59 僕と海水浴(2)
「いえーい!海だー!」
「いえー!」
海の中ではしゃぐ中川と颯太。どうしてただの海であんなにはしゃげるのか理解ができない。横では小春ちゃんと里奈が背中に日焼け止めを塗りあっていて、なぜか見てはいけない気持ちになって、木村くんと2人で背中を向けて触る。
「猫宮くんは海に入らないの?」
「海ってあまり清潔じゃないから。出来れば入りたくないなあ。野村は?」
「うちも海嫌い。」
レジャーシートの端に座ってスマホをいじってる野村に聞いてみたけど、さっきの事をまだ怒っているのか返事はそっけなかった。
「うちらも海行ってくるけど、猫宮くんはどうする?」
「僕はもう少しここにいるよ。すぐ疲れちゃうから。」
「こはるん早く行こうよ!」
浮き輪を持ってはしゃぐ里奈に小春ちゃんは引っ張られる。
「あの、これ……海入る時は脱いじゃダメかな?」
「うーん……、いいけど他の男に見られないでね?」
「そんなの無理でーす!じゃ、こはるん早く行こ!!」
「あ、待ってー!」
小春ちゃんはせっかく僕が着せてあげた羽織を脱いで置いて行ってしまった。颯太が小春ちゃんの水着姿を見てしまうのは嫌だけど仕方ない。
「木村くんは?泳がない?」
「僕は泳げないんだ。」
「なのに来たの?」
「はは、勉強の息抜きになるかなって思って。」
木村くんは笑って海で泳ぐみんなを見つめていた。そんなに勉強大変なのかな。僕も海で遊ぶ小春ちゃんに目を向けたら、颯太が小春ちゃんに何か話しかけてる様子が見えた。
「僕も行かなきゃ。」
「うん、気をつけてね。」
サンダルを脱いで素足で砂を踏むと、猫砂を思い出して体がぶるっと震える。体がしっかりあの感覚を覚えていたみたい。
「小春ちゃん!」
僕は海に触れないギリギリの所で小春ちゃんを呼ぶ。こっちに気づいてくれて手を振ってくれた。可愛いけど、そうじゃなくて……、あーもう!
恐る恐る水に足をつける、冷たくて怖い。
「猫宮くーん!おいでよ!」
小春ちゃんが遠くから手招きしてくれてるけど、あの位置だと腰まで水に濡らさなきゃいけなさそうだった。いま足首を水に浸けているだけでも結構限界が近かった。
「おーい!猫宮!」
「なに、そう、たぁっ!?」
横から颯太の声がして振り返るとあたまに何かが当たって、僕はバランスを崩して倒れてしまう。じゃりじゃりとした砂が口に入ってしょっぱいし濡れたし最悪。
「あ、わり!それとってくれ!」
僕は無言で近くに浮くビーチボールを上に投げて、颯太に強めにアタックする。こんなに濡れるつもり無かったのに、浅瀬でこけたから身体中が砂だらけで気持ち悪い。
「砂だらけだから海で砂落とそう?」
「いいよこのままで。海楽しい?」
「うん!すごく楽しい!ほら、行こうよ!」
楽しそうな小春ちゃんに引っ張られる。そんな楽しそうに言われたら断らない僕は奥に連れて行かれる。膝のあたりの深さまで来てしまった。ぞわぞわと鳥肌が立つのがわかる。僕って泳げるのかな。
「猫宮くん連れて来たよー!」
「おー!じゃあ落としたら全員にジュースな!猫宮いくよー!」
「え、ちょっと待って!」
突然始まるビーチボールでのキャッチボール。正確にはキャッチしないで打ち返しているんだけど、膝まで水に浸かっててすごく動きずらいうえに、ボールのコントロールが下手で僕の右斜め前に飛んできた。
「どうしてっ、こんな事!」
かろうじでボールに触って颯太に打ち返す事ができた。しかしまた水飛沫で顔が濡れてしまう。顔を濡らされるのが一番嫌なのに……。
「小春行くぞー!」
「じゃあ、中川さんえいっ!」
次に渡す相手の名前を言うのがルールらしい。意外と続いてしまうラリーに、もう落としてしまおうかなと思いかけた時、里奈が小春ちゃんに向けたボールが僕の方に飛んできた。そして避ける間もなくボールを返そうとして小春ちゃんと接触してしまう。
「わ、小春ちゃ……!」
「きゃあ!」
小春ちゃんがバランスを崩して後ろに倒れるのに巻き込まれて、僕も一緒になって海に沈む。よかった深い所じゃなくて。海から顔を出して小春ちゃんの無事を確認する。
「ね、猫宮くんごめん……!」
「大丈夫だよ、怪我はない?」
「うん、大丈夫。猫宮くんこそ、どこも痛くない?」
痛くないというか……、僕の上に小春ちゃんが倒れ込むように座ってて、海の中だけど太ももに小春ちゃん体重を感じてドキドキしている。
「うん。僕も平気。立てる?」
「うわごめん!重かったよね!?」
「おーい、大丈夫かあ?」
「ごめん!こはるん!」
僕は海から立ち上がって、顔にかかった前髪をかきあげる。全身濡れてしまったけど、小春ちゃんになら何をされても怒る事はない。
「へへ、濡れちゃったね。」
「そうだね。」
「せっかく海来たんだから、もっと濡れよう、よっ!」
横から里奈に水をかけられ、また顔に水がかかる。僕が猫のままだったら動物虐待になるんだけど?
「颯太もえいっ!」
「うわっ、やったな!!!」
いつのまにか水の掛け合いになっていて、何故か集中的に僕ばかり狙われた。
「どうしてっ、僕ばっか!」
「イケメンなのがムカつく!」
「不幸になれ!」
ムカつくから僕も颯太や里奈に水をかけ返す。あと海を計画した中川にもムカつくから強めに行く。
「ふふ、楽しいね?」
小春ちゃんにも水をかけられたけど、全然ムカつかなかった。むしろ遠慮しがちに水をかけてくるのが可愛い。
海から上がって羽織っていたラッシュガードが肌に張り付いて気持ち悪かったから、水を絞るために一度脱ぐ。隣で小春ちゃん達が僕を見つめてくるから穴が開くかと思った。
「猫宮筋肉ついたか?」
「それなりにね。」
体力テストで颯太に負けたのが悔しくて、僕は密かに家でトレーニングを始めていた。来年こそは全種目勝つつもりでいる。
「僕の身体に見惚れちゃった?」
「もう、そんな事言わないで!恥ずかしいから!」
小春ちゃんが少しでも僕をそういう意識を持って見てくれてたら嬉しいな。先に歩いていっちゃう小春ちゃんのうなじが赤くなってた。
僕達が木村くんと野村が待つパラソルへ行くと、2人の距離は少し近くなっていた。もしかしたら僕は気づいてしまったのかもしれない。野村の顔が赤いのは夏の暑さのせいじゃない。




