44 私の小さなランプ
目を覚ますと日はすっかり落ちて、サイドテーブルの上に置いてある小さなランプだけが光っていた。
先ほどの猫宮くんの言葉を思い出す。
「僕は運命の人は小春ちゃんだって確信しているんだ。君がなんと言おうとも。覚えてなくてもいい。けど、君は絶対に僕を忘れないし。形が変わっても僕を好きでいてくれる。最初から全部好きって気持ちは君だけ、小春ちゃんにだけに届けていたつもりだよ?伝わっていてくれてよかった。」
一言一句思い出せてしまう自分が笑える。
昨日はあんなに悩んで、罪悪感でいっぱいだった心が今じゃ猫宮くんの言葉で幸せに包まれている。
猫宮くんの言う通りなら、コハルは私で間違い無くて、ただ自分が分かっていないだけ?
寝起きで回らない頭で考えたけど無駄だった。
そしてふと、猫宮くんが私の猫のひげコレクションを知っていた事を思い出す。
わざわざ宝箱を買って来て大切にしまってあるものだった。
なんで知っていたんだろう。里奈と颯太には話してない事だし……。
「なんでだろうね?僕が小春ちゃんのストーカーだからかもしれない。」
猫宮くんがそう言って、聞き返そうとしたらキスをされて誤魔化された。
優しいキスを思い出して、また熱があがってきた気がする。
たとえストーカーでも、猫宮くんなら、許しちゃうかも。
恋は盲目とはよく言ったもので、私は猫宮くんには夢中で、常識や理性を失いかけているのかもしれない。
明日は会いたいな。
そのためには、しっかりご飯を食べて薬を飲んでたくさん寝よう。
私はベッドから起き上がり、何か胃に入れる物を探してキッチンへ向かった。
「あら、もう大丈夫なの?」
「うん。すごく楽になった。」
リビングを覗くとお母さんとお父さんがテレビを一緒に見ていた。
「小春!か、彼氏が出来たんだって!?」
「しかもすごーくかっこいいの。お母さんときめいちゃった!」
お母さんが両手でほんのり染まる頬を抑えて続ける。
「背も高くて、しっかりしてて、王子様みたいだったのよ?」
「大丈夫か小春!?騙されてるんじゃないか!?」
確かに私は騙されてるのかもしれない。
私だっていまだに猫宮くんが私の事を好きなんて信じられない。
でも、わかんないけど多分、本当に好きでいてくれてる、はず。
「心配しすぎだよ。猫宮くんはそんな人じゃないよ。」
って思いたい。
お父さんがでもなあ、と続けて、あまりいい反応を見せてくれない反面、
お母さんは猫宮くんを気に入っている様子だった。
「でもなんかあれね、あの子見てるとレオを思い出すわ。」
「なんで?」
「イケメンだからかしら?」
確かにレオもかっこよかったけど……。
お母さんが猫宮くんの話ばかりするから、お父さんが拗ねてしまった。
「秋子さん……。そんなにその猫宮くんの事が好きなの……?」
「私が愛しているのは春人さんだけよ?」
親のそういう雰囲気を見るのは誰だって気まずい。
私はなるべく視線をそっちに向けないようにリビングと繋がっているキッチンへ向かう。
「あ、小春、お腹空いたの?軽く作ってあげるわよ!」
私が冷蔵庫を開けると、お母さんが来てくれた。
「お父さんはいいの?」
「うん、春人さんは大人だから。ちょっとぐらい我慢できるわよ。ね、春人さん?」
ここからだとソファに座ってテレビを見ているお父さんの顔はわからないけど、腕を上げて手を振っていた。
「何なら食べれる?お粥?おうどん?おにぎりとか作る?」
「おにぎり食べたいかも。」
そう言うとお母さんは少し塩の聞いた梅のおにぎりを作ってくれた。
おにぎりを食べて、一緒に出してもらった薬を飲む。
「ありがとう、美味しかった。」
「ちゃんと寝て治すのよ。明日も辛かったらお休みしていいから。」
「明日は行きたいから、頑張って治す。」
「ふふ、猫宮くんに会いたいもんね。」
「そんなんじゃないし……。」
そうなんだけど、肯定するのは恥ずかしかったから否定してしまう。
きっと全てお見通しなんだろうけど。
「寝るね。おやすみ。」
早く寝て体調を万全にしよう。
私は部屋に戻り寝る準備を整えた。
サイドテーブルの小さいライトをつけて、電気を消す。
そして眠りにつく前にスマホの通知を見ると、朝から何件もメッセージが届いていた。
主に里奈と猫宮くん、あとは颯太。
『こはるん大丈夫!?心配だよ!今日家行くね!』
『猫宮くんも行くっていいよね!?』
『寝てる?おーい!』
『起きたら連絡してー!』
このあとも家に来るまで、1時間毎ぐらいにメッセージが届いてて笑ってしまう。
猫宮くんのは……。
『小春ちゃん今日は違う電車?』
『体調悪いって聞いたけど、大丈夫?お見舞い行こうか?』
『佐伯さんとお見舞い行くね。』
猫宮くんっぽい文章だった。
颯太からもメッセージが届いてる。
『大丈夫か?』
その一言だけだったけど、それも颯太っぽい感じがした。
颯太のメッセージには猫のスタンプを、里奈と猫宮くんには
『今日はありがとう。また明日ね。』
そう打って、私は画面を閉じた。
昨日と違って今日はゆっくり眠る事が出来た。
何も考える事もなく、深い眠りに自然と落ちていった。




