40 私と初めてのキス(2)
中川さんから作戦を聞いて、私は実行に移す。
……つもりでいる。
部活終わり、帰る前に立ち止まって猫宮くんに伝える。
「ごめん猫宮くん、教室に忘れ物しちゃった、みたい。」
「そうなの?一緒に行くよ。」
中川さんの作戦通り、猫宮くんはついてきてくれる。
こう言うのは、ムードが大事らしい。誰もいない教室で、2人きりになる。
「何を忘れちゃったの?」
「あ、……筆箱かな?」
「ふーん?」
これからしようとしている事を考えて心臓の鼓動が早くなって、顔が熱くなる。
ちょうど廊下は夕陽が照らしてくれてるから、顔が赤いのはバレないと思う。
あっという間に教室に着いちゃって、私は自分の席から筆箱を取ったフリをした。
「あった、ありがとう。」
「うん、じゃあ帰ろっか。」
あぁ、行動に移す機会がない。
中川さんの作戦ではここら辺でいい雰囲気になるはずだからぶちゅっと行ける予定だった。
全然いい雰囲気とかわかんないんだけど!
どうにかして雰囲気を作りたくて、とりあえず猫宮くんを見上げてみる。
夕陽に照らされた猫宮くんはゆっくり瞬きをしてどうしたの?と首を傾げてる。
あぁ、いざ本人を前にすると逆に冷静になって何をしようとしていたんだと恥ずかしくなる。
猫宮くんが今まで私に何もしてこなかったのは、したい気持ちになれなかっただけかもしれない。
もし私が行動を起こして引かれたら多分一生立ち直れない。
今日は諦めて帰ろう。
「あ、そういえば僕もノート持って帰らなきゃ。」
猫宮くんが自分の席に座って、おいでと手招きしてくる。
どうしたんだろう。
椅子に座っている猫宮くんの前に立つ。
「小春ちゃん、何を企んでたか教えてくれる?筆箱忘れてなかったでしょ?」
「えっ、あ……、わ、忘れたと思ったら、鞄に入ってて……。」
「そうなんだ?」
嘘がバレてた恥ずかしさと、猫宮くんの整った顔で見つめられてる恥ずかしさで動悸が激しくなる。
「放課後、誰もいない教室で何かされるのかなって期待してたんだけどな。」
ちょっと拗ねたように目を伏せる猫宮くん。
私はどうしたらいいんだろう。このまま何事もなかったかのように帰るか、それとも白状してしまうか。
「あの、ごめん。全部嘘で、猫宮くんともうちょっと一緒に居たかったの。」
嘘に嘘を重ねてしまった。
一緒に居たかったのは嘘じゃないけど、本当はキスしようとしてましたなんて恥ずかしくて言えなかった。
猫宮くんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの優しい顔に戻った。
「うん、僕もそう思ってた。」
嬉しそうに目を細めて笑う猫宮くん。
茶色の髪が夕陽に反射してキラキラしてとても綺麗だった。
「ねえ、ハグしていい?」
「えっ?」
突然聞かれてびっくりして声が上擦ってしまった。
「前は僕が勝手に抱きついちゃったし、次はちゃんと許可取らないとって思ってて。」
「そんなの、別に、許可取らなくてもいいよ。」
「じゃあ、遠慮なく。」
猫宮くんは立ち上がって、私の手を取って立たせてくれた。
そして優しく抱きしめる。
「はぁ、小春ちゃん好きだよ。」
「私も好き。」
吐息混じりに耳元で囁かれて少しくすぐったい。
私は恐る恐る猫宮くんの背中に手を回して抱きついてみる。
細いけど意外とがっしりとしていて、いつも里奈が抱きついてくる感じと全く違ってた。
「ずっとこうしたかった。」
そう言って猫宮くんは腕の力を少し強める。
「ずっと、小春ちゃんに触れたかったんだ。」
猫宮くんが私への想いを話してくれてるのに、私はまた猫宮くんに任せちゃってる。
本当は私もくっついたりしたかったけど、自分からは恥ずかしくて言えなかった。
私も少しだけ正直にならなきゃ。
「あのね、本当は。私、猫宮くんに下心を持ってここに呼んだの。」
「ん?どういうこと?」
「その、実は……、き、キス、しようと、思っ、て……。」
恥ずかしすぎて言葉が尻すぼみになっていく。
「していいの!?」
ばっと勢いよく体を離され、猫宮くんが私と目を合わせる。
私も驚いたけど、猫宮くんはもっと驚いた顔をしていた。
「え、う、うん。」
「あ、ごめん。ちょっと、落ち着かせて。」
ゆっくり大きく深呼吸をして、猫宮くんは私に向き合う。
手を置かれてる肩がじんわり熱を持つ。
「その、……嫌じゃない?」
「私がしたいって言ったんだよ?」
夕日が当たって分からないけど、猫宮くんの頬が少し赤くなっているように見えた。
「僕初めてだから、下手だったらごめんね。」
「ふふ、私も初めてだから下手とか分かんないよ。」
珍しく不安そうな猫宮くんが可愛くて笑ってしまった。
今日は猫宮くんの色んな顔が見れてたのしい。
「恥ずかしいからあまり笑わないで。」
手が肩を離れ、両手で私の顔を優しく掴む。
猫宮くんの顔が近づいてきて自然と目を閉じた。
唇が軽く触れて離れた。
目を開けてみるとまだ唇が触れそうなぐらい近くに猫宮くんの顔があって、目が合って、次は私からキスをした。
小さく音を立ててながら離れる唇が少しだけ名残惜しかった。
また先ほどよりも強い力で抱きしめられる。
「小春ちゃん好き、大好き。もう離れたくない、離したくない。ずっとずっと好きだったし、これからも一生好き。愛してる。」
泣いてる……?
耳元で囁かれる声はとても小さく、震えていた。
私たちはそのまま下校のチャイムがなるまで抱き合っていた。




