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63 私と猫宮くんと里奈


「夏といえばお祭りでしょ!!」


私と猫宮くんの課題の邪魔をしにきた里奈は花火大会のチラシを持って鼻息を荒くしていた。去年は里奈と颯太と見て回ったっけなあ。私はちらりと猫宮くんを見てみる。目があってちょっと首を傾げてどうしようって顔をしている。


「今年も行くでしょ?ねえ!」

「いいけど、猫宮くんも一緒に行く?」

「こはるんの浴衣姿見れーー」

「もちろん行くよ。」


少し食い気味で返事をしてくれた猫宮くん。今年の花火大会は猫宮くんも一緒に行けるのが嬉しかった。今までの里奈と颯太と一緒に回るお祭りももちろん楽しいけど、お付き合いしている人と一緒にだなんて初めてでドキドキする。


「でもその前に、課題終わらせてからね。」

「あーお祭り楽しみだなー!」

「聞いてる?終わらせないと小春ちゃんは僕と2人で行くから。」


猫宮くんがスパルタモードに入って、里奈に無理やり課題を家まで取りに行かせた。


「本当は2人きりでお祭り楽しみたいんだけどな。」

「また今度一緒に行こう?」


里奈が出ていった後の猫宮くんはまた私を側に呼んで隣に座らせる。そして肩に少し寄りかかるように体重をかけてきた。私も倒れないように少し体重をかけて支え合うようにして寄り添う。


「浴衣楽しみ。」

「恥ずかしいから、あんまり期待しないで?」

「絶対可愛い。」


猫宮くんが少し顔をこっちに向けてこめかみに軽くキスをした。こういう事を自然にやってしまうとこが王子様みたいで素敵だと思う。そのうち自然に手を繋いで、次はお互いに向き合ってキスをして、また何度も繰り返しているうちに里奈が帰ってきた音がして、私は急いで離れる。猫宮くんは面白そうにくすくす笑ってる。焦ってるの私だけじゃん。


「っはーはー、持ってきました、せんせいっ」

「見せて……って全然やってないのはどういうこと?」


猫宮くんは私にはこういう態度を絶対にしない。だかはこそ、目の前で里奈が怒られてるのは面白く感じてしまう。ほぼ白紙の課題のノートを手に里奈を冷たく見下ろす猫宮くんと、正座してしょんぼり肩を落として床を見ている里奈。猫宮くんは大きなため息をついて里奈に言う。


「次のテストは1人で頑張って。」

「そんなぁ!こはるん助けて!」

「夏祭りまでに課題終わらせよう?手伝うから!」


夏祭りは今週の土曜日。終わらせる事はできなくても、ある程度終わりが見えるまでは出来るはず。本人のやる気次第だけど。


「私飲み物持ってくるね。猫宮くんのお土産も一緒に出していい?」

「僕も手伝うよ。」

「お母さんいるし大丈夫!ちょっと待っててねー。」


私は2人を残して飲み物とおやつを取りにリビングへ向かう。少し前だったら喧嘩するか持って思って2人にして置いとけなかったのに、今では安心して席を離れられる。よかった、仲良くなってくれて。自分の好きな人同士が仲が良いと嬉しくなる。


「猫宮くんはコーヒーで、里奈は……いちご牛乳かな。」


里奈が頻繁に遊びに来るから、私の家には専用の飲み物が置いてある。里奈は昔からいちご牛乳が好きだった。私はグラスにいちご牛乳を注いで猫宮くんのお土産……今日は焼き菓子だった。それを何個か取ってトレイに載せる。


「おまたせ。」


部屋に戻ると里奈がこれ以上ない集中力で課題に取り組んでいた。猫宮くんはその様子を少し離れた所でたまに里奈に目線を向けながら本を読んでいた。私は邪魔にならないように机に飲み物をおいて、猫宮くんにはベットのサイドテーブルにコーヒーを置いた。


「里奈すごい集中してるね。」

「うん、ご褒美あげる事にしたから。」

「ご褒美?」


猫宮くんがご褒美っていうとどうしてもそう言う事ばかり考えてしまう私を頭の中でグーで殴る。いつから私はこんなはしたない女になってしまったんだろう。


「小春ちゃんも欲しい?」

「だ、大丈夫。私は課題はちゃんと終わるから。」


一体ご褒美ってなんだろう。黙々と課題を進める里奈を見てますます知りたくなる。私はペンを手に取り、自分の課題を進めるためにノートを開いた。


ある程度時間が経って集中力も切れてきた頃里奈がペンを置いて仰向けに倒れる。誰かが一緒に勉強してくれると集中できるみたいで、私の課題も今日の分を超えて進める事ができていた。


「ちょっと休憩しよう?」


猫宮くんの持って来てくれた焼き菓子を机の上に広げる。個包装になっていて、それぞれマドレーヌやフィナンシェ、マカロンなど色んな種類がある。


「わぁ!可愛い!」

「猫宮くんが持って来てくれたんだよ。」

「わーい!ありがとう!」


遠慮なく好きな物を手に取って封を破る里奈。私もマドレーヌの袋を1つ取る。封を開けると甘い香りがほんのりと匂った。


「美味しそう、猫宮くんありがとう。」

「どういたしまして。」


猫宮くんは私の用意したコーヒーを飲みながら、私たちの食べる様子を見て満足そうに笑っている。


「猫宮くんは食べないの?おいしいよ?」

「じゃあ、食べさせてくれる?」


片手にコーヒー、片手に本を持っていて食べれないとアピールをしてくる。里奈をちらっと横目で見たら、食べさせてあげなよってニヤニヤと笑っている。前はもっと私の味方してくれてたのにおかしいな。


「どれがいい?」

「小春ちゃんが持ってるやつでいいよ。」

「えっ、食べかけだよ?」

「食べかけがいいな。」


里奈の視線を感じながら、私は食べかけのマドレーヌを猫宮くんに食べさせてあげる。あとひとくち分ぐらいの小さい食べかけだったから、親指と人差し指でつまんで口へ運ぶ。ぱくっと食べた際に私の親指も一緒に持って行かれたけど、気にしないようにした。


「うん、美味しい。」


唇をぺろっと舐める仕草が色っぽい。後ろでは里奈がひゅーっと囃し立ててくる。2人きりの時は慣れたけど人前でこうやって甘えてくるのは未だ慣れない。私は赤くなる顔を隠しながら再びペンを持って課題に取り掛かった。里奈はまだまだ休憩する気みたいで、私の様子を眺めながら呟く。


「いいなぁ、こはるんは。彼氏いて。」

「里奈は好きな人いないの?」

「うーん……、いるけど、いない?」

「え、いるの?」


初耳だった。私は思わずペンを止めて里奈を見る。里奈はほんのり頬を赤くして目を逸らしていた。里奈の好きな人の話は小学校以来聞いた事がない。あの人かっこいい!ぐらいは聞くんだけど、好きな人はいないっていつも言っていたのに。


「ちょっと複雑っていうか。見込み無しだから……。」

「どういうこと?」

「その人には他に好きな人がいるっていうか、だから諦めようって思ってたんだけど……。」


だんだんと声が小さくなって、里奈の顔も下を向いてしまう。そんな里奈を見てられなくて私はそばによって顔を覗き込む。


「その人は、その好きな人と付き合ってるの?」

「ううん。そんなんじゃない。」

「じゃあ、大丈夫だよ。付き合ってないなら可能性あるよ!里奈はこんなに可愛いし!」


里奈の頬を指で突く。里奈はとても可愛い。中川さんや野村さんのような綺麗系じゃなくて、アイドルのような可愛い系の女の子だ。高校に入ってからも同じバスケ部の1年生に告白されたって言ってたし。


「でも、大丈夫かな……。」


いつも何に対しても自信満々でいる里奈がこんなに消極的なのは初めてだった。いったいどんな人なんだろう里奈が好きな人は。


「里奈が好きな人は私も知ってる人?」

「颯太だよね。」

「うん……、ってちょっと言わないでよ!!!!」

「え、颯太ぁ!?」


全く予想もしてなかった人物に私は驚いて声をあげる。そしてなんで猫宮くんは知っていたの?私は猫宮くんと里奈を交互に見比べる。


「すごい分かりやすかったよ。」

「全然しらなかった……。いつから?」

「中学校に入るぐらいから……。」

「もう、言ってよ!!」


私だけ気づいてなくてなんだか仲間外れな気分になってしまう。それにしてもそんな前からだなんて、私もしかして里奈の邪魔してたりしたかな……。いつも3人で遊んでたりしてたし。


「え、じゃあ、颯太は好きな子がいるの?」

「うん。そう」

「えー誰!?私の知ってる人!?」

「あー、そ、それは、多分知らない子、かも。」


歯切れの悪い返事は気になった。私に言えない子って事?それとも本当に知らない子なのかな。私はいろんな女子を頭に浮かべたけど誰1人ピンとくる子がいなかった。


「大丈夫だよ。颯太、里奈の事可愛いって言ってたし。」

「ほんと!?」

「うん、それに颯太の好きなタイプは、小さくて可愛いほっとけない女の子だから。里奈にピッタリだよ!」


一度2人でいる時にそんな話を聞いた事があった。その時は聞き流していたけど、こうやって里奈に伝えられる事ができてよかった。里奈と颯太が付き合ってくれれば、私と猫宮くんと、里奈と颯太でダブルデートとかも出来る。2人が上手く行ってくれるように協力したいな。


「里奈、花火大会は颯太と2人で見てまわりなよ!」

「え、そんなやだよ!恥ずかしい!」


ちょうど花火大会は颯太も誘う予定だったからちょうどいいと思って提案した。里奈は顔を真っ赤にして両手をブンブン振って無理無理と言っている。親友の恋を応援しないわけには行かない私は引き下がれない。


「大丈夫!最初は一緒に回るけど、私と猫宮くんこっそりはぐれちゃう事にして。そうしたら自然に2人きりだよ!」


我ながら完璧な作戦だと思った。


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