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オカルト研究部は顧問が犯罪者となったため、廃部の危機に瀕していた。
それは顧問だった樫美夜亨がただひたすらに悪いのだが、その動機がオカルト研究部員として活動している最中に生まれたものであるため、オカルトという迷信を信じ、生徒たちが犯罪に手を染めないように取り組みたい、という学校側の主張はあまりにも真っ当すぎた。反論の余地がない。
樫美夜の代わりとして、非常勤講師の蓮沼がオカルト研究部の顧問に就いたが、それでも春にはオカルト研究部を廃部にするという。
元々幽霊部員しかおらず、活動記録のなかった部活動が廃部になる、というのも当たり前ではあった。これまで、部費として、幽霊部員たちがきちんと納めるものを納めていたため成り立っており、芥田莉栗鼠という歩く都市伝説が在籍していることで、大変話題になった部活動だ。
年度が明ければ、その芥田も受験生となる。芥田は大学に興味はなかったが、生まれられなかった妹の瑪莉依の分まで人生を謳歌することを目的に生きているため、大学に行くことにしていた。
芥田が生きている限り、瑪莉依は傍にいて、芥田のことを見守っている。芥田が体験したことを共有できる。だから瑪莉依が学校の怪談にされようと、都市伝説と謳われようと、しばらくはこのまま二人で楽しく過ごそうと考えている。
ただ、もう一つ、やっておきたいことがあった。
視聴覚室に集められたのは、ざっと五十人は超える生徒たち。何故集められたのか、と戸惑っている様子だ。
芥田は呆れた。自分も人のことは言えないが、これだけの人数が在籍しているとなると、オカルト研究部を廃部にしようにも難しい事情が伴ってくることだろう。
それでも、廃部になるのは避けられない。そのため、今後の活動について、芥田はあることを考えた。芥田は部長ではないけれど。
というか全員が幽霊部員なのでもはや誰が部長なのか、誰も知らない。「オカルト研究部部長」というもの自体がもはや怪奇である。
「皆さん、お揃いですか。点呼は取りませんので、話を聞いてください」
教壇に上がった芥田の姿に生徒たちはざわざわとする。芥田はもはやメリーさん関係なく有名人だ。顧問に襲われ、死にかけた生徒であり、桜の木の下に埋まっている白骨死体を見つけた張本人である。
それにクォーター日本人というその容姿も目を引いた。調べたところ、紫目自体が世界的にもかなり珍しいらしく、多様性を受け入れるこの国の中でも特に目を惹くらしい。
瑪莉依も生きていたら、同じ色だったのだろうか、と思いつつ、芥田は本題を切り出す。
「皆さんにお集まりいただいたのは他でもない、このオカルト研究部についてのことです。オカルト研究部元顧問の樫美夜先生が警察に捕まったことはご存知のことと思います。その犯行動機がオカルトへの熱心な信仰からくるものだと発覚し、学校は犯罪に繋がる可能性のある部活動として、オカルト研究部を今年度いっぱいで廃部にすることを宣言しました」
これはもはや学校中の生徒の知るところであり、今更動揺はない。集められた形式上の部員たちも、元はといえば幽霊部員である。活動に参加していない部活動が廃部になることに、さして興味もないようだ。
この学校は部活動に必ず参加しなければならないというルールはない。つまり、わざわざ部活に所属する必要はないのだ。それでも幽霊部員としてオカルト研究部に籍を置くのは、各々様々な理由がある。例えば、部活動に入っていないと、親が五月蝿いとか。
この学校のオカルト研究部は、蓮沼や樫美夜の功績があり、界隈では有名な部活動だ。記念入部というのもあるだろう。
「けれど、部活動が廃部になるのは樫美夜先生だけが原因ではありません。幽霊部員があまりにも多く、活動実績が少ないため、廃部は何年も前からずっと検討されてきたことでした」
その言葉に、部員たちはしん、と静まり返る。気まずさを覚えたのだろう。
自分たちがこの歴史ある部活動に終止符を打ってしまうのだ、と。
芥田も幽霊部員だったため、そのことを責めるつもりはない。
「決まったことはどうしようもないので、受け入れるしかありません。今回の場合、事が事ですし。でも、廃部前に、幽霊部員だったみんなで、最後の活動実績を残しませんか?」
芥田の提案について出た言葉は様々だ。今更活動実績を作っても、という声や、思い出作りにはいいんじゃないか、という声、そもそも何故芥田が取り仕切るのか、という声。
どの意見も一理ある。これは芥田がただ単にやりたいからやるだけだ。独り善がりもいいところだろう。
「オカルト研究部最後の活動として、文集を作りましょう。どんなに短くてもいいです。オカルトに纏わること、日常の些細なコワバナ、どこかで聞いた怖い話。こんなに人数がいるんですから、どんなに少ししか書けなくとも、みんな合わせれば、それなりの量になるはずです。文集を作ったら、一冊は図書室に置いてもらいます。文集を読みたいという希望者がいれば、その分刷ります。どうでしょうか?」
はーい、とのんびりした声の生徒が手を挙げる。
「芥田先輩のこととか書いてもいいですかー?」
本人を前に、ある意味失礼な発言だが、芥田は嬉しそうに笑った。
「もちろん」
やる気があるのはいいことだ。
秋から始め、二月までののんびりとした期間中に、それなりの文章が集まり、それを編集して、オカルト研究部の潤沢な部費で、印刷所に依頼し、刷ってもらった。
オカルト研究部の幽霊部員日誌、というタイトルで刷ったそれは、部員たちのみならず、あらゆる生徒に受け、オカルト研究部はその存在を惜しまれながら、四月、廃部となった。




