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 らーんらららららららららららーん……

 正常なゆうやけこやけが聞こえて、芥田ははっとする。

 目を開けると、頭上から花びらがひらりと落ちてきた。それは淡く色づいた花の色。日の傾きが早くなってきた秋に狂い咲きする花。

 あの人の名前を叫びたかったが、夢のような非現実の世界のことを覚えている。芥田は木の根に触れようとして、立ち上がりかけて気づく。

 自分は今、何に手をついている?

 それは白く丸いものだった。土から露出した何か。石でもない。石膏でもない。見たことはないけれど、知っているもの。

 芥田は確証を得るため、少し掘った。するとその白い球状のものには落ち窪んだ穴があり──

「莉栗鼠!」

 瑪莉依が険しい声を出した。そこに悠々と歩み寄ってくる人物に気づく。

 黒縁の眼鏡。眼鏡のイケメンは女子に需要があり、この日本史教師は大変に人気で、人を避けがちな芥田も知っていた。

「樫美夜先生」

「やあ、芥田クン」

 爽やかで胡散臭い笑みを湛える、スーツ姿の人物。芥田は白い頭蓋骨に手をかけたまま、その教師を見上げた。

 芥田たちは愛桜が樫美夜を惹き付けたことにより緩んだ空間から一足先に抜け出していた。愛桜だって、滅多なことではもう先輩に会えなあのだ。積もる話もあるだろう、という気遣いだった。

 愛桜が時間稼ぎをしてくれるかどうかにはあまり期待していなかったが、少しは時間を稼いでくれたようでよかった。おかげで約束通り、愛桜を見つけてやることができた。

 あとは芥田がどうにかするしかない。

「先生、桜の下に死体が埋まっていたんです」

「あはは、幽霊部員なのに、オカルト研究部みたいなことを言って、どうしたの?」

「別にいいじゃないですか。たまに幽霊部員がちゃんと部活動するなんて、褒められこそすれど、責められるようなことではないと思いますが?」

「そう……そう、だね」

 樫美夜は笑みを湛えたままだが、その表情はどこか空っぽだ。きっと、愛桜のことを思い出しているのだろう。思い出さざるを得ない。芥田が手をかけている頭蓋骨の持ち主だろうから。

 樫美夜が手にかけた、可愛い後輩なのだから。

「かつてオカルト研究部は廃部の危機にあったと聞きました。それを救ったのは当時唯一の活動部員であった樫美夜先生、あなただと、記録に残っています。化学研究部に協力を要請して、狂い咲き桜の土の成分を分析したんですってね。それで、掘り返さずとも桜の下に死体が埋まっていることを解明した。それでオカルト研究部は廃部を免れたと聞いています」

「そうだよ。よくわかったね」

「でもそれは、もう一人いた部員のおかげだったんじゃないですか?」

 樫美夜が黙る。芥田は続けた。

「あなたは唯一の実働後輩部員を殺害し、土に埋めた。その後輩は何も出て来なくてもいいように、土を避けていた。そこからあなたは頭を回し、雨天のため掘らなかったことにした。土の採取だけして、全て自分の功績にしたんですよ」

「別に土を採取した後の行動は、全て僕の行動だから、間違っていないじゃないか」

「それならどうして、後輩の家が火事になったとき、後輩が見つからず、死亡認定されたとき、否定しなかったんですか? その方が都合がよかったからでしょう?」

「愛桜クンのためだったんだ!!」

 樫美夜が叫ぶ。

「愛桜クンが、家にいるのは憂鬱だと言っていた。あの朝も親のせいで遅刻したと。愛桜クンが来る前に、掘り返して、白骨死体を見つけて、これを愛桜クンまで見つけたら、僕と愛桜クンの二人が殺されてしまう。だから、僕は愛桜クンを殺して、怪異にしてあげたんだ!」

 芥田は樫美夜に嫌悪の表情を向け、それからすっと真顔になる。小さく、瑪莉依の名前を呼んだ。

「ふふ、バッチリよ!」

『なんだね、今の音声は!?』

 スピーカーモードになった芥田のスマホから男の声がする。樫美夜はさっと顔色を変えた。

 芥田はかまうことなく、スマホに向かって話しかける。

「もしもし、警察ですか? 学校の木の下で白骨死体を見つけて、警察に電話したら犯人とおぼしき人が襲いかかってきて、助けてください!」

「芥田クン、君……!」

 樫美夜が何か言う前に、その喉笛に刃がすらりと添えられる。

 瑪莉依が樫美夜の後ろから、鎌を突きつけていた。その刃は今にも首を刈ろうとしている。

 瑪莉依は得意げに笑う。

「便利でしょう? 怪異って。見えなくなることができるんだもの。莉栗鼠のスマホのロックパスだってわたしは知っているし、莉栗鼠の側にいたら、一般的な社会知識くらいつくのよ? ケーサツは110番、とかネ」

『連絡をありがとう。今すぐ行くから、学校の先生に助けを求めるんだ!』

「マッ! その学校の先生が犯人なのだケド」

 くすくすと笑う瑪莉依に樫美夜は不愉快そうな目を向ける。

「別に僕はここからとんずらすることもできるんだけど」

「そんなこと仰いなさんな。愛桜ちゃんとおんなじくらいのオカルト狂いなら、オカルトに命の一つや二つ、かけてご覧なさいな」

 瑪莉依はそう告げると、自分と樫美夜のいる空間を鎌で薙いだ。樫美夜が飛び退こうとするが、何者かに突き飛ばされる。

 耳元で瑪莉依が囁いた。

「トクベツに、わたしの世界を案内してあげる。セーンパイ♪」

「それじゃあ、いってらっしゃい。先輩」

 もう一つの声に桜の方を見ると。

 愛桜が満面の笑みで手を振っていた。

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