んなものに目を走らせているのが分かった。
「お祭り楽しい?」
「うん、楽しいよ。小春ちゃんと一緒だからかな?」
さらりと歯の浮くようなセリフを言ってのける猫宮くんだけど、お世辞とかじゃなくてきっと本心から言ってるんだろうな。そう思うと嬉しくなって、次はどんな所に一緒に行こうかなと考える。
「次あれ食べたい!イカ焼き!」
「たこ焼きも食おうぜ!!」
私達の後ろを歩く里奈と颯太の両手には色んな食べ物でいっぱいだった。2人の様子を盗み見しながら、いつも通りでホッとしている私と、何かドキドキな展開がないかなと期待している私がいる。
「小春ちゃん?」
2人の事ばかり気にしていると、猫宮くんがちょっとだけ眉を顰めて私に話かけてきた。
「あ、ごめん。何か言った?」
「2人の事気にしすぎ。今日は僕ともお祭りに来てるんだよ?僕の事もちょっとは気にして欲しいな?」
「あー……ごめんね。どうしても気になっちゃって。」
ちょっと寂しそうに猫宮くんが言ってて反省した。そうだよね、あまり気にしててもしょうがないし、猫宮くんとのお祭りを楽しまなきゃ。
「おーい!小春!猫宮!あれやろうぜ!」
突然後ろから颯太に話かけられてドキっとした。私達は振り返ると颯太が後ろにいて屋台を指差している。
「射的?私やった事ないよ?」
「僕も。」
いつも颯太と里奈がやっているのは知っていたけど、私はいつも見ているだけだった。どうもこう言うのは苦手で、見てる方が楽しかった。取れないと悔しいし。
「今年はこはるんもやろうよ!」
「みんなで遊ぶのが楽しいんじゃん!」
2人に強引に連れて行かれて、お金を払って射的の道具を渡される。玉は5発もらってこれで好きな景品を落としたらそれがもらえる。景品の中には絶対に落ちなさそうなものから小さい100円ぐらいで買えるお菓子まで色々あった。
「私あのクマのぬいぐるみ狙う!」
「じゃあ、俺はゲーム機!」
「あんなの絶対落ちないよー!」
隣では2人でわいわいどの景品を狙うか盛り上がっている。
「猫宮くんはどれ狙うの?」
「どれも落ちなさそうだから、あの小さいぬいぐるみとかかな。」
猫宮くんが指してる場所には、手のひらサイズの猫のぬいぐるみが座っていた。その茶色の可愛らしい猫はどこかレオに似ている感じがした。
「可愛い、猫宮くんはやっぱり猫が好きなの?」
「猫が好きっていうか、小春ちゃんにとってあげたいって思ったから。」
そう入って銃を構える猫宮くんは様になっていて、本当に初めてやる人には見えなかった。射的の景品はどれも重くなっていてお菓子以外は取れないって聞いた事あるけど、そういう水を刺すような事は言わずに心の中で応援した。
「あーくそ!当たったのに!」
「あのクマ1キロはある!」
「当たったんだけどなぁ。」
私が順番を待っている間に颯太も里奈も猫宮くんも打ち終えていた。3人ともそれぞれ何も取れずに終わったらしい。射的なんてそんなもんだよねと冷めた事を考えながら、私の番になって慣れない銃を構える。猫宮くんの狙ってた猫のぬいぐるみの近くにあるラムネもお菓子に狙いを定める。当たればいいなと思って打った。
「あ……、当たった。」
「えー!!こはるんすごーい!」
私が打った玉はラムネのお菓子ーーではなく、猫宮くんの狙ってた猫のぬいぐるみに当たって落ちた。猫宮くんも何回か当ててたし、あとちょっとだったのかも?
「小春ちゃんすごいね。」
「当たっちゃった。」
屋台のおじさんから落とした猫のぬいぐるみをもらう。近くで見るとやっぱりレオに似ていた。玉はあと4発残ってる。私はさっさと終わらせようと、元々狙っていたお菓子にまた狙いを定めた。




