36 私と変わらない関係(2)
私が声をかけると猫宮くんはばっと起き上がり、私の方を見た。
その顔はちょっとびっくりしていた。
「小春ちゃん?よくここが分かったね?」
「うん、野村さんが教えてくれた。邪魔だった?」
「邪魔じゃないよ。こっちおいで?」
後ろ手で扉を閉めて、猫宮くんの隣に体育座りで座る。
「いつもここに居るの?」
「最近はそうだね。ここなら誰もこないし。」
「人気者って大変そうだね。」
休み時間の度周りに人が集まって、廊下を歩けば注目の的になる。
それだけ猫宮くんはみんなにも魅力的に思われてる。
そんなすごい人がどうして私なんかを……。もう何百回考えたかも分からない疑問。
「はぁ、おかげで僕は小春ちゃんとも満足に話せない。寂しいんだよ?」
「じゃあ、もっと私との時間作ってよ。」
思わず口から出た言葉だった。
こんな事いうつもりじゃなかったのに……。
猫宮くんと見ると目を丸くして私を見ていた。
「あ、ごめん。朝とか駅で待っててくれるし、部活も委員会も合わせてもらったのに……。」
猫宮くんは十分私と過ごす時間を作ろうとしてくれていた。
だけど、休み時間に他の女子と仲良くしてる猫宮くんを見るのが嫌だった。
その時間も私の時間にしてほしいって、思うただのわがままだった。
「猫宮くん、怒った?」
何も言わない猫宮くんに不安を感じて聞いてみる。
「あ、いや、怒ってないよ!ただ、小春ちゃんが可愛くて。」
「なんでそうなるのっ!」
「僕とあまり過ごせなくて拗ねてるの可愛い。」
「拗ねてない!」
猫宮くんが可愛い可愛いって言ってくるからすごく恥ずかしくなる。
熱くなった頬を両手で押さえて大きく息を吐く。
「本当に拗ねてない。けど、猫宮くん好きとか寂しいとかいうわりに、他の人たちと話すし、私に連絡先も聞いてくれないんだもん。」
「ふふ、ごめんね?小春ちゃんあまり注目されるの好きそうじゃなかったから。会話を切り上げてそっちに行くと目立つかなって。」
猫宮くんが私の髪を優しく触って言う。
「気にしないならもっと傍に居たいな。」
「気にしないからもっと一緒にいて。」
「分かった。…他には何かして欲しい事はある?」
私の髪を撫でる手が優しくてドキドキする。
優しくゆっくり撫でられて、甘く囁くような声で聞いてくるからつい甘えてなんでも言ってしまう。
「もっと猫宮くんの事知りたい。」
「僕の事?」
「好きな食べ物とか、休みの日何してるとか、連絡先も知らない。」
私の事は聞いてくるくせにあまり自分の事を喋らないもの気になっていた。
何も知らないのに私は猫宮くんのストレートな好意に絆されて好きになってしまった。
そんなんじゃなくて、ちゃんと猫宮くんの事を知ってその部分も好きになりたかった。
「なんでも教えてあげる。僕はマグロのお刺身が好きだよ?」
「ふっ」
「ひどいなあ、なんで笑うの?」
突然マグロのお刺身が好きだなんて似合わない事を言われたから笑ってしまった。
なんかもっとオシャレな食べ物が好きだと思った。
「小春ちゃんはチョコレートが好きでしょ?」
「うん、なんで知ってるの?」
「僕は小春ちゃんの事結構知ってるんだよ?」
前から思ってたけど、猫宮くんは私の事はなんでも知っている。
暗い所が苦手なのも颯太と里奈ぐらいしか知らないはずなんだけど。
「本当にストーカーなの?」
「ふふ、そうかもしれない。」
冗談っぽく笑う猫宮くんに釣られて私も笑ってしまう。
色んな事を聞いてみた。
休みの日は寝ている事が多いし、運動は嫌いだけど出来るだけ。
本を読む事が好きで、家に帰って毎日本を読んでいる事。
連絡先も聞いた。教えてもらう時に登録してある連絡先が見えてしまったんだけど、3人しかいなかった。
「猫宮くん、玲央って名前なんだね。」
登録する際にフルネームを入力して気づく。
「そうだよ?」
「私が前に飼ってた猫も、レオって名前なの。」
少し前まではレオが居なくなったペットロスで私は塞ぎ込んでいたのに、
最近はそんな事なく、毎日を前向きに過ごす事ができている。
「今はもう居ないんだけど、すごくかっこよくて可愛くて大好きだったの。」
「そうなんだ。」
猫宮くんが優しく微笑みながら話を聞いてくれる。
レオが居たら猫宮くんに合わせてあげたかったな。
「悲しかった?」
「うん、すごく悲しかった。生きてる意味ないなって思っちゃうぐらい。」
大袈裟だって言われるかもしれないけど、私はそのぐらいレオが大好きだった。
「そっか、レオは幸せだね。そんなに想って貰えてて。」
「そうかな……?」
「うん、幸せだなって思うよ。」
「?」
猫宮くんが意味のわからない事を言うから首を傾げる。
「そろそろ行こっか。」
「あ、もうそんな時間?」
予鈴がなってあと5分ほどで午後の授業が始まる事に気づく。
猫宮くんと過ごすと時間が過ぎるのはあっという間だった。
猫宮くんが立ち上がって私に手を差し出して、立ち上がるのを手伝ってくれた。
「小春ちゃん、大好きだよ。」
突然の告白に心の準備ができてなくて心臓が飛び跳ねた。
「わ、……私も好き。」
「うん、知ってる。」
「意地悪。」
猫宮くんは満足そうに笑って屋上の扉を開けてくれた。
結局私たちの関係は付き合っている事になるのか、そう言う事は聞けなかったけど
好きな気持ちは同じで安心した。




