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 対話の終わりを告げる一閃。

 それを前のめりで避け、樫美夜は後ろに振り向く。そこには金髪の美少女が立っていた。顔が中性的で、目はまるで死を司るような妖しい紫色の揺らめきを宿している。

「僕はまだ、愛桜クンと話しているのだが?」

「愛桜ちゃんなんていないデショ?」

 少し幼げな声が、悪意なく悪意に満ちた言葉を放つ。

「だって、あなたが殺したんだもの」

 後退ると、がしゃりと足元の髑髏たちが音を鳴らす。私はここにいるよ、と叫んでいるように、妙に耳につく音だった。

 金髪の少女はずい、と近づく。

「どーお? オカルト狂いのセンパイ。芥田莉栗鼠のメリーさんに巻き込まれた気分は?」

「迷惑だよ。そもそも何故僕が巻き込まれなければならないんだ」

「あらま!」

 メリーが大袈裟なまでに跳ねて驚く。彼女のブーツのヒールがめり込み、髑髏が一つ、ぐしゃりと潰れた。メリーはそれを気にする様子はない。

 それからメリーはお腹を抱えて笑い出す。おかしいおかしい、と。

「あなた、面白いコトを言うのネ。巻き込んだのはあなたの方ヨ? あなたが愛桜ちゃんを殺さなければ、莉栗鼠が遺体を見つけることもなかった。あなたはどこまでも独り善がりな理由で愛桜ちゃんを殺して埋めて、また独り善がりな理由で莉栗鼠まで殺そうとしているの」

 ゆうやけこやけが鳴り響く中、メリーは大鎌をかちゃりと構える。その凶刃は樫美夜に向かって夕焼けを返す。

 全ては樫美夜の思い込みが原因である。桜の木の下に死体が埋まっていたとして、それが七不思議の七番目だとして、どうして殺されるというのだろうか。誰かが殺されたこと、もしくは死体を遺棄されたことは、発見したら通報すべきこと。殺すこと、遺棄することは、罰を受けるべき司法で定められた犯罪だ。

 何故七不思議の七番目を知ったら死ぬ、なんて妄言を信じて、司法に沿わなかったのだろう。同じ罪を上塗りして、隠蔽しようだなんて思ったのだろう。とてもまともな人間の考えることではない。

 芥田がそうしたように、警察に通報するのが普通なのだ。まあ、学校の敷地内なら、教師の誰かに報告してからでも良いが。

 ただ、報告した教師が犯人だったなら世話ない。

「わたしは莉栗鼠を守るために存在するの。わたしは莉栗鼠の半身だから」

「滑稽だね。双子における半身というのは、一卵性双生児のことを言うものだ。君たちは性別が違う見た目がそっくりなのは、君が生まれられなかったから、片割れを模倣するしかなかったからだろう?」

「あら、わからないわヨ? ごくごく稀だケド、一卵性双生児の男女だって存在するわ。それにネ、もう死んだわたしが男か女かなんて、とっても些細な問題だと思わない?」

 はったりである。芥田とメリーは双子だが、メリーだけ死産だった。メリーが女だったと判別できたから、女の名前をつけたのだろう。

 だが、異性だろうが、同性だろうが、双子の片割れが死して尚、片割れを守るために概念として存在しているのは紛れもない事実である。

「わたしがいる限り、莉栗鼠は殺せないわヨ?」

 メリーが不敵に微笑む。が、樫美夜はそれを嘲笑った。

「君に僕は切れないよ。忘れたのかい?」

 樫美夜が手を上げると、彼の影からぬうっと人の形をしたものが立ち上る。

 メリーは顔をしかめた。

「それが影の守り人……」

「そう、視聴覚室の怪異。別名怪異殺し。怪異の君を殺すことができる怪異だ。前夜祭に妹の屍を供えれば、二人一緒で寂しくないよ?」

 影の守り人がゆら、と揺らめくと、メリーと同じく死神のものらしい鎌が現れる。メリーはこくりと固唾を飲んだ。

 エンドレスループの何度目か。ゆうやけこやけの最初の音を合図に、二人の死神が互いに飛びかかる。きん、きん、と金属のぶつかり合う音が夕暮れの中に響いた。

 メリーは鎌で樫美夜の首を落とそうとするが、その鎌を影の守り人に絡め取られる。そのまま鎌を取り落とすわけにはいかないため、メリーは鎌ごと体を回転させて、影の守り人の鎌から外れる。が、引き換えに、樫美夜とは随分間合いが空いてしまった。

 メリーは軽く舌打ちをし、また迫ろうとするが、気づいたときにはもう影の守り人が眼前に迫っていた。影の守り人は鎌を横に薙ぎ、メリーの首を狙う。メリーは仰け反って避けた。

 ふむ、とメリーは理解する。どうやら影の守り人は視聴覚室の外ではメリーの能力の全てを封じることができないらしい。メリーの能力とは、このゆうやけこやけが鳴り響く、誰も死なない空間そのものだ。死なない空間に招いた人間をメリーが直接料理する、といった具合である。怪異殺しとしてメリーの能力を封じたいなら、この空間ごと影の守り人の能力で閉じてしまえばいい。だが、それはできないようだ。

 視聴覚室の外では、と限定したが、これはあくまで推測の一つだ。最も可能性の高い「できない理由」はここが屋外であること。

 屋外というのは屋内と違って、閉じ込めるための外郭がない。愛桜から聞いた話だと、影の守り人はかつて、校舎中のどこにでも出たという。だが、屋外、例えばグラウンドに出たという話はなかった。愛桜という怪異に影の守り人が効かないのも、土の中に既に閉じ込められているから、ではなく、怪異の本体が桜で、桜は屋外にあるから、かもしれない。

 視聴覚室で封じられた通り、メリーの能力が作用していても、屋内なら、影の守り人はメリーの能力を簡単に殺せた。今そうしないのは、閉じ込めることができないからだ。そうなると、怪異本体であるメリーを殺すというのが正しい選択になる。

 メリーは概念のようなものだから、殺してもその場しのぎのような気はするが、もしかしたら、影の守り人はメリーという概念をも殺せるのかもしれない。

 芥田のためにも、殺されてやるわけにはいかなかった。

 だが、影の守り人の動きは鋭く、速い。おそらく、情景が夕方で、影が長く伸びる時間帯だからだ。その点では相性が悪いだろう。

 だが、鎌での戦闘技巧なら、メリーだって負けない。

 影の守り人が縦に下ろした鎌を皮一枚で避け、メリーは影の守り人を横薙ぎにする。影に鎌の先端が刺さった。分の悪そうな賭けだったが、勝ったことに変わりはない。メリーはグリップを握りしめ、突き刺さった先端を軸にぐるん、と影の守り人の後ろに回る。

 影の守り人の背後を取るのが目的ではない。メリーの目的は最初からずっと樫美夜だ。

 樫美夜が正面に来ると、メリーは鎌から手を放した。樫美夜は予想外だったようで、目を見開く。

 メリーはその顔面にドロップキックを決めた。

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