56 私と家族と猫宮くんの誕生日
『ごめん、誕生日なんだけど家でもいい?お母さんが猫宮くんの誕生日お祝いしたいって言い出して……。』
『いいの?嬉しい、楽しみにしてるね。』
きっと猫宮くんの事だから我慢してそう言ってくれたのかなって思っていたんだけど、どうやら本心でそう言ってくれてたらしい。今目の前には私の家族に囲まれて泣いている猫宮くんがいる。
「ご、ごめ……、小春ちゃんの家族にまた祝ってもらえるなんて、嬉しすぎて涙が止まらなくて……。」
「そんな泣くほどの事でもないよ!ほら、座って!お母さんのご飯すごく美味しいから!」
私は泣いてしまった猫宮くんに驚いて会話の違和感に全然気づけなかった。猫宮くんが目の前で涙を流している様子を見るのは初めてで、私はあたふたして椅子を引いて座らせる。
「こんにちは……。」
「うん、こんにちは。」
「うわ、本当にイケメンだ。」
猫宮くんを座らせると、隣に居た秋斗があいさつをした。反対の隣には私が座ってお母さんが作ってくれた料理を取り分ける。猫宮くんが何が好きとかわからないけど、男の子だからお肉料理多めでいいよね?
私が料理をお皿にとっていると、目の前に座っていたお父さんがわざとらしく咳をする。
猫宮くんが来るって知ってお父さんわざわざ有給使って休んだんだよね。お母さんのお気に入りの猫宮くんを何が何でも見ておきたかったみたい。
「あー、ごほん。秋子さんの料理はなんでも美味しいから好きなだけ食べてくれ。お誕生日おめでとう。」
「ありがとうございます、お義父さん。」
「おとっ……、うん、お義父さんか。」
気が早すぎる猫宮くんだったけど、今日は誕生日だから水を刺すのも悪い気がして何も言わなかった。この先何があるかわからないのに、お義父さんなんて……。でも、そうなったらいいな。
想像して赤くなる顔を隠しながら、猫宮くんに料理を渡す。
「小春ちゃん、ありがとう。」
「うん、たくさん食べてね。」
料理を受け取ってにっこり笑う猫宮くんの目元は少し赤くなってて、それが余計かっこよさを引き立ててる様にも見えた。
「猫宮くんだったかい?本当に顔がいいねえ。」
「いったでしょう?あーもう、私があと10年若かったら!」
「秋子さん10年若かったらどうしていたんだい?」
お母さんはああ言ってるけど、お父さんの反応をみて楽しんでいるんだと最近わかってきた。お母さんはお父さんがあたふたしている様子をみてクスクス笑っている。
「この唐揚げ、すごく美味しいよ。」
「あら本当?男の子が好きな料理がわからなかったから、秋斗の好きなもの作ってみたのよ。」
「俺もからあげ好き。」
猫宮くんがお母さんの料理を美味しそうに食べているのを見て嬉しくなる。私も唐揚げをひとつ取って口に入れる。
「猫宮くんは小春のどんな所が好きなんだ?」
「っ、ごほっ……お、お父さんやめてよそんな話!」
突然お父さんが変な事を聞くから、口に入れた唐揚げを喉に詰まらせかけてしまった。だから猫宮くんを家族に合わせるのは少し嫌だった。絶対いろんな事聞いてくるから。
「私も聞きたいわぁ。」
「お母さんまで!!」
弟以外は興味津々で猫宮くんの返答を待ってる。
「好きな所はたくさんあるんですけど、まずは可愛い所ですね。」
そして猫宮くんも意気揚々と話始める。私は恥ずかしくて耳を塞ぎたくなった。
「髪も柔らかくてさらさらで可愛いし大きめの瞳と長いまつ毛が可愛い、これはお義母さん似かな?そしてこの唇も可愛い。身長も低くて可愛いし手も小さくて可愛い。性格は面倒見がよくて、頼られたら断れない優しい所とかも好きですし、たまに抜けている所がある所も可愛くて好きです。あとは……、あ、でもこれは僕だけの秘密にしておきたいかな?」
最後に意味ありげに私の方を見てウインクをしてくる猫宮くん。その仕草も様になってて普通の人がやると、キザな行動に思えるそれも猫宮くんがすると全てかっこよく思えてしまう。
「ま、まぁ……。」
「愛だねえ。」
お母さんとお父さんは口に手を当てて顔を赤くして、おばあちゃんはニコニコ笑いながらお茶を飲む。
「兄ちゃんが姉ちゃん好きなのはわかったから、さっさと食べちゃおうぜ。ケーキもあるからよ!」
「そうだね、せっかくの美味しい料理を冷ましちゃう勿体無いからね。」
は、恥ずかしすぎる……。
微笑ましく私たちを見るお母さんとおばあちゃん。そしてお父さんは何故か涙を流している。
「猫宮くん……、小春を頼むよ……。」
「はい、一生幸せにします。」
「早くひ孫の顔が見たいわあ。」
「ねえ、おばあちゃんそれは早すぎるから!!」
私は思わず立ち上がって声を大きくしてしまう。まだ付き合いたてなのに、そんな、こ、子供とか。家族にそんな事を言われるなんて流石の猫宮くんも引いてるはず……。
「僕と小春ちゃんの子供……。」
猫宮くんは箸を止めて少し考えるように呟く。
「猫宮くん気にしなくていいから!ほら、おばあちゃん昔の人だからすぐそんな事言うんだよね!」
「絶対可愛い。」
「え?」
「僕たちの子供は絶対可愛いよ!だって小さい小春ちゃんでしょ?愛するしかないじゃん、そんなの!」
予想外の熱量に私がびっくりしてしまう。
「女の子でも、男の子でも絶対可愛い。ねえ、小春ちゃん早くつくーー」
「猫宮くんストップ!それ以上はやめて!」
何を言おうとしているのか分かってしまって、私は猫宮くんの口を手で塞ぐ。家族の前でそんな話は生々しすぎる。口元を塞がれてても猫宮くんの目元がにんまりしてて、上機嫌なのが分かる。
「あー、まあ、とりあえず、2人とも高校は卒業しなさい。」
「将来が楽しみねえ!」
「私ももっと長生きしないとねえ。」
いたたまれない気持ちになって私は座って料理を口に含む。恥ずかしすぎて味がしなかった。
料理を食べた後はみんなでケーキを出して、誕生日の歌を歌う。そしてまた猫宮くんは涙を流してしまった。意外と涙もろい人な事に気づく。
「おめでとう猫宮くん。」
蝋燭を吹き消した後に泣いてる猫宮くんに声をかけた。
「僕、生まれてきてよかった。」
「ふふ、大袈裟だよ。」
ぽろぽろ涙をこぼす猫宮くんの背中をゆっくりあやすように撫でてあげた。




